ケモノウィルス2
西しまこ
望ときらら
「ケモノウィルスって知ってる?」
「知ってるよ。獣人化するやつだろ?」
「そう! 高熱のあとに獣人化するんだよ。……ちょっと憧れない?」
「ええ? 俺は嫌だけどね」
「でもでも、夜でも目が見えるらしいよ」
その噂は聞いたことがある。身体能力が高まるらしい。――獣の種類のよるけど。
望はジャムを塗る手を止めて、考えた。大陸から来たというケモノウィルス。もともとは、兵器だったと聞いている。人間の身体能力を高め、戦場で役に立つ兵士とするための、ウィルス。
「ねえ、望、ジャムが零れているよ。ほら、机に垂れちゃった!」
「ああ、きらら、ごめん」
望は机に落ちたブラックベリージャムを指で拭って舐めた。
「おいしい?」
「おいしいよ」
「よかった! 初めて作ったジャムだから、心配で。ブラックベリー、庭にいっぱいなったから、ジャムにしてみたの」
「きららはまめだね」
「うふふ」
翌日、二人は仲良く揃って発熱した。四十度近い高熱が五日以上続き、従来の薬は全く効かなかった。
「望。これ、ケモノウィルかな?」
「たぶん」
「あたしたち、どんな獣になるんだろう?」
高熱の中、わくわくしたような顔をするきららを見て、望は不安がるのが馬鹿らしくなった。そうだ、どんなふうに獣人化するんだろう?
数日して解熱して、望は身体中に力が漲るのを感じた。……俺は、何になったんだ?
「ねえ、望、見て見てー! 耳としっぽ!」
きららが大きな目をきらきらさせながら言った。きららの耳は黒く垂れていて、しっぽはふわふわだった。
「……トイプードル?」
「うん、そう! あたし、トイプードルになったみたい!」
もともと小さくて小型動物みたいだったきららは、黒トイプードルのしっぽをぱたぱたさせてにこっとした。望はその姿があまりにもかわいくて、ぎゅっと抱き締めた。
「ねえ、望は何になったの? ……シベリアンハスキー?」
望はそれには返事をせず、きららにキスをした。きららは望に甘いキスをされながら、ある思いを抑えられなかった。
ああ、どうしてだか、ブラックベリーのジャムが食べたくてたまらない。てゆうか、ブラックベリーが食べたい。たくさんたくさん。甘酸っぱい、ブラックベリー。やん、これ後遺症? ブラックベリー症候群。トイプードルって、ブラックベリー、好きだっけ?
「きらら。ねえ、集中して。何考えているの?」
きらら、俺のつがい。一生俺のもの。きららに俺のものだという
「きゃっ。……ねえ、どうしたの、望。今日はなんか、いつもと違うよ」
「そう? ……いや?」
「……いやじゃない。……いい。――ねえ、あたしも、いつもと違うこと、したい」「何?」
きららは起き上がって、ブラックベリージャムの瓶を持って来て、望のお腹に垂らした。スプーン一杯のブラックベリージャムは、望の肌の上でとろりと広がった。
黒っぽい赤で、ちょっと血みたい。甘い甘い血。うふふ。おいしそう。そして、舐める。ブラックベリージャム、おいしい甘くて。望もおいしい。甘い甘い味がする。
「ねえ、これ、獣人化のせいかなあ?」
「どっちでもいいよ。――気持ちよければ」
お互いの尾を触りながら、二人は甘いキスをした。
了
ケモノウィルス2 西しまこ @nishi-shima
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