ギャルと眼鏡女子の放課後フードコートから始まる私の革命!

島原大知

地味女子とギャルの予想外友情物語

まぶしい夏の陽光が、ガラス張りの天井から降り注ぐフードコート。その喧騒の中に、静寂の小島のように佇む一角があった。


そこに座っているのは、佐藤美咲。


黒髪のロングヘアーが、薄暗がりの中でも艶やかに輝いている。大きな黒縁メガネの奥に、澄んだ瞳が光る。小柄な体型に似合わない、分厚い文庫本を手に持っている。


美咲は、薄いピンク色のカーディガンを羽織っていた。それは彼女の白い肌をより一層際立たせ、儚げな雰囲気を醸し出している。膝下まである紺色のスカートは、彼女の慎ましやかな性格を物語るようだ。


周囲の喧騒とは無縁のように、美咲は静かに本を読んでいた。ページをめくる音さえ、周りの騒ぎに飲み込まれそうになる。


そんな美咲の耳に、突如として賑やかな声が飛び込んできた。


「やっほー! 美咲ちゃーん!」


その声の主は、派手な金髪を揺らしながら近づいてくる山田亜美だった。


亜美の姿は、フードコートの中で一際目を引く。金色に輝く長い髪は、まるで太陽の光そのもの。派手なメイクが施された顔は、雑誌から飛び出してきたモデルのよう。スラリとした長身を、鮮やかなピンクのミニスカートが彩る。


首元や手首には、きらびやかなアクセサリーがぶら下がり、歩くたびにチャラチャラと音を立てている。その姿は、美咲とは正反対の、まさにギャルそのものだった。


美咲は本から顔を上げ、ほんの少し微笑んだ。「こんにちは、亜美さん」


亜美は、派手なネイルが施された手を振りながら、美咲の前の席に陣取った。


「なになに? また難しそうな本読んでんの?」亜美は首を傾げ、美咲の本を覗き込む。


美咲は静かに本を閉じ、「ええ、村上春樹の『海辺のカフカ』よ」と答えた。


「むらかみはるき? 誰それ? 歌手?」亜美は首を傾げ、長い付けまつげをパチパチとさせた。


美咲は小さなため息をつき、「いいえ、小説家よ。現代日本を代表する作家の一人」と説明した。


「へぇー」亜美は感心したような、退屈そうな声を出した。「で、どんな話なの?」


美咲は少し考え込むように目を伏せた。その長いまつげが、頬に影を落とす。「簡単に言えば、15歳の少年が家出をして、様々な不思議な出来事に遭遇する物語よ」


「15歳で家出? やばくない?」亜美は目を丸くした。その大きな瞳に、フードコートの照明が映り込んで輝いている。


美咲は少し困ったように眉をひそめた。「そうね...でも、この物語はもっと深い意味があって...」


しかし、亜美の注意はすでに別のところへ向いていた。


「あ! ねぇねぇ、美咲ちゃん!」亜美は突然身を乗り出し、美咲の肩を軽く叩いた。その勢いに、美咲は少し身を縮める。「ほら、あそこの人見て!」


美咲は亜美の指さす方向を見た。そこには、派手な原色のシャツを着た中年男性が立っていた。


「あの人さ、絶対ウィッグでしょ?」亜美は声をひそめて言った。でも、その声は周りにも十分聞こえそうな大きさだった。


美咲は慌てて亜美の口を押さえようとしたが、その小さな手では亜美の勢いを止められない。


「だってさ、あんな若々しい髪の毛、絶対おかしいじゃん!」亜美は続けた。「ねえ、美咲ちゃんもそう思わない?」


美咲は困惑した顔で周りを見回した。幸い、当の男性は気づいていないようだった。


「亜美さん、そういうことを大声で言うのは...」美咲は優しく諭すように言いかけたが、亜美はまた新しい話題に飛びついていた。


「あ! そういえば!」亜美は突然立ち上がり、ポーズを取った。「この服、どう? 昨日買ったんだ~」


鮮やかなピンクのミニスカートが、亜美の長い脚をより一層引き立てている。上着は肩の出た白いブラウスで、首元にはキラキラしたネックレスが輝いていた。


美咲は少し戸惑いながらも、「とても...派手ね」と言った。


「でしょ?」亜美は嬉しそうに笑った。その笑顔は、まるで太陽のように明るく、周囲の人々の視線を集めていた。「これでみんなの視線を独り占めよ!」


美咲は小さく頷いた。確かに、亜美の姿は人々の目を引いていた。しかし、それは必ずしも良い意味ばかりではないようだった。


「ねえ、美咲ちゃんもさ」亜美は再び座り、身を乗り出してきた。「もっとオシャレな服着たら? そしたらモテモテになれるよ!」


美咲は自分の服装を見下ろした。確かに地味かもしれない。でも、これが自分らしいと思う。


「私は...これで十分よ」美咲は静かに言った。


亜美は大げさにため息をついた。「もったいなーい! だってさ、美咲ちゃんって結構かわいいのに!」


美咲は少し赤面した。「そ、そんなことないわ...」


「あるある!」亜美は力強く言った。「ほら、その黒髪とか、すっごくツヤツヤじゃん。それに、肌もきれいだし。ちょっとメイクしたら、絶対モテるって!」


美咲は困惑しつつも、少し嬉しそうな表情を浮かべた。


そのとき、亜美のスマートフォンが鳴った。


「あ、LINEだ」亜美は画面を覗き込んだ。「うわー! 見て見て!」


亜美は興奮した様子で、スマートフォンを美咲の目の前に突き出した。画面には、派手な服を着た男女のグループ写真が映っていた。


「これ、明日のパーティーの服装よ!」亜美は目を輝かせて言った。「私も行くんだ~。美咲ちゃんも来る?」


美咲は少し引いた表情で、「ごめんなさい。私は...そういうの苦手だから」と断った。


「えー、つまんないなー」亜美は口をとがらせた。「たまには羽を伸ばさないとダメだよ?」


美咲は小さく首を振った。「私は...本を読んでいる方が楽しいわ」


亜美は不思議そうな顔をした。「本? あんな難しいの読んで楽しいの?」


美咲は少し微笑んだ。「ええ。知らない世界を知ることができるから」


亜美は首を傾げた。「へぇー。でも、実際に遊びに行った方が楽しいと思うけどなー」


二人の会話は、かみ合わないまま続いていく。


美咲が本の内容について語れば、亜美は「難しーい」と言って聞き流す。亜美がファッションの話をすれば、美咲は「そうね...」と曖昧に答える。


しかし、不思議なことに、二人はこの時間を楽しんでいるようだった。


美咲は、亜美の明るさに少し圧倒されながらも、その元気な様子に心が和むのを感じていた。一方、亜美は美咲の落ち着いた雰囲気に、普段味わえない静けさを感じているようだった。


