いただきます

………ッッッ!?なんだこの痛み…?

左肩と左頬あたりから激痛が走り自分が今まで眠りについてたことに気づく


目にしたことのない天井、周りを見渡したいが体を動かすと

激痛が走るのであまり動けない

とりあえず痛くない方向の右側を見てみると

窓があり、外はよく晴れている


窓?


俺たちがいた場所は洞穴でこんな窓みたいなものなんてなかった

よく見ればここは建物の中で、ベッドに枕、布団まである


人工的な建築物と生活用品があるから一瞬前の世界に戻ったのかと錯覚したが

窓などは俺がいた世界のものより古い作りなのはわかった


もっと周りを見渡そうと痛みを我慢し左に向こうとしたら扉がガチャっと開く


白い髪に白い立ち耳、俺がよく知る人物が立っていて前の世界ではなく

まだ異世界にいるんだと確信ができた

その人物は目が合うと持っていたタオルを落とし

驚いた表情で勢いよく駆け寄ってきて……


って待って待って待て待て待て待て


カーネ「シアンが起きたああああああ!!!!!」

シアン「ぐぅッッッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


激痛

怪我人に思い切り飛びついてくる人がいるか!しかも痛めている左半身に思い切り手を回し抱きしめてきたので声にならないくらい痛かった

カーネのワンコ属性(属性というか犬の獣人だが)は可愛らしいと思っていたが

こういう時は遠慮して欲しかった



カーネ「おっほん」

流石に嬉しさのあまり考えなしに行動したことを反省したのか咳払いをし、仕切り直そうとしてる


カーネ「おはようシアン」

シアン「……おはようお母さん」

カーネ「何日くらい眠ってたかわかる?」


ここがどこかもわかってない状態だ

日にちの推測なんて立てられないから全くわからない


カーネ「シアンはね…二日も寝たきりだったんだよ?」

シアン「二日…?」

たった二日?と一瞬思ったけど

生命維持装置もなさそうなこの異世界で長く意識失ってたら目を覚まさずに亡くなってた可能性もある

ドラマや漫画では何日も昏睡状態なんてよくある展開だけど二日程度で意識が戻ったのは幸いか


よく見たらカーネの目は泣いていたのか目尻は赤く、それに目の下にはくまもできていた

寝ずに看病していてくれたんだろう

たくさんの心配をかけて申し訳ないことをしてしまった


シアン「お母さん…ごめんなさい」

体が痛くて頭はうまく下げれないが精一杯の謝罪をする


カーネ「シアン…シアンがしたことはとても危険で、お母さんはとても肝が冷えました。そうするしかなかったとはいえ息子が死ぬかもしれないのに落ち着いていられる母親なんていないよ」


それはそうだ。特にカーネは愛情深い人だから


カーネ「だけど、そのおかげでみんながこの村まで辿り着けたのも事実だから

お母さんはそれを誇りにも思う」

痛めてない方の頬を撫でられる

その撫でる手の優しさで母親からどれだけ愛されてるのかがわかり、涙が出てくる


カーネ「だけど」

ん?

カーネ「今後もああいうことを続けるのは厳禁ね?」

さっきまで優しかった手つきが変わり、指で頬をグリグリ押される


これもこの人の愛情表現なんだろう

少し痛いが抵抗せず受け入れる


そんなことをしているとガチャリと扉が開いた

「起きたみたいだ「お兄ちゃああああああん!」ね」ガシッ


カーネと同じく突撃しようとしてきたソラの背中をマットが掴み抑えてくれる


ありがとうお父さん。お父さんがいなければまた激痛に悶絶するところでした

ところでこの人種はこっちの状態お構いなしに突撃する種族なの?

と一瞬思ったが、ああそういえばみんな犬の獣人だったんだ…と納得する


シアン「おはよう。お父さん、ソラ」

マット「おはよう。シアン」

ソラ「おはよう!お兄ちゃん!」


マット「カーネの大きい声が村全部に響き渡ってたよ」

ソラ「うん!うるさかった!」

カーネ「そんなうるさくないもん!ねえ?シアン?大袈裟に言ってるよね?」


え?いや?どうだろう…なんて答えるべきかわからず無言で目を逸らす


カーネ「〜〜〜!!」家族に擁護してくれる人がいなくてショックだったんだろう

「だって心配してた息子が目覚めたんだもん!しょうがないじゃん!」

とまた大きな声で言い訳をしている


それがまた外まで響いていたのか、どこか窓の外から笑い声が聞こえる


俺が大怪我を負っている状態だけどまた一家団欒ができている…

あの洞穴から離れることを決めた日からあんまりゆっくりできる日なんてなかったからこんな時間をみんなで過ごせて良かった…

そういえば他の仲間たちも無事なんだろうか?

