奈落の星
五三竜
奈落の星
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……ある日、世界中に星が降ってきた。その星達は瞬く間に世界の地形を変えていき、発展した世界を壊してしまった。
その日から世界は衰退し人々の生活は困難になってしまった。一軒家やマンションは破壊され、店に並んだ商品は灰に変わった。
さらに、落ちてきた星からは正体不明のガスが漏れだし人々を苦しめる。青かった空は黒く染まり、世界は闇に閉ざされた。
そんな時だった。ある1人の男性の体に異変が訪れる。なんと、体が発光していたのだ。そして、その男性が発光したのと同じタイミングで周りの人達も異変が起こる。
水を出す人、炎を出す人、風を起こす人、雷を引き寄せる人など様々な能力を入手する人が増えていった。
そしてそれが後の『ファントム』と呼ばれる超能力社会の始まりだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……そして今……
「……」
男は無言で歩いていた。
「見てください!この力を!この圧倒的な力でまた彼が人を助けました!」
街の電気屋に置いてあるテレビからそんな声が聞こえる。
「俺の能力でお前らを笑わせたるで」
その隣のテレビでは芸人のような人がそんなことを言っていた。
「皆様、よく見ててくださいね……」
またまた隣のテレビからはそんな声が聞こえる。そして、マジックのようなものをしていた。
「……」
男はそんな街中に1人でたっている。まるで、そこが自分の居場所なのかと思われるように立っている。
そして、そんな男の周りにも人がたっていた。皆男と同じような年齢だ。
「……なぁ、本当に今日なんだよな?」
男に誰か話しかけた。
「多分ね。あれが本当なら、今日世界は終わる」
男はそう言う。
「「「……」」」
その言葉でその場にいる人は皆黙ってしまった。
ここら辺で男の紹介をしておこう。男の名前は
颯斗はある国の機関学校に所属している。その理由は、簡潔に言えば星が空から降ってきたからだ。
星が空から降ってきた日から世界中の有能なファントムをかき集め、国際的な機関学校を作った。颯斗が在籍しているのは、その機関学校の日本支部である。
颯斗達はある任務でここまで来ていた。その任務というのは、ある予言と深く関係している。
その予言と言うのはちょうどこの日に世界が大きく変わるというものだった。
初めて超能力社会になった日に予言の力を手にしたものが言った。
『3000年の7月11日に世界は大きく変わる。全ての国の中心に強大な力が襲い、人は絶滅する』
予言はそういう内容だった。アメリカとの時差もあるが、その日に近い日にそういうことが起こるということだけは分かる内容だった。
普通の世界なのであればそのようなものは虚言に過ぎない。誰も信じないで、直ぐに忘れられる。たとえ信じる者がいても、心のどこかでは当たらないと確信している。
だが、この世界は超能力社会だ。超能力が全ての社会で予言というものは絶大な力を持つ。だからこそ1000年近い年月を経ても信じられてきたのだ。
そして、今日はその時。世界が大きく変わる日なのだ。今こうして颯斗達がいるのも、その予言があったから。颯斗達は予言のために集められた兵士のようなものなのだ。
「全く、今日は俺の誕生日なのになんでこんなことになるんだよ」
颯斗は小さくつぶやく。クラスメイトはその言葉を聞いて苦笑いを浮かべる。
「まぁまぁ、そうカッカするにゃよにゃ」
そう言って猫耳をつけた少女が颯斗の横に立った。
「にゃあが隣にいるから安心するにゃ。それに、こうしておミャーが強くなれたのもにゃあのおかげにゃんよ」
「ま、そうだけどさ。ある意味お前のおかげだよ」
颯斗は皮肉めいた口調でそう言う。
彼女の名前は
実は、2人は幼なじみで、とても仲が良い。だから、こういう日でもいつも通りの会話をする。
「それにしても、ここに配属されたのがにゃあ達だけじゃないってのが驚きにゃん」
