『クリームソーダについて』
『雪』
『クリームソーダについて』
クリームソーダってあるよね。別にコーラフロートでもコーヒーフロートでも良いんだけどさ。要はあの系統の食べ物の話って事が分かればそれで伝わると思う。
私は希望が持てないだとか、生きる意味が分からないだとか、よく分かんない事をつらつらと吐き出しながらも、不幸と踊る事無く、十数年生きてきた訳だけれど、その十数年の間、ただの一度として解消されない疑問が私にはある。
それがクリームソーダの正しい食べ方ってやつ、いや飲み方なのかな? それが私にはまるで皆目検討も付かないのだ。
大抵の喫茶店にはさも当然のようにメニュー入りしていて、私以外のお客さんも、お店のスタッフさんも、それが当たり前のように振舞っている。謎の飲み物、いや食べ物か? 私は今の今まで一度としてコレと分かり合えたと思えたことは無い。
昔ながらの純喫茶といった雰囲気のお店をチョイスし、二人掛けのテーブルに案内される。手書きのメニュー表を眺める振りをして、視線だけを周りに配る。客入りは平日のお昼過ぎという事を考えても上々な様で、おおよそ半分ほどの席が埋まっている。
その中でクリームソーダを頼んでいたのは、近場の席に座る若い女性客だけだった。彼女らは肝心のクリームソーダをよそに熱心にスマホを触っている。
しかも結構な時間放置をしているらしくて、アイスもドロドロ溶けだしてきていて、もうなんか絵面が大変な事になっている。大方、良い感じの写真(エモいとかいうやつか?)を撮りたくて注文したけれど、写真さえ撮れたら後は何でも良いとかいう類いの人種なのだろう。
食べ物に敬意を払わないなど言語道断だ、恥を知れ──などと心の中で罵倒してみるが、それを面と向かって伝えられる程の度胸も行動力も無いので私も同類か。
私は喫茶店に入る度、こうしてクリームソーダの観察を続けているが、正しいと思える程の食し方には未だ出会えていない。
そもそもお店側も一体どういう意図でアイスとジュースを合体させて販売しようとしたのだろうか。ハナから二つ用意するではダメだったのか、さくらんぼは何故乗せたのか、お店によってはアイスじゃなくてソフトクリームを乗せて提供してるところもあるけれどそれは良いのか、とか様々な考えが頭の中で蠢く。
用意される食器も様々でパフェ用のやたら長いスプーンをくれるところもあれば、ストロー一本だけをお出しされるお店もあるし、デザートスプーンとストローの二刀流を促してくるお店もある。
考えれば考える程にクリームソーダが分かんなくなって、どうでも良くなった私は注文の為に手を上げる。
「お待たせ致しました、ご注文は?」
ウェイトレスさんの言葉に喉まで出掛かったものを押し込んで、私は静かにその名を告げた。
「……アイスコーヒー、ブラックで」
「畏まりました」
後どれだけ月日を重ねたら、私はクリームソーダというものを理解できるようになるのだろうか。
『クリームソーダについて』 『雪』 @snow_03
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