最終話 マロンさんの正体にびっくり

 パンパカパーン♬

『おめでとうございます。唯島ミノリ訓練生、正隊員試験合格です!!』

 突然聞こえてきた陽気な声。軽快な音楽、それからクラッカーの音。

 この声、トキタ育成本部長?

「おおっ、良かったなミノリ。合格おめでとう」

 拍手するカノコくん。さっきまで足が痛くてしんどそうだったのに、今はどこも悪くない感じで笑っている。

「?????」

 きょとんとしてると、カノコくんが「良かったな、合格だぞ」ともう一度言う。

「合格? っていうか、あの浮かれた声はなに? どこから聞こえたの?」

 今は森の中。でも聞こえてきた声はスピーカーを通した声に聞こえたんだ。

「超小型昆虫カメラ。ほら、飛んでるだろ」

 カノコくんの指先をじっと見る。何か飛んでる。……ハエだ。

「このハエ、カメラなの?」

「そ。監視カメラ」

『見守りカメラと言いなさい』と声。やっぱりトキタ育成本部長だ。

 まだポカンとしていたんだけど、カノコくんの説明では、訓練生のようすを見るため、こういうカメラがあちこちに飛んでいたそうだ。

 で、二泊三日の最終訓練は最終試験でもあって、合否を今、この虫から発表したんだって。ん? わたし合格した?

「だから合格したんだって。正隊員、おめでとう、ミノリ」

 ぽんぽん、と肩をたたかれる。それでもまだポカンだ。

「カノコくん、足は? くじいたんでしょ」

「うん。そういう演技。隊長の気絶もユメカ先輩の失踪も演技だから安心しろ」

「??????」

「まあよくわからんだろうけど合格は合格だ。とにかく拠点に戻ろうぜ」

 カノコくんはロープをつかみ、軽い足取りでさっさと崖を上がっていく。わたしが動かないでいると「ほら、来いよ」と手を伸ばしてくれた。大人しく引っ張ってもらいながら崖上に登ったんだけど。何なんだか、さっぱりだよ。


★★☆

 拠点で待機していたホタルちゃんも合格だって。

 目を覚ました隊長に、「移転装置の修理の仕方を教えてくれたら、自分がやってみます」と頼んだところでパンパカパーン。合格のアナウンス。

 ハツセくんも合格。悩みに悩み、意を決してエリア外に一歩出たところでパンパカパーン。脇からひょっこり副隊長のユメカ先輩が出てきて、見守りカメラ虫(ハツセくんが見たのは大きなカブトムシだって。いろいろいるみたい)が合格のアナウンスだ。

 ハツセくんは、エリア外に出ようとした自分はルール違反だから、不合格じゃないか、と思ったみたいだけど、「かなり悩んでの行動だったし、慎重さはしっかりあった」から合格なんだとか。そんなもんかー。

「もともと合格率は高いんだ」とカノコくん。

「サザンクロス探査隊には年齢制限がある。大人になったら隊員は除隊していくだろ? まだまだ開拓したい土地は残ってるから、隊員は多ければ多いほうが良い」

 だから正隊員を決める試験では、性格や能力を見て探査隊員に向いてない人を落とすだけなんだって。

 探査隊員は任務に出たら惑星で数週間過ごす。そのあいだは拠点で団体行動しなくちゃいけない。それが無理、耐えられない人はサザンクロス隊員には向いてない。

「わたし合格なんだ!」

 ジワジワとうれしくなってきた。ホタルちゃんもにっこりしている。

「だからミノリは大丈夫だって言ったろ」

 カノコくんが笑う。わたしもニコニコだ!

 地区本部に戻る前、拠点の前に並んでチームで写真を撮ることにした。

 臨時チームだから、これで解散。そう思うとさみしい。

「その写真、またブログに載せるの、マロンくん」

 画面に映る写真を確認していたカノコくんに、副隊長のユメカさんが言う。

 カノコくんは「あっ、その名前は出すな」と怒ったけど……え、マロンくん?

「カノコくん、マロンってなに? もしかしてブログ書いてるの?」

 変な緊張がしてほっぺがひくひくする。

 質問しながら「そんなわけあるか」って答えを待ってたんだけど。

「ああっ、もうっ。先輩のせいでバレちゃったじゃないですか!」

「ごっめーん。秘密にしてた?」

 笑いながら手を合わすユメカ先輩に、顔を真っ赤にしているカノコくん。

 その様子を笑いながら見ている隊長、(すっかり元気になった、というか仮病。空気も毒じゃないんだって)が説明してくれる。

「カノコは探査隊員の様子をブログにあげてるんだ。三人とも読んだことある?」

 わたし、ホタルちゃん、そしてハツセくん。三人とも信じられないって顔だったみたい。隊長が盛大にふきだすのを、ぽっかーんと見ているだけしかできなかった。


★★☆

 どうやらハツセくんもマロンさんのファンだったみたい。

 うそだ、うそだ、信じないぞ。……って、ブツブツと頭をかかえていたから。

 わたしも信じられない。だってきれいな優しいお姉さんだと信じていたから。

 バレリーナのチュチュをはいたリスが踊るスタンプだよ。なんでカノコくん?

 でもホタルちゃんがポツリと言った。

栗須くりすカノコくんだものね。そのまんまだ」

 クリ、ス。栗とリス。……バレエとチュチュは?


★★☆

 バレリーナの恰好で踊るリスがかわいいから、ってカノコくん。

 そういえば甘いものが好きみたいだし、クールに見えて中身は乙女趣味なのかもしれない。本当は自分がマロンだって、すぐにわたしに言おうとしてたんだって。でも、わたしが全然気づいてなくて、しかもマロンは女だと思ってるみたいだから言い出しにくくなったんだとか。それでも信じられなくて、寮に戻ったあとマロンさんにメールしたんだ。

『カノコくん?』

 バレエのチュチュをはいたリスが紙吹雪をまき散らしながら「そうだよ♪」と吹き出しコメントを出している。うーん。カノコくん、キャラ変わりすぎじゃない?


★★☆

 今年は正隊員試験の合格者、とても多かったみたい。わたしたち、とっても優秀!

 もちろん、リナちゃんとモエちゃんも合格。仲良し四人組全員で正隊員だ。

 それと。この話も風のうわさで聞いた。

 転属したシルビアちゃん、合格したんだって。向こうではうまくやれたのかな?

 いつか再会したら、今度こそ仲良くなれたらいいんだけどね。

 ま、よかったよかった。


★★☆

 セキヤおじさんへ

 一度も会ったことがないおじさん。わたしも、おじさんと同じサザンクロス探査隊の正隊員になりました。

 これからもっと訓練して、もっともっと勉強して、立派な隊員として働きます。

 惑星を開拓します。空気を浄化します。人類に土地を!


 でもね、おじさん。わたし、冒険がなにより楽しみなんだ。

『無茶しない、あせらない、冷静でいることが大事!』

 この言葉を忘れずに、がんばるからね。

 あと野望も教えとくよ。

 おじさんの失踪の謎も、わたし解くつもりだよ。

 だから、いつか必ずおじさんと会える。わたし、そう思ってるんだ。

 探査隊についてたくさんノートに書いてくれてありがとう。

 わたしも同じように日記を書いています。

 もしかしたら誰かの役に立つかもしれないからね。これからも続けるよ。


 よし、今日はここでおしまいっ。

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惑星開拓プロジェクト🌟新隊員ミノリの大変がいっぱい日記 竹神チエ @chokorabonbon

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