「当たり前だろ。ここが予言の地に最も近いんだ。一目見たいって人も多いんだろう。それに、俺達のことを気に食わない人は沢山いる。だからこそ日本という国は独自に自衛隊を派遣させたんだ。世界の機関である俺らとは別でな」
「そういうものにゃのね」
未来は何となく納得して自衛隊の人々を見つめる。すると、自衛隊の人達は鋭い目つきで睨み返してきた。その目に一瞬未来は怖気付くが、直ぐに颯斗にくっつくことで心を落ち着けさせた。
「2人とも、気を引き締めて。もうすぐ時間だよ」
後ろからクラスメイトの1人が言った。その言葉で2人は気を引き締め直す。
「カウントダウンしてくれ」
「分かった。予言の時刻まであと15秒……10秒……9……8……7……6……5……4……」
「ん?」
「なにか感じるにゃん……」
残り時間が近づく中、2人は何かを感じる。そして、颯斗は上空に違和感を感じた。だから、上空を見上げその違和感を確認しようとする。
そして、颯斗ら予言の日から暗くなっていた空にぽっかりと穴が空いていることに気がついた。その穴の先は、本来宇宙が見えるはずなのに真っ黒な暗闇が見えており、まるで絶望の象徴でもあるかのように見えた。
「……3……2……1……」
カウントダウンは進んでいく。そして、それと一緒に星が降ってくる。
「……0……」
クラスメイトのその言葉と同時にその星は颯斗の目の前に落ちてきた。強い衝撃波が出てクラスメイトを吹き飛ばす。そして、近くにいた自衛隊ももれなく吹き飛ばされた。
颯斗と未来は何とかその場に留まることに成功する。強い衝撃波によって巻き上げられた砂煙の中2人は何とかそこに落ちてきたものを見ようとした。
そして、2人はそれを見て絶望した。
「っ!?……未来……逃げろ!」
颯斗は声をはりあげ未来にそう叫ぶと、未来の体をお姫様抱っこで抱き上げその場から全速力で逃げ出す。そして、何とか遮蔽物の影に隠れることに成功した。
そんな時、立ち上がった自衛隊の1人が砂煙の中にいる『何か』に向けて攻撃を放った。
「”ウインドカッター”」
鋭い風の刃が砂煙を切り裂きながら『何か』にぶつかる。そして、その攻撃で砂煙が拡散し『何か』の全貌が見えてきた。
その『何か』と言うのは怪物だった。身体中が真っ青で、目は宇宙のようになっている。そして、どこからどう見ても龍のように見えた。
「な、なんなんだ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
自衛隊の人の悲鳴が聞こえる。遮蔽物に隠れながらこっそりとその様子を伺うと、その怪物が自衛隊の人の体を巨大な爪で貫いているのが見えた。
そして、自分達が隠れている場所の近くにまで血が飛んできていることにも気がついた。
「クソ……!」
颯斗は誰にも聞こえないように呟く。すると、未来が慌てた様子で言ってきた。
「は、颯斗……これ……」
プルプルと震えた手で見せられた端末にはある1本の動画が映っていた。そこには、今颯斗の目の前で人を殺した怪物と同じような怪物が映っている。少し色が違うが、恐らく同種のものだろう。
そして、その怪物もその場の人達を殺していた。話している言語や立っている国旗からそこがアメリカだと直ぐにわかったが、アメリカ支部のファントムが瞬く間に殺されていく様子が映っている。
「何が起こっているんだ……!?」
颯斗は小さく呟く。恐らくクラスメイトも何かを察してハイドしている。完璧に気配を消して出方を見ているのだろう。
「……」
怪物がうずくまった。特に誰か攻撃したわけじゃないのにそんなことをする。颯斗はそれが何を意味するのか分からなかった。
しかし、唯一わかっている人がそこにいた。それは未来だ。未来は動画でそれを見ていたから何をするのか分かったのだ。
「……ダメ……!皆逃げて!」
未来は大きな声でそう叫ぶ。颯斗は慌てて未来の口を塞ぐがもう遅い。怪物が颯斗のいる方向を見つめていた。
「馬鹿野郎!」
颯斗は遮蔽物から姿を現すと、止まることなく怪物に近づく。その道中で背中に背負っていた剣を鞘から引き抜き構える。
「一撃で決める!”