シアン「マコトやシュウ、トラさんやセスさんたちは無事?」

と尋ねると

マット「うん。全員無事だよ」

シアン「そっか…良かった…」


今思い返すと本当に怖かったし、無謀なことをしていたと思う

だけど俺が大怪我しただけで誰一人かけることなく辿り着けたのなら

それに越したことはない


ソラ「ねえ!お兄ちゃん!聞いて!ここいろんな人がいるよ!お耳が垂れてたり、髪の毛くるくるの人とか、ちっちゃい人、あと髭もじゃな人も!」


耳が垂れてるっていうのは垂れ耳の犬種がいたからわかる

髪の毛がくるくるしてるのは…プードル?

髭もじゃはシュナウザー…?だろうか?

何にしろ見たことがない相手のことはわからない、それにまず第一に


シアン「ここってどこなの?」

商人の匂いを辿ってここまできたがどこを目指していたのかはみんなわかっていなかった


マット「ここは、鉱山と森の間にあるエルデって村らしい」

シアン「らしい?」

マット「ごめんね。この村のこともこの村の獣人たちのこともよく知らないんだ」


あれ?なんか違和感がある

俺が意識を失う時マットとトラさんは誰かと話していた気がする

その時には久しぶりに会うような会話をしてたはずだけど…


「知らないのも無理はない!」大きな声と共に大きな音をたて扉が開く


「起きたか!ミニマット!」

だ、誰?マットよりは少し大きい男の人。ミニマットって俺のこと?

「俺はイースト・シベリアン・ライカ族のロドルフォだ。ロドお兄さんと呼べ」


イースト・シベリアン・ライカ??

シベリアンハスキーなら知ってるけどそんな犬種聞いたことがない?


ルカ「ここはテリア、ハウンド系とドワーフが住む村だからな

俺たちスピッツ系とはあまり縁がなかった連中だからマットが知らんのも仕方ない」


テリア?ハウンド系?ドワーフってあのファンタジーによく出てくる髭が生えた小さくて鍛冶仕事が好きなドワーフ?あと俺たちスピッツ系ってなに?

犬種で聞いたことがある気もする名称が出てきてるが、いきなりいろんな情報言われてもわからない…


ロドルフォ「あはは!混乱してるな!あとは親であるマットとカーネが説明しろ!

これ置いとくぞ!じゃあな!」バンッ


いきなり現れたと思ったらルカという人はすぐに出ていってしまった

台風みたいな人という表現があるが、あの人はゲリラ豪雨みたいな人だ…


カーネ「ああ〜もうほんとロドってうるさくてやだ」

辟易した顔で文句を言っている

(外から「お前に言われたくねえよカーネ」と聞こえた気がしたが何も聞いていないことにしよう)


マット「何から説明したほうがいいんだろう…」

カーネ「まって!シアン起きたばかりで怪我も痛むだろうからそういう難しい説明はまた後日にしましょう?」


マット「それもそうだね。ごめんねシアン。この話はまた今度、傷が癒えたら話してあげるね」


マットは立ち上がりいつの間にか俺のベッドで丸まって寝ているソラを抱き上げて

退出しようとする

扉を開けようとしたところで足を止め、あの人が置いていった何かを持って

また近寄ってきた


マット「シアン。痛みがひどいなら無理にとは言わないけど、これを食べて欲しい」


手に持っていたのはお皿。その上には一口サイズ程度に切られた肉が乗っていた


シアン「これは…?」

マット「これはあの魔熊の肉だよ」


狩りの手伝いはしていたから、生きていたものが肉に変わるのは見慣れていたはずだった

だけど脅威だった存在がこんな肉の一欠片になってしまったのかと思うと

何か寂しいものを感じる


マット「俺たちにとって狩ったものが、狩られたものを残さず食べるのは供養だ

だからこの最後のあいつの肉、シアンに食べてほしい」


俺が魔熊に殺される側になっていたら、あいつは俺を残さず食べてくれただろう

これが正真正銘、弱肉強食の世界

魔熊が俺より弱かったなんて全く思わないが、俺が生き残ったのだから残すのは失礼だと思う


痛くない方の手で肉片を持つ


シアン「いただきます」


噛むと頬が痛む、口の中を切っていたのか血の味しかしない

美味しいという感覚はないが味わうことよりも俺の頭にあったのは

前世で何となく言っていた

「いただきます」という意味がこういうことなんだって初めて理解できた

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