そんな二人の様子を、フードコートの店長である鈴木さんが、にこやかに見守っていた。


鈴木店長は、やや太めの体型で、薄めの髪の上にはキャップを被っている。制服の上着の胸には「店長」という名札が光っている。


「あの二人、なんか面白いねぇ」鈴木店長は、近くにいた若いアルバイト店員に話しかけた。「見てると、なんだかホッコリするわ」


アルバイト店員は首を傾げた。「えー? でも、全然違う人たちじゃないですか?」


鈴木店長は優しく笑った。「そうそう。でもな、違うからこそ面白いんや。お互いに、相手にないものを持ってる。そういうのを見てると、なんだか人生って面白いなって思うんよ」


アルバイト店員は「はぁ...」と曖昧な返事をした。


その頃、美咲と亜美の会話は食べ物の話題に移っていた。


「私、この前ね、超おいしいパフェ見つけたんだ~」亜美は目を輝かせて言った。「今度一緒に行こうよ!」


美咲は少し戸惑いながらも、「でも、甘いものは...」と言いかけた。


「大丈夫だよ!」亜美は美咲の言葉を遮った。「絶対美咲ちゃんも好きになるって!」


美咲は小さくため息をついた。「分かったわ。今度行ってみましょう」


亜美は嬉しそうに手を叩いた。「やったー! 絶対楽しいよ!」


そのとき、美咲のスマートフォンが鳴った。


「あら」美咲は画面を確認して言った。「もう、こんな時間...」


亜美も驚いた様子で時計を見た。「えー! マジで? 私もそろそろ行かなきゃ!」


二人は慌ただしく荷物をまとめ始めた。


「じゃあね、美咲ちゃん!」亜美は立ち上がりながら言った。「また会おうね!」


美咲もゆっくりと立ち上がり、「ええ、また」と静かに答えた。


亜美は派手な足取りでフードコートを後にしていった。その姿は、まるでスポットライトを浴びているかのように、周囲の視線を集めていた。


一方、美咲は静かに本を鞄にしまい、周囲に溶け込むように静かに歩き去っていった。


二人の後ろ姿は、まるで光と影のように対照的だった。


鈴木店長は、その様子を見て微笑んだ。「あの二人、また来るやろなぁ」


そう呟いた店長の顔には、何か楽しみにしているような表情が浮かんでいた。


フードコートの喧騒は、いつものように続いていく。しかし、今日という日は、二人の少女にとって、何かが少し変わった日になったのかもしれない。


互いの違いを感じながらも、不思議と心地よさを覚えた時間。それは、これからの二人の関係に、どんな影響を与えるのだろうか。


それはまだ誰にも分からない。ただ、フードコートの天井から差し込む陽光が、二人の行く先を明るく照らしているように見えた。


夏の終わりを告げる風が、ショッピングモールの大きな窓ガラスを軽く揺らしていた。フードコートには、いつもの喧騒が漂っている。


その中で、佐藤美咲は再び、いつもの隅の席に座っていた。


今日の美咲は、前回とは少し違う雰囲気を醸し出していた。黒髪のロングヘアーは、いつもよりも丁寧にとかされ、柔らかな光を帯びている。大きな黒縁メガネの奥の瞳は、何か期待に満ちているようだ。


服装も、普段よりも少しだけ気を遣った様子が窺える。淡いブルーのワンピースは、彼女の白い肌を一層引き立て、胸元のさりげないレース使いが、普段の地味な雰囲気を払拭している。それでも、膝下まである丈や控えめな襟元は、相変わらずの慎ましさを物語っていた。


美咲は、小さな手でスマートフォンを握りしめ、時折画面を確認しては、フードコートの入り口に視線を向ける。待ち合わせでもしているのだろうか。


そんな美咲の耳に、またしても賑やかな声が飛び込んできた。


「美咲ちゃーん! ごめん、待った?」


声の主、山田亜美が派手な足取りで近づいてくる。


今日の亜美は、さらに目を引く出で立ちだった。金髪は大きなウェーブがかけられ、まるで西洋の人形のよう。派手なメイクは相変わらずだが、今日は特にアイシャドウが鮮やかだ。ターコイズブルーのグラデーションが、彼女の大きな瞳をより一層魅力的に見せている。


体のラインをくっきりと強調する白のタンクトップに、ホットパンツという大胆な服装。長い脚は、まるでモデルのようだ。首や手首には、相変わらずきらびやかなアクセサリーがぶら下がっている。