颯斗はその剣を怪物に向けて斜めに振り下ろした。すると、怪物の表皮が剥がされる。しかし、怪物はいたぶる素振りなど見せない。ギロリと颯斗を睨む。
そして、颯斗に続いてクラスメイトが出てきてしまった。クラスメイトは全方位から怪物を討伐すべく襲いかかる。
「ダメぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
未来の叫びも虚しく、悲劇は幕を開けた。
怪物の背中から大量の球体が弾き出された。それは日本中に弾け飛び、一瞬で小さな怪物を生み出す。
当然だが颯斗たちがいる場所にも生み出された。ざっと数えて12体ほどいる。クラスメイトが50人だから一体に4人ずつつけば戦えるだろう。クラスメイトはそれを理解し
そして、颯斗だけが巨大な本体と戦うことにした。しかし、颯斗はその怪物に近づき少し恐怖心を覚える。その巨体は想像よりも大きく、死を連想させる。
そもそも、本体から出てきた
しかし、颯斗は勇敢に立ち向かった。その巨大な爪が襲ってくるにも関わらず、剣を構えて立ち向かった。
そして、クラスメイトと怪物の戦いが幕を開けた。
颯斗は怪物の繰り出す攻撃を華麗に躱し、流れるように反撃をする。クラスメイトは1人が攻撃を防ぎ、横から3人で攻撃するという形をとって戦った。
未来はそんなクラスメイトの姿を見て気持ちを入れ直す。頬を何回も強く叩いて恐怖心を紛らす。
そして、手形が真っ赤になるまで着いた頬を優しく擦りながらその場から駆け出した。そして、素早い動きで颯斗の元まで駆けつける。
「颯斗!」
名前を叫んで一撃をお見舞する。
「未来!良かった、来てくれたのか!」
「当たり前にゃ!」
そう言って颯斗の隣に立つ。その時未来は何故かこれまでの恐怖が感じられなかった。それどころか胸に温もりを感じる。
「にゃ、にゃぜか胸がキュンキュンするにゃん」
「は?何言ってんの?まさかこの怪物に恋したのか?」
颯斗は未来の言葉にそういう。すると、未来はそんな颯斗に向かってプンプン怒った。そんな時、怪物が2人を襲う。2人は難なくその攻撃を躱して反撃に出る。
流れるような動きで2人は攻撃を当てていく。逆に、怪物は攻撃を当てられない。素早い動きの颯斗達をロックオンできないのだ。だから、2人はかなり優勢であった。
「ゴロロロロロロロ……」
怪物のうめき声が聞こえる。そして、怪物がうずくまってしまった。
「倒したにゃ!?」
「……分からない。ただ、嫌な予感だけがする」
颯斗はそんなことを言って後ずさる。逆に何も気づかない未来は少しずつ怪物に近づく。
「待て。それ以上近づくな。罠かもしれん」
颯斗は言った。その言葉で未来は足を止める。そして、ゆっくりと遠のき颯斗の元まできた。
その時、颯斗の予感は的中した。怪物の背中から光線が放たれる。その光線の数はかなり多く、近くにいた颯斗は全て避けきれずにかすってしまう。そして、未来も同様にかすってしまった。
だが、攻撃はそれで終わらなかった。まるで本体に呼応するかのように小さな怪物達がうずくまり光線を放つ。クラスメイトはそれを見て慌てて離れようとするが間に合わない。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」
クラスメイトの1人が悲鳴をあげた。見ると、片腕が無くなっている。どうやら光線によって切断されたらしい。
「まずい……!」
颯斗はその時危機を感じた。そして、再びどこかに隠れようとする。しかし、先程の光線によって遮蔽物を全て壊されていたことにより隠れることが出来なかった。
そして、そこで慌てていると再び悲鳴が聞こえる。どうやらもう1人やられたらしい。見ると、その人は両足を爆破されていた。
「最悪だ……!」
颯斗は小さく呻くように言った。
先程の攻撃を食らってしまったせいでクラスメイトの何人かが戦闘不能になってしまった。そのせいで前線が崩壊する。
だが、それだけならまだ良かった。だが、悲劇はまだ始まったばかりだ。
怪物は動けなくなったクラスメイトを1人ずつ食べていく。ぐちゃぐちゃと音を立てながら余すところなく食べていく。真っ赤な血が飛び散ろうと関係ない。悲鳴が聞こえようと関係ない。全て食ってしまう。
女の子の悲鳴が聞こえた。颯斗は何とか助けようとするが、本体の猛攻に守ることしか出来ず助けられない。
