第3話 どちらも時間がかかりそう

「ほーん…ここが王都ねぇ…」


ルイに拾われてから2日目。あのあとルイは俺の仕事をいくつか見繕ってくれたが、部屋から出てきたこともなかった俺は仕事どころの話じゃなかったらしい。


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「……は?お前一つの部屋で今まで生活していたのか?」


「おうよ。文字は本読んでたからわかるんだけどよ外での経験があまりないんだ」


ルイが持ってきてくれた仕事募集のポスターをみてもどれもピンとくるものはなかった。

本で言葉や仕事内容は知っていても、実物を想像すらできないのだから。


「それはおかしい。お前は奴隷かなにかだったのか」


「いやちげぇ。部屋から出してもらえなかっただけで衣食住には困らなかったし、たまに部屋に来る人達はみんな優しい人ばかりだ」


「ならもっとおかしい。奴隷でもないのに部屋に閉じ込められるやつはいないだろう」


俺はうーん…と唸る。ルイはその間眉間にしわを寄せてこちらを睨んでいた。


「俺は今までずっと部屋の中にいたからそこにいることが異常なんて思ったこともなかった。たぶん、俺がクソ小せぇ時にもうそこにいたんだ。だから分からねぇ」


ずっとそれが当然として生きてきた。疑いもしなかった。そんな俺にルイは少し悲しそうな目線を向けた。心配してくれているのだろうか。こいつは俺が思っていたよりもずっと優しい人なのかもしれない。


「ならどうして抜け出してきた」


「それは『英雄』に憧れたから」


「………子供だな。」


さっきまでの淡白な声より少し驚きと悲しそうな感情が混ざっていた。


「最後に英雄と呼べるものがいたのは10年前だったな。確か自分自身の力で死んだんだ」


俺はルイの言葉に頷く。

10年前の英雄は前線に出てきてからわずか2年間で死んでしまった。

だがそれは決して短くはない。どの英雄も自身の力を抑えきれず、すぐに命を落とす。

一番長く生きた英雄も確か6年だったかな。と頭で考える。


「それほどまでに奴らは恐ろしいんだ。どんなに才能を持ったやつでもすぐに死ぬ。これまでの歴史上でそれはわかるだろ」


「奴ら…って」


「知ってるだろ。魔族だ」


この世界に存在する魔族。

歴史上何度も大きな戦いが起こったが人間は一度も勝ててはいない。人間より優れた体を持っている奴らは残虐の限りを尽くしてきた。


「英雄になりたいなんて俺は一度も聞いたことがない。みんな怖いんだ」


「俺は怖くなんかない。魔族がどんなに強くたって倒して、歴史上で見たことないくらいすごい英雄になる」


ルイははぁ…とため息をついた。


「お前は何もかも知らなさすぎる……いつかわかるときが来るぞ。それまで知識をつけることだな」


「なんだよそれー…!絶対慣れないって思ってるだろ!」


俺が身を乗り出して言えば「そうですけど?」と言いたげな顔で返される。


「っと…用事を思い出した。話は終わりだ」


「あっおい!」


「これを読んでおけ」


そう言い残してルイは部屋から出ていった。置いていったのは3冊の本。どれも分厚く、なかなかに時間がかかりそうものばかりだった。何もすることがないので読むことを決めたが、おれは消化しきれない何とも言えないものが残っていた。

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英雄日記 @2Zhiroaka

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