「ううん、大丈夫よ」美咲は小さく微笑んだ。「私も今来たところ」


嘘をついた。実は30分も前から待っていたのだ。


亜美は派手なネイルが施された手で髪をかき上げながら、美咲の前の席に座った。


「わー、美咲ちゃん今日なんかイメチェン?」亜美は美咲を上から下まで見渡した。「いつもより可愛い!」


美咲は少し赤面し、「そ、そんなことないわ...」と言いながら、密かに嬉しそうだった。


「あるある!」亜美は力強く言った。「ねえ、もしかして私のアドバイス聞いてくれた?」


美咲は小さく頷いた。「少しだけ...」


「やったー!」亜美は手を叩いて喜んだ。その大きな仕草に、周囲の人々の視線が集まる。「次は髪型とメイクもチャレンジしようよ!」


美咲は少し困ったように眉をひそめた。「それは...ちょっと...」


亜美は残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。「まあいいや。それより、見て見て!」


亜美はスマートフォンを取り出し、美咲に画面を見せた。そこには、派手な服を着た若者たちが写っている写真が映し出されていた。


「この前言ってたパーティー、超楽しかったんだよ!」亜美は目を輝かせながら説明を始めた。「みんなでダンスしたり、カラオケ歌ったり...」


美咲は静かに亜美の話を聞いていた。派手な写真を見ながら、自分には無縁の世界だと感じていた。


しかし、亜美の話が進むにつれ、美咲は亜美の表情に何か違和感を覚えた。


「...でもさ」亜美の声のトーンが少し下がった。「なんか、疲れちゃって」


美咲は少し驚いた顔をした。「疲れた...?」


亜美は珍しく真剣な顔で頷いた。「うん。みんな楽しそうだったんだけど、私...なんか空しくなっちゃって」


美咲は黙って亜美の言葉に耳を傾けた。


「いつも同じような話題で、同じようなノリで...」亜美は言葉を探すように目を泳がせた。「なんていうか...中身がないっていうか...」


美咲は亜美の言葉に、思わず身を乗り出した。「亜美さん...」


亜美は急に明るい声を出した。「あ、ごめんごめん! 急に重い話しちゃって」


しかし、美咲は真剣な表情で言った。「いいえ、私...分かるわ」


亜美は驚いた顔をした。「え?」


美咲は少し考えてから、静かに話し始めた。「私も...似たような経験があるの」


亜美は興味深そうに美咲を見つめた。


「読書会に行ったことがあって...」美咲は目を伏せながら言った。「みんな難しい言葉を使って、本の内容を議論していたの。でも...」


「でも?」亜美が促した。


「なんだか、本当の感動や理解じゃなくて、ただ知識を自慢し合っているように感じて...」美咲は少し悲しそうな顔をした。「私には、そういう場所は合わないなって思ったの」