1人、また1人と殺られていく。街わ壊され死体すら残らない。
「颯斗!」
未来の声が聞こえた。どうやら無事らしい。少し血が出ているが問題なさそうだ。
「未来!今すぐ逃げろ!ここは危険だ!」
「颯斗!ダメ!後ろ!」
「っ!?」
颯斗は慌てて振り返る。すると、そこには巨大な爪を構えた怪物がいた。颯斗は慌ててその場から飛び退く。そして、爪を躱した。
「クソ……!」
颯斗は呻くように声を漏らす。そして、周りを見た。そこにはただの虐殺が広がっていた。クラスメイトだけでなくその場にいた人達がぐちゃぐちゃ食われていく。
筋肉質な男はもしかしたらタンパク質が多く取れるのかもしれない。だから、怪物は一口で丸呑みだ。
女性は体の部位ごとに味でも違うのだろうか。何故か怪物は丸呑みしない。わざわざ生きたまま股を割いて両肩をもぎ取る。そして、同じようにぐちゃぐちゃと食べる。
「何なんだよ……!」
颯斗はその光景を目の当たりにして恐怖心を覚えた。そして、一生忘れられないような記憶を脳に焼き付けられる。目に擦り付けられるような苦しく痛い光景は辛い感情となって体中を駆け巡っていく。
だが、それ以上に颯斗は怒りを覚えた。日常を奪い、クラスメイトを殺し、世界を壊したこの怪物に怒りの感情が芽生えた。だから、颯斗は剣を握りしめ立ち向かう。
「この化け物がぁぁぁぁ!!!”
颯斗の一撃は怪物に深く刺さる。そして、怪物の体を破壊した。
「ガァァァァァァァ!!!」
怪物は雄叫びをあげる。そして、痛みに耐えているのか、もがき苦しんでいる。
「やったか!?」
颯斗はそう叫ぶが、そこまで効いてないことを理解しその場から離れる。
「ダメか!やっぱり星の魔力だけじゃ勝てないのか……!未来!本来の俺の力を使う!合成魔法を使うから手伝ってくれ!」
「待って!ごめんにゃ!こっちも手がはにゃせにゃいにゃ!」
「クソ……!」
颯斗は奥歯を強くかみ締め剣を握りしめる。そして、怪物を見た。怪物はまだ元気そうだ。
「なんでお前らみたいなのがこんなところに来るんだよ!」
颯斗はそう言って怪物に向かって行った。そして、その爪で攻撃された。何とかギリギリ剣で防ぐことは出来たが、その勢いで吹き飛ばされてしまう。
颯斗は壁に強く叩きつけられ止まった。ビルに激突したせいでそのビルが崩れ落ちてくる。
たまたま10階建てくらいだったためか、瓦礫に埋もれたが脱出可能だった。
「あぐぁ……!」
「颯斗!おミャーは無理しすぎんにゃんよ!」
「わ、悪い……!」
「分かったらいいにゃ」
未来はそう言って颯斗に手を差し伸べる。颯斗はその手を掴んで立ち上がると、血まみれで痛みを感じる背中に意識をやりながら周りを見た。
「……何で……こんなことに……!」
「……世界が壊れてるにゃ。たった一日で世界が全て変わったにゃ」
「友達も家族も皆殺それていく。真っ赤な液体で水たりができて、いずれ世界を赤く染めあげる。ぐちゃぐちゃと聞こえる音は人が死ぬ音だ……」
「……仕方がにゃいことにゃんよ」
未来はそう言って颯斗から離れる。そして、ゆっくりと怪物に向かって歩き始めた。
「おい、危ないぞ。早くここから逃げなきゃ殺されるぞ」
「殺されないよ。にゃあはね」
未来はそう言ってニヤリと笑う。
「……まさか……!」
颯斗は何かを察した。そもそも、昔から怪しさはあった。なんで未来はいっつも猫耳をつけてるのだろうかとか、なんでこれまで一度も魔法を見せたことがないのかとか。
これまでに未来は戦ってきたことがない。ただ、戦場に出てきて場をかき乱すだけだ。それの尻拭いをしていた颯斗は強くなれた。だから、ある意味未来のおかげで強くなれたのだ。
そして、今颯斗が使っている星の魔力も未来から貰ったものだ。というより、借りたに近いだろう。未来の魔力を無理やり自分の体に合成させている。強くなった理由にそれも含まれる。
「未来……ずっと……!ずっと騙してたのか!?」
「騙してないよ。だって、嘘ついてないもん。ただ、フリをしただけ。人のフリをして、幼なじみのフリをして、優しいフリをした」
「お前ぇ!」
「じゃあね。颯斗」
そして、颯斗の右胸を光線が貫く。
「クソ……!」
