第51話 そして始まるジンクの学園生活

「あ、ジンクさん!」


 ジンクが部屋に入ってくるなり、セーラが満面の笑顔で迎えてくれる。


 どうやらナナシが言っていたように、本当にジンクが来るまで待っていたらしく、セーラの前に並べられている料理には全く手が付けられていない。


 ――ちなみにラネナは普通に先に食べていた。


「全く、冷めるから先に食べといてくれて大丈夫だって言っただろ?」


「そうですけど。祝勝会とか省いてもジンクさんとの食事なんて久しぶりじゃないですか。だから顔を見て一緒に食べたかったんです……」


 ジンクの言葉を無視してしまった形でバツが悪いのか。


 気まずそうに目を伏せるセーラだが、照れ臭かっただけでジンクに怒りなんて全くない。


「そうか。じゃあ一緒に食べるか」


 セーラの前の席に付き、お互いの顔が見えるように座る。


(やっぱ、アレは雰囲気に流されていただけだな……)


 セーラの顔を見ても、前に添い寝をした時みたいに気持ちが落ち着かなくなったりなんてしない。


 ただ普通に可愛いなと思うだけ。


 ――あの時に邪な事を想像してしまったのが、申し訳ない程に。


「待っててくれて嬉しいなら、ちゃんと伝えた方がいいわよ。そういう細かいスレ違いから、男と女の仲なんて駄目になっていくんだから」


 しげしげとセーラの顔を眺めているジンクの姿にラネナが何を勘違いしたのか、そんな事を言ってくるが――


 男女の仲がどうこうの話は置いといて、言い分自体は文句の付けようもない。


「その、セーラ。待っててくれてありがとう。嬉しかった」


「私も、ジンクさんと一緒に食べられて嬉しいです」


 少し照れながら告げるジンクとは対照的に。


 心の底から嬉しいとばかりに、セーラは曇りのない眩しいまでの笑顔で答える。


「……そういえばジンク。アンタ、これからは色々と気を付けた方がいいわよ」


 ラネナとしては二人の関係に付いて、色々と言いたい事はある。


 だが、どっちも自覚していないようならば、外野がどうこう言う事ではないだろうと、本来の用件だけを告げる事にする。


 ――お祝いの言葉自体は、台所への出禁通告をされた時に既に伝えていた。


「あの人は自分なんて金級の外れみたいに言ってたけれど、下手すれば知名度だけなら一番。これからはオルビス魔術学園だけじゃなく、他の学校からもアンタを倒して名を挙げようという連中が押し寄せて来るわ」


「……」


 予想でも何でもなく、確信の込められた言葉で告げるラネナにジンクは反論の言葉も出て来ない。


 確かに言われてみて気付いたが、まだ入学したばかりの新人が元とはいえ、金級の人間を打ち破ってしまったのだ。


 目立つ事この上ないだろう事は、想像するに難しくなかった。


「言っておくけど、多分アンタの考えている数十倍ヤバい事になるわよ? 今までは対戦相手を探すのに苦労してたけど、今度からは逆。むしろ選り取り見取りどころか、断れない試合の申し込みなんてのも出てくるでしょうね」


「うわぁ……」


 退学の心配もなくなったし、暫く修行でもしようと思っていただけに、この流れはジンクにも声を上げずには居られない。


 そもそもナナシは言うに及ばず――


 ラネナやイノナカとの戦いだって割とギリギリだったのだ。


 出来れば力を蓄える期間や落ち着ける時間が欲しいとジンクが思うのも、仕方ない事だろう。


「大丈夫です! ジンクさんならどんな相手が来ても返り討ちです!」


 自分の意志とは関係なく、面倒事に巻き込まれていく事が鬱陶しくて声を上げてしまったジンクだが、セーラは不安から来る声だと思ったようだ。


 元気付けるように励ましの声が飛んでくる。


「ああ。これまでどおり何とかしてみるさ」


 そんなセーラの声を聞かされて、面倒そうな表情なんて見せていられない。


 どうせ今までだって全力で戦い続けてきただけだし。


「はい! ジンクさんなら大丈夫です!」


「まっ、困った事があったら今度は出来るだけ早く相談するのよ? ある程度までなら、相談なら乗れるし、早く相談してくれれば手伝える事だってあるかもしれないんだからさ」


 村に居た頃みたいに一人で抱え込む必要もない。


 ジンクは自然と自分の口元に笑みが浮かびそうになったが、そこでふと気付いて表情を引き締めると――


「早速、二人に相談したい事があるんだけどさ。そろそろリア充爆発先輩、本格的に治療とか処置施した方が良くないか?」


 今も尚、泡を吹いたまま意識を取り戻さない頼れる先輩の処遇に付いて。


 仲間に相談を持ち掛けたのであった。

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後書き

 これにて第一部終了です。

 この作品は第二部を書くかは少し解らないです。

 構想自体は一応あるのですが、手が回り切ってない状況です。


 もし書く事があれば、その時もお付き合い頂ければ嬉しく思います。


 明日からは男性向けでも女性向けでもない、私が私らしく好き勝手書いた十五万文字くらいで完結する恋愛物のような何かの投稿を開始します。

 9月30日0時から下のリンクで飛べるので、よろしければ、そちらもお付き合い頂ければ嬉しいです。


https://kakuyomu.jp/works/16818093082362121913

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異世界バトル物 ~魔力のしょぼい平民が上を目指して何が悪い~ お米うまい @okazukure

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