亜美は目を丸くした。「へえ...美咲ちゃんでも、そういうことあるんだ」


美咲は小さく頷いた。「ええ。だから、亜美さんの気持ち、少し分かる気がするわ」


二人は少しの間、黙り込んだ。


その沈黙を破ったのは、鈴木店長だった。


「お二人さん、何か注文されますか?」優しい笑顔で鈴木店長が近づいてきた。


亜美は急に明るい声を出した。「あ、そうだ! 美咲ちゃん、さっき言ってたパフェ食べる?」


美咲は少し戸惑いながらも、「...そうね、じゃあお願いします」と答えた。


鈴木店長は二人の様子を見て、にっこりと笑った。「分かりました。特別サービスで、二つで一つ分の値段にしときますね」


「えー! ホントですか?」亜美は目を輝かせた。


美咲も小さく微笑んだ。「ありがとうございます」


鈴木店長は二人に軽くウインクをして立ち去った。


パフェを待つ間、亜美は美咲に話を振った。


「ねえ、美咲ちゃんって、どんな本が好きなの?」


美咲は少し驚いた顔をした。亜美が本の話題を振ってくるとは思っていなかったからだ。


「え、えっと...」美咲は少し考えてから答えた。「村上春樹とか、吉本ばななとか...」


「ふーん」亜美は首を傾げた。「どんな話なの?」


美咲は少し戸惑いながらも、ゆっくりと説明を始めた。「村上春樹さんの作品は、現実と非現実が交錯していて...」


亜美は真剣な顔で聞いていた。時々「難しそう」とか「ふーん」と言いながらも、しっかりと美咲の言葉に耳を傾けている。


美咲は徐々に話すペースが速くなっていった。本の話をする時の彼女は、普段より生き生きとしているようだった。


「...そして、主人公は自分の内面と向き合うことになるんです」美咲は熱心に説明を続けた。


亜美は少し考え込むように言った。「へえ...なんか、さっきの私たちの話に似てるね」


美咲は驚いた顔をした。「そう...かもしれないわね」


そのとき、鈴木店長がパフェを持ってきた。


「お待たせしました」鈴木店長は笑顔で言った。「特製ダブルベリーパフェです」


テーブルに置かれたパフェは、鮮やかな赤と紫のグラデーションが美しく、生クリームとミントの葉が爽やかなアクセントになっていた。


亜美は目を輝かせた。「わー! めっちゃ可愛い!」


美咲も思わず「綺麗...」とつぶやいた。


亜美は早速スプーンを手に取り、パフェをすくった。「美咲ちゃんも、早く食べよ!」


美咲は少し躊躇しながらも、スプーンを手に取った。


二人が同時にパフェを口に運ぶと、思わず顔を見合わせた。


「美味しい!」亜美が声を上げた。


美咲も小さく頷いた。「本当に...美味しいわ」


鈴木店長は満足そうに二人を見守っていた。


パフェを食べながら、二人の会話は続く。


亜美は美咲に、最近のファッショントレンドについて熱心に説明し始めた。美咲は最初は戸惑っていたが、次第に興味を持って聞き入るようになった。


「へえ...こんな風に組み合わせるんだ」美咲は感心したように言った。


亜美は嬉しそうに笑った。「でしょ? 美咲ちゃんも試してみたら?」


美咲は少し考えてから、「そうね...少しずつ挑戦してみようかな」と答えた。


亜美は手を叩いて喜んだ。「やった! 今度一緒に買い物行こうよ!」


美咲は少し困ったように笑ったが、「うん、行ってみようかな」と答えた。


そうこうしているうちに、パフェはあっという間になくなってしまった。


「あー、おいしかった」亜美は満足そうに言った。


美咲も「とても美味しかったわ」と笑顔で答えた。


二人が席を立とうとしたとき、鈴木店長が近づいてきた。


「お二人さん、楽しんでいただけましたか?」


亜美は元気よく「はい!」と答え、美咲も「とても」と小さく頷いた。


鈴木店長は満足そうに笑った。「良かった。また来てくださいね」


美咲と亜美は「はい」と答え、フードコートを後にした。


エスカレーターに乗りながら、亜美が美咲に聞いた。


「ねえ、美咲ちゃん。また会おうよ」


美咲は少し驚いた顔をしたが、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。「うん、そうね」


亜美は嬉しそうに飛び跳ねた。「やった! じゃあ、次はいつにする?」


美咲は少し考えてから答えた。「来週の土曜日は...どう?」


「オッケー!」亜美は元気よく答えた。「楽しみにしてるね!」


二人はモールの出口で別れを告げた。


亜美は派手に手を振りながら、「バイバーイ!」と叫んだ。


美咲も小さく手を振り返した。「また来週ね」


亜美の姿が見えなくなっても、美咲はしばらくその場に立っていた。


心の中で、何か温かいものが芽生え始めているのを感じていた。


これが友情の始まりなのかもしれない。そう思うと、美咲の顔に小さな笑みが浮かんだ。


美咲は深呼吸をして、ゆっくりと家路についた。


帰り道、美咲は空を見上げた。夏の終わりを告げる夕焼けが、美しく空を染めている。


その赤い空を見ながら、美咲は今日のことを思い返していた。


亜美との会話、意外な共感、楽しかったパフェ。


そして、芽生え始めた友情の予感。


美咲の心は、いつもより少し軽くなっていた。


明日からの日々が、今までとは少し違って見えるような気がした。


そんな気持ちを胸に、美咲は歩みを進めた。


来週の土曜日が、少し待ち遠しくなっていた。



秋の気配が漂い始めた土曜日の午後。ショッピングモールの入り口には、様々な年齢層の人々が行き交っていた。その中に、少し緊張した面持ちで立つ佐藤美咲の姿があった。


今日の美咲は、いつもとは明らかに違う雰囲気を醸し出していた。黒髪のロングヘアーは、普段のストレートではなく、柔らかなウェーブがかかっている。大きな黒縁メガネの代わりに、小ぶりの丸メガネをかけ、瞳の輝きがより際立っていた。


服装も大きく変わっていた。淡いピンクのブラウスに、膝上15センチほどのプリーツスカート。足元はローヒールのパンプス。全体的に可愛らしさを意識した服装だが、それでも派手すぎない控えめなコーディネートだ。


小さな手で携帯を握りしめ、美咲は時折周囲を見回している。


「美咲ちゃーん!」


聞き慣れた声に振り返ると、山田亜美が派手な足取りで近づいてきた。


今日の亜美は、さらにファッションに気合が入っているようだった。金髪は大きなお団子ヘアにまとめられ、耳元には大ぶりのフープピアスが揺れている。メイクは相変わらず派手だが、今日は特に目元が強調されていた。


ボディコンのミニワンピースは、彼女のスラリとした体のラインを余すところなく強調している。深いVネックから覗く胸元は、周囲の男性の視線を集めていた。足元はヒール高めのサンダルで、すらりとした脚がより一層長く見える。