颯斗は胸にぽっかりと空いた穴を押えながら後ろに倒れ込んだ。その場には大量の血が流れる。しかし、その前からそこには血の池が出来ていたため颯斗の血かどうかは分からない。
「……全部……嘘だったのかよ……」
颯斗は小さく呟いた。そして、意識を深い暗闇の奥底まで落としてしまった。そして、死という扉の目の前まで歩いてくる。そこをくぐればもう死ぬ。全てを忘れて死ねるのだ。
「……」
止める人など誰もいない。なんせ、全員死んだから。
考えてみればおかしな話だ。なんでアメリカが襲われているのを見せたのか?今はそっちを見ている暇などないのに。
全ては颯斗を信じ込ませるため。ペルソナという仮面を被った姿をデフォルメにして、颯斗が疑わないようにするため。
未来がこれまで颯斗より弱いフリをしてきたのは、この時、このタイミングで世界を終わらせるため。
「全てはこの時のためってか……」
颯斗は門の前で小さくつぶやく。そして、静かに目を瞑り、今持っている力を全て使って目を開いた。
「っ!?」
そこには絶望が待ち受けていた。まだ生き残っていた人がいるらしい。だから、悲鳴が聞こえる。そして、何故か自分は浮いていた。いや、浮かんでいたの方が正しいだろう。血の池の上でぷかぷかと漂っていたのだ。
「……まだ……生きてていいんだ。やること……が、あるから……」
そう呟いて自分の右手を見る。しかし、何故か目に映らない。感覚も無くなっている。
「……食べられたか」
颯斗はそう呟いて左手を見た。そっちはまだある。なら、戦える。
颯斗はゆっくりと立ち上がり周りを確認した。自分の剣が近くに落ちている。それをそろおうとする。しかし、距離感が掴めない。
「……目が……見えてないのか……」
颯斗は持っていた布で右目を覆った。しかし、景色は変わらない。やはり、右目はもう潰されて見えてないらしい。
「……まだ……まだ……!まだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
颯斗は狂ったように叫ぶ。そして、左目を瞑って深呼吸をするとゆっくり目を開け言った。
「俺は死ねない……!俺の日常を奪った奴らを皆殺しにするまでおわれない……!」
颯斗はそう叫ぶ。
普通の人からしてみればかなり強大な力を持つファントムでも、怪物からしてみればただのか弱いうさぎにしか見えないのかもしれない。
「か弱いうさぎになってしまったか……」
颯斗は小さく呟く。そして、剣を強く握りしめた。そして走り出す。流星の如くその場を駆け抜けていく。途中に怪物がいれば切り倒すだけだ。凄まじい力で怪物を切っていく。
「未来ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
颯斗はそう叫んだ。その先には未来が居る。颯斗はその目で未来の姿を捉え、そこまで行こうとする。
すると、それを理解したのか怪物が道を開けた。まるで1本の道を作るかのように颯斗の目の前に道が作られる。
「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
颯斗はそう叫びながら力いっぱいその剣を振り下ろした。しかし、隣にいた怪物の本体に爪で止められてしまう。
「邪魔するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
颯斗は発狂しながら連続で攻撃する。鋭い斬撃を何度も何度も繰り出す。しかし、全て弾かれ有効打にならない。
「颯斗……落ち着いて」
未来は光線を放ちながらそう言った。颯斗はその光線を華麗な動きで躱して少し冷静になる。
「颯斗……お願いだから死んで」
そう言って光線を放つ。颯斗はその光線を難なく躱した。
「未来……!お前の勝手な行動で……人の命を左右できると思うなよ!」
そう言って颯斗はもう一度攻撃する。しかし、やはり弾かれてしまう。
「知ってるにゃ。私1人の勝手な行動で世界中の人々の命が失われていることは。でも、仕方の無いことにゃよ。世界に平和をもたらすには、一度全てを0にしにゃいとダメにゃ」
「んなわけねぇだろ!」
「いいや、そうにゃ。この世界はあらゆる面に置いて発展しすぎた。超能力という特殊な力を持ちにゃがら、科学という力も手に入れた。本来相容れないはずの力を同時に持ち強くなったにゃ。でも、それだと進化はしにゃいにゃ。片方に寄って初めて強くなれるにゃ。足らないところがあるからこそ進化できるにゃ」
