青い春の薔薇

九戸政景

本文

「はあ、はあ……」



 走り終え、僕は立ち止まりながら荒く息を吐く。そしてそこに陸上部のマネージャーの矢嶋やじま青生あおい君が近づいてくる。



「タイムは……うん、少し縮まってる」

「ほ、ほんと?」

「ああ、やったじゃん。矢陸やりく



 青生君は嬉しそうに僕の頭を撫でてくれる。その手の温かさで思わずポワンとしてしまう。



「え、えへへ……ありがとう」

「まあオーバーワークになってもよくないし、そろそろ俺達も上がろうぜ」

「うん。矢嶋君、付き合ってくれてありがとうね」

「マネージャーで幼馴染みだから当然だよ。ほら、行こうぜ」

「う──」



 その瞬間、体がグラッと揺れる。



「春樹!」



 瞬時に青生君が手を掴んでくれ、そのまま僕を抱き締める。少し強めだったので苦しかったけれど、青生君の胸の中だと思うととても安心した。



「あはは……ごめん」

「まったく……とりあえず着替えも手伝うからその前に少し休むぞ。お前、体力ないのに中学になっていきなり陸上部に入るとか言い出すんだから……」

「だ、だって……」



 君の将来の夢を知ってしまったから、その言葉を飲み込み、僕は口をつぐむ。青生君はそんな僕を見るとため息をつく。



「……まあいいけどさ。でも、お前が頑張りたいなら俺は応援する。マネージャーとしても幼馴染みとしても、それと……」

「それと?」

「な、なんでもない! ほら! 俺達のチーム、アプローズのためにも明日からまた頑張るぞ!」

「うん!」



 そして青生君に手を引かれながら僕は歩き始める。アプローズは青い薔薇の名前の一つで、青い薔薇の花言葉は“夢叶う”や“奇跡”。少し前は“不可能”とかだったそうだけど、僕はこのチームの名前を大切にしながら頑張りたい。そして叶えるんだ、君とずっと一緒にいるという夢も。


 そんな決意を固めながら僕は大切な人がそばにいてくれるあたたかさを感じ、幸せの中で青生君と部室に向けて歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青い春の薔薇 九戸政景 @2012712

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