「わー! 美咲ちゃん、超かわいい!」亜美は美咲の周りをくるくると回りながら言った。


美咲は少し赤面しながら、「あ、ありがとう...亜美さんこそ、とても...派手ね」と答えた。


亜美は満面の笑みで「でしょ?」と言いながら、美咲の手を取った。「さあ、行こう!」


「え? どこに...?」美咲は少し戸惑いながら聞いた。


「もちろん、ショッピング!」亜美は元気よく答えた。「美咲ちゃんのファッションセンスをもっと磨くの!」


美咲は少し困ったような顔をしたが、亜美の勢いに押されてモールの中に入っていった。


最初に向かったのは、若い女性向けのカジュアルブランドの店だった。


「ほら、美咲ちゃん。これとか似合いそう!」亜美は派手な柄のワンピースを手に取った。


美咲は少し引いた表情で「え、ええと...」と言いかけたが、亜美はすでに次の服を見つけていた。


「あ! これも可愛い!」今度はミニスカートだ。


美咲は困惑しながらも、亜美の熱心さに少し心を動かされていた。


「亜美さん」美咲は静かに言った。「少し...落ち着いた感じのものは...?」


亜美は少し考え込むような表情をした後、「あ、そっか!」と言って別のラックに向かった。


そこから選んだのは、シンプルなデザインのワンピースだった。色は落ち着いたネイビーで、丈も膝下まであるものだ。


「これなら大丈夫?」亜美は少し不安そうに聞いた。


美咲は目を輝かせた。「うん、素敵ね」


亜美は満足そうに笑った。「よし、じゃあ試着してみよう!」


美咲は少し躊躇したが、亜美に押されるように試着室に入った。


しばらくして美咲が試着室から出てくると、亜美は大きな声で歓声を上げた。


「わー! めっちゃ似合ってる!」


周囲の客の視線が集まる中、美咲は赤面しながらも嬉しそうな表情を浮かべていた。


「本当に...?」美咲は小さな声で聞いた。


「うん、絶対!」亜美は力強く頷いた。「ね、店員さん!」


近くにいた女性店員も、「お客様、とてもお似合いです」と笑顔で答えた。


美咲は照れくさそうに微笑んだ。


結局、そのワンピースを購入することになった。レジに向かう途中、美咲は亜美に聞いた。


「亜美さんは何か買わないの?」


亜美は首を振った。「今日は美咲ちゃんのためのショッピングだからね!」


美咲は少し驚いた顔をした。「私のため...?」


亜美はにっこりと笑った。「うん。友達のためにショッピングするの、楽しいんだ」


友達。その言葉に、美咲の胸が温かくなった。


買い物を終えた二人は、フードコートに向かった。


「やっぱりここだね」亜美が言った。


美咲も小さく頷いた。「うん、なんだか落ち着くわ」


二人がいつもの席に座ると、鈴木店長が近づいてきた。


「いらっしゃい」鈴木店長は笑顔で言った。「お二人さん、今日は買い物ですか?」


亜美が元気よく答えた。「はい! 美咲ちゃんに素敵な服を買ったんですよ!」


鈴木店長は美咲を見て、「へえ、楽しみですね」と言った。


美咲は少し恥ずかしそうに頷いた。


「じゃあ、何にしますか?」鈴木店長が聞いた。


亜美が美咲に向かって、「今日は美咲ちゃんが選んでよ」と言った。


美咲は少し考えてから、「じゃあ...紅茶とスコーンをお願いします」と答えた。


亜美も「私も同じで!」と言った。


鈴木店長は「分かりました」と言って立ち去った。


二人が待っている間、亜美が話し始めた。


「ねえ、美咲ちゃん。さっき言ってた本のこと、もう少し詳しく聞かせてよ」


美咲は少し驚いた顔をした。「本当に...興味あるの?」


亜美は頷いた。「うん。前に話してくれた時、なんか面白そうだなって思ったんだ」


美咲は嬉しそうに微笑んだ。「そう...じゃあ、『ノルウェイの森』っていう本について話そうかな」


美咲は丁寧に、しかし熱を込めて本の内容を説明し始めた。主人公の青年の恋と成長、喪失感、そして人生の意味を探す旅...


亜美は真剣な表情で聞いていた。時々「へえ」とか「なるほど」と相槌を打ちながら、美咲の言葉に耳を傾けている。


説明が一段落したところで、亜美が言った。「なんか...私たちみたいだね」


美咲は少し驚いた。「どういう意味?」


亜美は少し考えてから答えた。「なんていうか...私たちも今、自分探しの旅みたいなことしてるんじゃない?」


美咲は目を丸くした。「亜美さん...」


そのとき、鈴木店長が注文を持ってきた。


「お待たせしました」鈴木店長は笑顔で言った。「紅茶とスコーンです」


テーブルに置かれた紅茶は、良い香りを漂わせていた。スコーンも、黄金色に焼き上がっており、美味しそうだ。


亜美は「わー、いい匂い!」と言って、早速紅茶に口をつけた。


美咲も静かに紅茶を飲み始めた。


しばらく沈黙が続いた後、美咲が静かに言った。「亜美さんの言うとおりかもしれないわ」


亜美は美咲を見た。


「私たち、確かに自分探しの旅の途中なのかも」美咲は続けた。「でも、一人じゃなくて二人で...」


亜美は明るく笑った。「そうだね! 二人の方が絶対楽しいもん!」


美咲も小さく微笑んだ。


スコーンを食べながら、二人の会話は続く。


今度は亜美が、最近のトレンドメイクについて熱心に説明し始めた。


「ほら、アイシャドウの塗り方一つで、目の形が全然変わるんだよ」亜美は自分の目元を指さしながら言った。


美咲は興味深そうに聞いていた。「へえ...難しそう」


亜美は「全然難しくないよ!」と言って、スマートフォンでメイクチュートリアル動画を見せ始めた。


美咲は少し戸惑いながらも、真剣に画面を覗き込んでいた。


「次は美咲ちゃんにメイクしてあげる!」亜美は目を輝かせて言った。


美咲は少し困ったように笑ったが、「うん...少しずつ挑戦してみようかな」と答えた。


そうこうしているうちに、紅茶とスコーンはなくなってしまった。


「美味しかった」美咲は満足そうに言った。


亜美も「うん、すっごく!」と答えた。


二人が席を立とうとしたとき、鈴木店長が近づいてきた。


「楽しんでいただけましたか?」


亜美は元気よく「はい!」と答え、美咲も「とても」と柔らかく微笑んだ。


鈴木店長は満足そうに頷いた。「良かった。二人とも、前より明るくなったみたいですね」


美咲と亜美は少し驚いた顔で顔を見合わせた。


鈴木店長は優しく笑って、「また来てくださいね」と言った。


二人は「はい」と答え、フードコートを後にした。


モールの出口に向かう途中、亜美が美咲に聞いた。


「ねえ、次はいつ会う?」


美咲は少し考えてから答えた。「そうね...来週の日曜日は大丈夫?」


「オッケー!」亜美は嬉しそうに飛び跳ねた。「楽しみにしてるね!」


出口で別れる前、亜美が突然美咲を抱きしめた。


「今日は楽しかった! ありがとう、美咲ちゃん」


美咲は最初驚いたが、すぐにほっこりとした表情になり、少しぎこちなく亜美の背中を軽くたたいた。


「私こそ...ありがとう、亜美さん」


二人は笑顔で別れを告げた。


亜美は派手に手を振りながら、「バイバーイ!」と叫んだ。


美咲も小さく手を振り返した。「また来週ね」


亜美の姿が見えなくなった後も、美咲はしばらくその場に立っていた。


心の中で、確かな変化を感じていた。


これが友情というものなのか。そう思うと、美咲の顔に自然な笑みが浮かんだ。


美咲は深呼吸をして、ゆっくりと家路についた。


帰り道、美咲は空を見上げた。秋の澄んだ青空が広がっている。


その青空を見ながら、美咲は今日のことを思い返していた。


亜美との買い物、新しい服、楽しかった会話。


そして、確かに芽生えた友情。


美咲の心は、いつもより軽やかだった。


これからの日々が、今までとは違って見えるような気がした。


家に着くと、美咲は早速新しく買ったワンピースを着てみた。


鏡の前で、いつもと少し違う自分を見つめる。


少しずつだけど、確実に変わっている。


その変化が、怖くはなかった。むしろ、少しワクワクするような気持ちだった。


美咲は鏡の中の自分に向かって、小さく微笑んだ。


「ありがとう、亜美さん」


そっとつぶやいた言葉が、部屋に優しく響いた。


来週の日曜日が、今から待ち遠しかった。



秋晴れの日曜日、ショッピングモールの前には色とりどりの落ち葉が舞っていた。その中を、佐藤美咲が軽やかな足取りで歩いてくる。


今日の美咲は、さらに大きな変化を遂げていた。黒髪は肩で跳ねるミディアムヘアにカットされ、柔らかな動きが加わっている。メガネは控えめなフレームのものに変わり、化粧っ気のなかった顔にも、薄くチークが入っていた。