「っ!?」
颯斗は未来の言葉を聞いて何も言い返せなかった。2つの面で発展してきたこの世界は進化しない。確かにそうなのかもしれない。頭の中でそう思う。
「颯斗もわかってくれたにゃ?」
「……!」
「分かったらもう死ぬにゃ」
未来はそう言って颯斗に向けて手を突き出す。颯斗はそれを見て少しだけ怒りの感情を覚えた。
「……全て自分勝手だ……。世界のためとか言って、誰もいいなんて言ってないのに世界を終わらせる。そして、俺まで殺そうとする」
「それがどうだっね言うにゃ?もうおミャーらの判断に任せられにゃいからこうして独断で決行したにゃ」
「そうか……なら、もういい」
颯斗はそう呟いてカッ!と目を開くと、近くにいた怪物に向けて手を伸ばした。その怪物は未来の命令で何もしてこない。
「もう終わりにしよう。”ユニオン”」
その時、颯斗と怪物の体が光り始めた。そして、2つの体は1つに纏まっていく。重なり合った2人の体がこれまでとは比べ物にならない力を放ちながら安定した。
「どうせ死ぬんだ。世界が終わるなら、お前も終わらせる。全て……ね」
颯斗はそう言って駆け出した。未来はそんな颯斗を見て構える。颯斗は未来に向かって剣を振り下ろした。今度は流星のように青く光る剣だ。
颯斗は縦横斜めの方向から何度も何度も未来に向かって攻撃する。未来はそれを余裕の表情で防ぎ反撃をしてくる。
激しい攻防が二人の間で行われる。2人は火花を散らし周りの建物を破壊する程の衝撃波を放つ。颯斗が技を使えば未来が弾き、未来が技を使えば颯斗が切り裂く。
颯斗はそのフィールドを大きく使うことは出来ないが、量と速さで何とか未来に対抗する。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」
雄叫びを上げながら颯斗は剣を振り下ろす。しかし、どうせそれも防がれるだろう。それでも颯斗は手をとめなかった。
そして、案の定止められた。その剣は途中で止められ弾かれる。
しかし、颯斗は諦めなかった。剣が空に跳ね上がると、直ぐに切り替え手に星の魔力を溜める。
「これで終わりだ!」
そして、その拳が未来の心臓を貫き潰した。
真っ赤な血が飛び散る。颯斗は胸を貫く腕を抜き取った。その腕にはべっとりと血が着いている。
未来は胸を貫かれたため後ろに背中から倒れてしまった。ドサッと音を立てて倒れる未来からは大量の血が流れ出ている。
「……これで……終わりなんだよな……」
颯斗はそうつぶやく。すると、未来はかすれる声で言った。
「そう……だよ。これで、やっとにゃあの役目も終わった……」
「役目?どういうことだ?」
「……やっぱり……おミャーには人を疑う心がいるにゃんね」
「茶化すなよな。全く……俺を騙してまでやりたかったことってなんだ?」
「世界を……時間軸を、元に戻すことにゃ」
未来の口から放たれた言葉は颯斗が想像していたものを遥かに凌駕ものだった。
「時間軸を戻す……?神にでもなろうとしたのか?」
「違う……にゃ……。世界は、決まったルールを持って動いている。そして、そのルールから外れることは許されにゃいにゃ。……過去が変われば未来が変わる。それがバタフ……ButterflyEffect……にゃん」
「なんでネイティブなんだよ」
「にゃはは……まぁ、それがあってさ……今ここでこの世界を終わらせて、新しい世界を作らにゃいと……にゃ?分かるにゃ?」
未来の言葉を聞いて颯斗は理解した。
「未来が変わるわけか。でも、なんでお前がそれをやらなきゃならない?そして何故未来の内容を知っている?」
「にゃは……やっぱり気づいてにゃいにゃんね……。にゃあは……未来から来たにゃんよ。遥か遠くの……未来から。元々にゃあは普通の人間じゃにゃいにゃ。ここにいる星の怪物と同じ力を持った星の住人にゃ。……まぁ、理由は……あれにゃんだが……」
未来はそう言って笑う。颯斗は未来の言葉を聞いて少し理解した。全く信じられないような話だが、未来が未来人であると言われれば何となく理解出来る。そして、星の住人ならもっとわかる。
「この怪物達も……にゃあの……先祖が作ったにゃ。生きてるけど……。まぁ、そんなところにゃ。おミャー……颯斗は未来のためににゃあを殺す。にゃあは未来のために颯斗に殺される。初めから……これが目的だったにゃん。だから、名前も『未来』にしたにゃん」
