第6話 上手なアメのあげ方

 勉強を始めて3日が経った。文字の書き取りと音読、足し算と引き算の計算を繰り返す。

 正直、楽しくない……。

 そもそも、じっと椅子に座わる事に慣れない。ずっと座っていると、ムカムカした気持ちが大きくなる。

 ……別に文字が書けなくたって、計算が出来なくたって、生活で不便なんてしないのに。

 そんな事を考えていると、ルーさんにじっと見られている事に気づく。


「? なんですか?」

「いや、何でもないよ」


 そう言うと、ルーさんは手に持っている本に目を移す。

 あんなたくさんの文字で埋め尽くされてる物を読めるなんて。ルーさんって何者?


 ***


 ルーさんのお店の開店まであと3日。

 あたしは勉強と並行して、接客の練習をしていた。挨拶、注文の取り方、コーヒーやお茶の淹れ方、清掃etc。

 大変だけど、勉強よりはずっと楽だ。


「あの、これは?」


 あたしはテーブルの上に置いてある物についてルーさんに尋ねた。


「この店の給仕服。仕立て屋がさっき届けてくれてね」


 そんなものまで用意してたんだ……。


「それは君の分だから着てみるといい」


 早速、あたしはその給仕服に着替えた。

 白と赤でデザインされた服。所々にひらひらが施されていてとっても……


「可愛いですね!」

「そうかい? 実はそれ僕がデザインした物でね。気に入ってもらえたなら良かった」


 そしてルーさんは改めてあたしを見る。


「うん。とても可愛いね」


 そう言ってあたしの頭を撫でた。


「……」


 わかってる。服のことだ。

 でも正面きって言われると、なんだか、照れる……。


「おや? そろそろお昼の時間だね」


 時計を見ると、ルーさんはお店のキッチンに向かった。

 するとルーさんはお皿を手に持って戻ってくる。


「今日はお店のメニューを作ってみたんだ」


 そのお皿の上にあるのは──豪華な料理。


「え、これ! え⁉︎」


 いつも作ってくれるご飯とは見栄えが違う。


「さ、食べて感想を聞かせてくれ」


 あたしはおそるその料理にフォークを伸ばした。


「お、美味しい!」


 いつも美味しいご飯を作ってくれるけど、今日のはほっぺたが落ちてしまうくらい美味しかった。


「どうしてこんなに美味しいんですか⁉︎」

「下準備を念入りにした逸品だからね」

「ルーさん……」

「ん?」

「なんだか料理人みたいですね!」

「というかもろ料理人だよね」


 うん、本当に美味しい。

 こんなに美味しい料理、あたしの故郷の村にはなかった。


「……」


 料理を飲み込むと、あたしは決意する。


「あの!」

「ん?」

「あたしに料理を教えてくれませんか!」


 分かっている。自分の立場くらい。でも、湧き上がる衝動を止められない。


「そういば君は料理人になりたいんだっけ?」

「はい!」

「といっても、店の営業で忙しいしな……」

「お願いします!」


 あたしはルーさんに必死に頭を下げた。こんなに真剣に頼み事をしたのは人生で初めてかもしれない。


「──ふ」


 そのとき、ルーさんは少し笑った気がした。


「分かった。いいよ」

「本当ですか!」


 やった! まさかここで料理の勉強が出るなんて!


「ただし、条件がある」

「!」


 ってまた⁉︎


「一月後に勉強の成果を見るためのテストをしよう思っていね」

「てすと、ですか?」

「そのテストに合格できたなら、教えてあげよう」


 テストに合格すれば、料理を教えてもらえる!


「絶対ですよ! 約束ですからね!」

「あぁ、ただしテストの結果が散々だったらこの話は無しだよ」


 よし! 絶対に料理を教えてもらうんだからっ!

 その日の夜、あたしは遅くまで勉強した。

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楽しい楽しいどれい喫茶店 low @ryo708054

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