服装も大きく進化していた。前回買ったネイビーのワンピースに、ベージュのカーディガンを羽織っている。首元にはさりげなくスカーフを巻き、全体的に洗練された雰囲気を醸し出していた。足元はローヒールのパンプスで、少し背が高くなったように見える。


美咲は少し緊張した面持ちで、時計を確認しながら周囲を見回していた。


「美咲ちゃーん!」


振り返ると、山田亜美が元気よく手を振りながら駆けてきた。


今日の亜美もまた、目を見張るような出で立ちだった。金髪は大きなウェーブがかかり、まるでファッション誌から抜け出してきたかのよう。メイクは相変わらず派手だが、以前より洗練された印象を与えていた。


ボディラインを強調したタイトなレザージャケットに、ミニスカート姿。長い脚にはネットタイツを履き、ヒールの高いブーツを履いている。全身から「クールな大人の女性」というオーラを放っていた。


「わー! 美咲ちゃん、めっちゃ可愛くなってる!」亜美は美咲の周りをくるくると回りながら言った。


美咲は少し照れくさそうに微笑んだ。「ありがとう。亜美さんも、とてもカッコいいわ」


亜美は満面の笑みで「でしょ?」と言いながら、ポーズを取った。「今日はどこに行く?」


美咲は少し緊張した様子で答えた。「実は...図書館に行ってみたいなと思って」


亜美は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。「いいね! 行こう行こう!」


二人は並んで歩き始めた。途中、亜美が美咲に尋ねた。


「ねえ、美咲ちゃん。髪切ったの?」


美咲は少し恥ずかしそうに頷いた。「うん...亜美さんに勧められて、思い切ってみたの」


亜美は嬉しそうに手を叩いた。「似合ってる! すっごく可愛い!」


美咲の頬が少し赤くなった。「ありがとう...」


図書館に着くと、亜美は少し緊張した様子で周りを見回した。


「静かにしないとダメなんだよね?」亜美は小声で聞いた。


美咲は優しく微笑んだ。「うん、でも普通に話すくらいなら大丈夫よ」


二人は静かに中に入っていった。


美咲は慣れた様子で本棚を見て回り、いくつかの本を手に取った。


「これ、亜美さんも読んでみない?」美咲は一冊の本を亜美に差し出した。


亜美は少し戸惑いながらも、本を受け取った。「『キッチン』...吉本ばなな?」


美咲は頷いた。「うん、とても読みやすくて、でも深い内容なの」


亜美は興味深そうに本を開いた。


二人は静かな読書コーナーに座り、しばらく本を読んでいた。


時折、亜美が小さな声で「へえ」とか「なるほど」と呟くのが聞こえた。


1時間ほど経ったころ、亜美が顔を上げた。


「ねえ、美咲ちゃん」亜美は少し興奮した様子で言った。「この本、すごく面白い!」


美咲は嬉しそうに微笑んだ。「本当? よかった」


亜美は目を輝かせながら続けた。「主人公の気持ち、なんかわかる気がする。孤独とか、家族のこととか...」


美咲は少し驚いた顔をした。「亜美さん...」


二人は静かに見つめ合い、何か大切なものを共有したような気がした。


そのとき、美咲のお腹が小さく鳴った。


亜美は笑いを堪えながら、「お腹すいた?」と聞いた。


美咲は少し赤面して頷いた。


「じゃあ、そろそろご飯食べに行こうよ」亜美が提案した。


美咲も同意し、二人は図書館を後にした。


外に出ると、すっかり日が傾いていた。


「どこで食べる?」亜美が聞いた。


美咲は少し考えてから答えた。「実は...行ってみたい場所があるの」


亜美は興味深そうに美咲を見た。「どこどこ?」


美咲は少し恥ずかしそうに言った。「カフェ...なんだけど」


「カフェ?」亜美は首を傾げた。「フードコートじゃなくて?」


美咲は小さく頷いた。「うん...亜美さんが言ってた、新しいことに挑戦してみようと思って」


亜美の顔が輝いた。「いいね! 行こう行こう!」


二人は美咲が調べておいたカフェに向かった。


カフェに入ると、落ち着いた雰囲気が二人を包み込んだ。


木の温もりを感じる内装に、ジャズのBGM。壁には芸術的な写真が飾られている。


亜美は興味深そうに周りを見回した。「おしゃれ~!」


美咲も嬉しそうに微笑んだ。「良かった、気に入ってもらえて」


二人はメニューを見ながら、注文を決めた。


美咲はアボカドトーストとハーブティー、亜美はパンケーキとカフェラテを選んだ。