未来はそう言って少しずつ呼吸をゆっくりとさせていく。どうやら限界が来たらしい。
「こっちに……来てにゃ……」
未来は両手を広げ颯斗を待った。颯斗はそんな未来に近づく。すると、未来は颯斗に抱きつき体に寄せた。
「……まだ、残ってるにゃん。一緒に……死ぬ……それが……にゃあとおミャーの役目にゃん」
未来はそう言って嬉しそうに笑う。颯斗はそんな未来を見て覚悟を決めた。
そして、随分前に弾かれた剣がビュンビュンと音を立てて降ってくる。
それは、真っ直ぐと落ちてきて颯斗と未来の心臓を貫いた。
「これで……達成したよ……ジュリィおばあちゃん……それと、キシルじいちゃん……」
そして、2人の命の灯火は完全に消えてしまった。
その日からだった。世界は完全に崩壊へと道取りを辿った。世界の改変に向けた星の怪物達の世界征服にも似た行動は瞬く間に世界を飲み込む。
そして、世界は完全に壊されてしまった。颯斗と未来の体は抱き合ったまま星の怪物によって星まで連れていかれる。未来の話から何となく予想はしていたが、恐らく
そんなことを考えていると、星の怪物が颯斗と未来から何かを作った。それは、オーブのような物だった。
星の怪物はそのオーブを手にすると、ゆっくりと地面に落とす。そして、颯斗と未来の体を星まで連れていくと、2人の体を包み込むように丸まった。
そして、その日、空に星が追加された。それと同時に世界は滅亡した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから何千……いや、何万年か経ったある日……子供が生まれた。長い年月を経て誕生したのだ。
「あぅ……」
(あれ?俺……生きてる……)
彼は心の中でそうつぶやく。そして、自分を見た。手が小さい。どうやら赤子になっているようだ。
そして、それに気づいた途端記憶が激しく失われていくことに気がついた。まるで、彼から奪い去るように記憶が抜けていく。
(まずい……全部……忘れて……)
「やっと……生まれた……」
そんな時、疲労した女性の声が聞こえた。どうやら彼を産んだ女性らしい。かなり衰弱している。
その女性は泣きながら彼を抱きしめ言った。
「生まれてきてくれてありがとう……!キシル……!」
そして、彼はその時、颯斗の記憶をほとんど失い、キシルとなった。唯一残ったものは、大切な人を守るという思いだけだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それからさらに20年後……
「……疑問」
「ん?ジュリィか。また星を眺めてるのか?って?そうだよ。また眺めてるんだよ」
「壮観」
「そうだな。……なぁ、この星を見てるとさ、星の怪物ってどこから来てんのかな?ってなるよな」
「納得」
「それに、あそこの星。他の星を寄せつけない光を放っている。あれもなにか分かんねぇんだよな」
「無知。大罪」
ジュリィはそう言った。キシルは驚いた表情で固まっている。
「そんなに罪重いか?」
「当然。キシルも私も星の住人になった。だから、あれくらい知らないと。あれは星守。この世界を星の脅威から守る星よ」
「へぇ……」
「恥辱」
「何でだよ!」
2人はそんな会話をする。
もしかしたら、そんな会話も星の怪物は空から見ているのかもしれない。2人を見て、いつかこの世界を壊そう。なんて考えているのかもしれない。
でも、それと同時に星守も見ている。星守は世界を守るため見ている。そして、キシルはジュリィを守るために見つめる。
「……変態」
「なんで?」
「胸ばっかり見てる。子供作るの好き?」
「直球だな。ま、それもお前の魅力ではあるんだけどな」
「恥辱……」
「だからなんなそうなる!?……はぁ、とりあえず中入ろうぜ。もう夜だよ。まだ風呂すら入ってねぇんだ。臭いぞ」
「殺す」
「すまんすまん」
キシルはそう言って家の中に入っていく。ジュリィはその後を追いかける。そんな2人を無数の星が見つめていた。
奈落の星 五三竜 @Komiryu5353
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます