038 エピローグ

 朝食後、私はパソコンを見ながら言った。


「フリックさん! 大変ですよ!」


「どうしたんだ?」


 フリックが鬱陶しそうな顔で作業場にやってくる。


「ミレイ様とライル様が婚約を解消したんですって!」


 モニターを指す。

 二人の婚約解消を伝える記事が表示されていた。


「ほう? 理由は?」


「ミレイ様が窓から落ちちゃったようで、今は怪我の治療に専念したいとか1」


「窓から落ちる? 妙だな……」


 私も同感だった。

 しかし、記事にはたしかにそう書いてある。


 貴族の婚約解消では、本当の理由を発表しないことが多い。

 例えば私とライルの場合、私の不貞行為が理由だとされている。


 とはいえ、偽りの理由に「窓から落ちる」はないだろう。

 なので、この場合は本当に落ちたと考えるのが正しい。

 怪我の治療に専念したいから婚約を解消する、というのは理解できないが。


「たぶんミレイ様は耐えられなかったんじゃないですか?」


「何にだ?」


「顔の怪我にですよ。新聞によると転落した際に顔面を強打したと書いています。ミレイ様は絶世の美女なわけですし、そのお顔に傷がついたということで精神的に参っているのかなと……」


「ふむ」


 フリックは何とも言えない反応。


「ま、ライル様との婚約が解消されても関係ありませんよ!」


「どういう意味だ?」


「ミレイ様はミレイ様! ライル様はライル様! そして私は私です!」


「つまり……?」


「私は今日も頑張って働くだけです!」


 マウスをカチカチと操作して、株式投資の画面を開く。


『名:アイリス・バーンスタイン 累計実現損益:-809万7800ゴールド』


 なかなかの損失だが問題ない。

 この程度、二日分の特許使用料でおつりがでる。


「チャートヨシ! 入金ヨシ! 今日こそ勝つぞー!」


「アイリス短期売買はよせ!」


「大丈夫ですよフリックさん! 今日こそ勝ちます! 大きく勝って累計収支をプラスに転換させます! 株ってのはコツコツドカンなんですよ! コツコツ負けてドカンと勝つ!」


「はぁ……」


 フリックの制止を振り切り、私は今日も株式投資で大損をするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

婚約破棄された孤児の私、隣国で農園経営を楽しむ ~宗主国の伯爵令嬢に婚約相手を奪われた結果、何故かその伯爵令嬢から嫉妬される~ 絢乃 @ayanovel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