料理が運ばれてくると、亜美は早速スマートフォンを取り出した。


「ちょっと待って」亜美は真剣な顔で言った。「インスタ映えする角度を探すから」


美咲は少し困惑しながらも、亜美の様子を見守っていた。


亜美は何枚か写真を撮ると、満足そうに笑った。


「よーし、完璧!」亜美は嬉しそうに言った。「美咲ちゃんも一緒に写真撮ろう!」


美咲は少し躊躇したが、亜美の熱意に押されて同意した。


二人で自撮りをしたり、お互いを撮り合ったりしながら、楽しい時間が過ぎていった。


食事を楽しみながら、二人は様々な話をした。


美咲は図書館で見つけた新しい本について熱く語り、亜美は最新のファッショントレンドについて説明した。


話題は自然と、お互いの家族のことにも及んだ。


「実は...」亜美が少し神妙な顔で言った。「私、両親が離婚してて。お母さんと二人暮らしなんだ」


美咲は驚いた顔をした。「そうだったの...」


亜美は少し寂しそうに笑った。「だから、さっきの本の主人公の気持ち、よくわかったんだ」


美咲は静かに亜美の手を握った。「亜美さん...」


亜美は美咲を見て、明るく笑った。「でも大丈夫! お母さんと仲良くやってるし。それに...」亜美は少し照れくさそうに続けた。「美咲ちゃんみたいな友達もできたし」


美咲の目に、小さな涙が光った。


二人は静かに見つめ合い、温かな気持ちを共有した。


食事を終え、カフェを出た二人は、夕暮れの街を歩いた。


「ねえ、美咲ちゃん」亜美が突然言った。「私ね、美咲ちゃんと友達になれて、本当に良かったと思う」


美咲は少し驚いたが、すぐに優しい笑顔を浮かべた。「私も...亜美さんと友達になれて、本当に嬉しいわ」


亜美は美咲の肩を抱いた。「これからも、いろんなこと一緒にしようね!」


美咲は頷いた。「うん、楽しみにしてるわ」


二人は笑顔で歩き続けた。


街灯が次々と灯り始め、秋の夜の訪れを告げていた。


別れ際、亜美が美咲に聞いた。


「次はいつ会う?」


美咲は少し考えてから答えた。「来週の土曜日は...どう?」


「オッケー!」亜美は元気よく答えた。「楽しみにしてるね!」


二人は互いに手を振り、別々の道を歩き始めた。


美咲は家に向かう途中、空を見上げた。


夕焼けに染まった空には、まだかすかに青さが残っていた。


その空を見ながら、美咲は今日のことを思い返していた。


図書館での発見、カフェでの会話、そして深まった友情。


美咲の心は、幸せな気持ちで満たされていた。


家に着くと、美咲はすぐにスマートフォンを手に取った。


亜美から送られてきた、今日撮った写真を見る。


写真の中の自分は、以前よりも明るく、自信に満ちているように見えた。


美咲は小さく微笑んだ。


「ありがとう、亜美さん」


そっとつぶやいた言葉が、部屋に優しく響いた。


美咲は、これからの日々がますます楽しみになってきた。


新しい自分、新しい世界。


そして、大切な友人との絆。


全てが、美咲の人生に彩りを添えていくようだった。



秋も深まり、木々が鮮やかに色づき始めた土曜日。ショッピングモールの前には、赤や黄色の落ち葉が舞い散る中、佐藤美咲が立っていた。


今日の美咲は、さらなる変貌を遂げていた。肩まで伸びた黒髪には、さりげなくハイライトが入れられ、柔らかな印象を与えている。メイクも以前より洗練され、薄いピンクのリップと、ナチュラルながらも目元を強調したアイメイクが、彼女の大きな瞳をより魅力的に引き立てていた。


服装は、ベージュのトレンチコートにスキニーデニムを合わせ、首元にはシルクのスカーフを巻いている。足元は、少しヒールの高いブーティーで、全体的に大人っぽい雰囲気を醸し出していた。


美咲は少し緊張した面持ちで、スマートフォンを握りしめながら周囲を見回していた。


「美咲ちゃーん!」


振り返ると、山田亜美が笑顔で手を振りながら駆けてきた。


今日の亜美も、相変わらず目を引く出で立ちだった。金髪は、根元から黒髪が少し伸びかけており、あえてのツートンカラーが個性的だ。メイクは派手すぎず、でも亜美らしさを失わない絶妙なバランス。


ボディにフィットしたニットワンピースに、レザーのライダースジャケットを羽織っている。足元は、膝上まである黒のロングブーツ。全身から「都会的でクールな女性」というオーラを放っていた。


「わー! 美咲ちゃん、またイメチェン?」亜美は美咲の周りをくるくると回りながら言った。「超似合ってる!」


美咲は少し照れくさそうに微笑んだ。「ありがとう。亜美さんこそ、とってもお洒落ね」


亜美は満面の笑みで「でしょ?」と言いながら、クルッと一回転した。「それで、今日はどこに行くの?」


美咲は少し緊張した様子で答えた。「実は...美容院に行こうかなって」


亜美は目を丸くした。「えっ! マジで?」


美咲は小さく頷いた。「うん...もっと変わりたいなって」


亜美は嬉しそうに飛び跳ねた。「やったー! 私も行く行く!」


二人は並んで歩き始めた。途中、亜美が美咲に尋ねた。


「ねえ、美咲ちゃん。どんな髪型にするの?」


美咲は少し考え込むように言った。「まだ決めてないの...亜美さん、アドバイスしてくれる?」


亜美の目が輝いた。「もちろん! 任せて!」


美容院に着くと、美咲は少し緊張した様子で椅子に座った。


亜美は美容師さんと熱心に話し合い、美咲の新しいヘアスタイルについて相談している。


「ねえねえ、美咲ちゃん」亜美が興奮した様子で言った。「思い切ってショートにしてみない?」


美咲は少し驚いた顔をした。「ショート...?」


亜美は熱心に説明を始めた。「うん! 美咲ちゃんの綺麗な顔立ちが、もっと引き立つと思うんだ。それに、イメージチェンジにはピッタリ!」


美咲は少し迷った様子だったが、深呼吸をして決心したように言った。「わかったわ。やってみる」


亜美は嬉しそうに手を叩いた。「やったー! 絶対似合うよ!」


美容師さんがカットを始めると、美咲は少し緊張した面持ちで鏡を見つめていた。


長かった黒髪が、次々と床に落ちていく。


亜美は興奮した様子で、「わー、かわいい!」「すごくいい感じ!」と声をあげていた。


約1時間後、美容師さんが「はい、できあがりです」と言った。


美咲は恐る恐る鏡を見た。


そこに映っていたのは、今までの自分とは全く違う、新しい美咲だった。


首すじがすっきりと見える、耳にかかるくらいの長さのショートヘア。前髪は少し長めで、サイドに流すスタイル。全体的に柔らかな印象で、でも大人っぽさも感じられる。


美咲は驚きのあまり、言葉を失った。


「どう? 超似合ってるでしょ!」亜美が嬉しそうに言った。


美咲は小さく頷いた。「うん...全然違う私」


美容師さんも「とてもお似合いですよ」と笑顔で言った。


美容院を出た二人は、新しくなった美咲の姿に興奮していた。


「ねえねえ、これを記念に写真撮ろうよ!」亜美が提案した。


美咲は少し恥ずかしそうだったが、同意した。


二人は近くの公園で、紅葉をバックに写真を撮り合った。


「インスタにアップしていい?」亜美が聞いた。


美咲は少し躊躇したが、「うん、いいわ」と答えた。


亜美はすぐにスマートフォンを操作し始めた。「よーし、アップ完了!」


そのとき、美咲のスマートフォンが鳴った。


「あら?」美咲は画面を見て驚いた顔をした。


「どうしたの?」亜美が聞いた。


美咲は少し困ったように言った。「クラスメイトから、たくさんコメントが来てる...」


亜美は興味深そうに覗き込んだ。「へえ、みんな美咲ちゃんの変化に驚いてるんだね!」


美咲は少し赤面しながら、コメントを読み上げた。「『すごく似合ってる!』『美咲、可愛くなった!』『明日学校で会うのが楽しみ』...」


亜美は嬉しそうに手を叩いた。「ほらね! みんな喜んでるよ!」


美咲は少し照れくさそうに微笑んだ。「うん...ありがとう、亜美さん」


二人は公園のベンチに座り、しばらく休憩することにした。


「ねえ、美咲ちゃん」亜美が突然真剣な顔で言った。「私ね、美咲ちゃんと出会って、本当に良かったと思う」


美咲は少し驚いた顔をした。「亜美さん...」


亜美は続けた。「美咲ちゃんと友達になって、いろんなことを知ったし、考えるようになったんだ。本を読むのも楽しくなったし...」


美咲は優しく微笑んだ。「私も同じよ。亜美さんのおかげで、新しいことにチャレンジする勇気が出たわ」


二人は静かに見つめ合い、温かな気持ちを共有した。


そのとき、美咲のスマートフォンがまた鳴った。


「あら、今度は...」美咲は少し困惑した顔をした。


「どうしたの?」亜美が聞いた。


美咲は戸惑いながら答えた。「男子から...デートの誘いが来てる」


亜美は驚いた顔をした後、大きな声で「やったー!」と叫んだ。


美咲は慌てて亜美の口を押さえた。「シッ! 大声出さないで...」


亜美は興奮した様子で言った。「でも、すごいじゃん! 美咲ちゃんのイメチェン大成功だよ!」


美咲は困惑した顔で言った。「でも...どうしよう。断ろうかな...」


亜美は真剣な顔で美咲を見た。「どうして? せっかくのチャンスだよ」


美咲は小さな声で答えた。「だって...私、デートなんてしたことないし...」


亜美は優しく微笑んだ。「大丈夫だよ。私が全部教えてあげる!」


美咲は少し戸惑いながらも、亜美の熱意に押されて頷いた。「わかったわ...やってみる」


亜美は嬉しそうに飛び跳ねた。「やったー! デート対策、今から始めよう!」


二人はそのまま、カフェに移動した。


落ち着いた雰囲気のカフェで、亜美は熱心にデートのアドバイスを始めた。


「まず、服装ね!」亜美は真剣な顔で言った。「カジュアルすぎず、でもキメすぎないのがポイント」


美咲は真剣に聞き入っている。


「そして、会話のコツ!」亜美は続けた。「相手の話をよく聞いて、適度に相槌を打つの。それと、自分の興味あることも話すのを忘れずに」


美咲は小さく頷きながら、メモを取っていた。


「あと、デートの場所も大事!」亜美は熱心に説明を続けた。「映画とか、カフェとか、遊園地とか...」


二人の会話は尽きることなく続いた。


気がつけば、外は薄暗くなっていた。


「わー、こんな時間!」亜美が驚いた声を上げた。


美咲も驚いた顔をした。「本当ね...時間が経つのも忘れてたわ」


二人は笑い合った。


カフェを出た後、二人は夕暮れの街を歩いた。


「ねえ、美咲ちゃん」亜美が突然言った。「私ね、美咲ちゃんのこと、本当に大切な友達だと思ってる」


美咲は優しく微笑んだ。「私も...亜美さんのこと、大切な友達だと思ってるわ」


亜美は美咲の肩を抱いた。「これからも、一緒にいろんなこと経験しようね!」


美咲は頷いた。「うん、楽しみにしてるわ」


二人は笑顔で歩き続けた。


街灯が次々と灯り始め、秋の夜の訪れを告げていた。


別れ際、亜美が美咲に聞いた。


「デートの日、応援に行ってもいい?」


美咲は少し驚いたが、すぐに笑顔になった。「うん、来てくれると心強いわ」


「やった!」亜美は嬉しそうに言った。「絶対成功させようね!」


二人は互いに手を振り、別々の道を歩き始めた。


美咲は家に向かう途中、空を見上げた。


夕焼けに染まった空には、ほんの少し星が瞬き始めていた。


その空を見ながら、美咲は今日のことを思い返していた。


大胆な髪型の変更、友人たちの反応、そして初めてのデートの約束。


美咲の心は、期待と不安が入り混じった複雑な気持ちで満たされていた。


家に着くと、美咲は鏡の前に立った。


短くなった髪に、少しだけ手を触れる。


鏡に映る自分は、数ヶ月前とは全く違う姿だった。


外見だけでなく、内面も大きく変わったことを実感する。


美咲は小さく微笑んだ。


「ありがとう、亜美さん」


そっとつぶやいた言葉が、部屋に優しく響いた。


美咲は、これからの日々に期待と希望を感じていた。


新しい自分、新しい経験。


そして、大切な友人との絆。


全てが、美咲の人生をより豊かなものにしていくようだった。


明日は、また新しい一日の始まり。


美咲は、その日を心待ちにしながら、静かに目を閉じた。

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ギャルと眼鏡女子の放課後フードコートから始まる私の革命! 島原大知 @SHIMAHARA_DAICHI

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