真夏の夜

功琉偉つばさ @WGS所属

真夏の夜

 目を覚ましてみると、そこはなにもないただの一本道だった。明かりは右側に立っている今にも消えそうな電灯だけ。


 前を見ても、後ろを見てもただただ深い闇が広がっている。どこまで続くのかわからないただ真っ直ぐな一本道。


 左右は鬱蒼と茂った森で木々に覆い尽くされて人影はまったくない。


 そして不思議なことに虫の声が聞こえない。夏のセミやコウロギなどの虫の音がしない。本当ならこういうところは必ず虫がいて鬱陶しいはずなのに全くいない。生き物の気配がしないのだ。


 ただ夏にしては冷たい風が頬や耳をなでていく。


 俺は一回冷静になって状況を整理してみた。


 俺は確か仕事で疲れてフラフラな足で帰ってきて半袖短パンになったらそのままベッドに倒れて寝たはずだ。


 自分の服装を見てみると、それは記憶にある自分の服装と全く同じだった。そしてもしかしたらと思って、頬をつねってみた。


 これが夢なのではないかと思って。


 するといきなり世界が歪んで


「やっぱり夢だったんだな。」


 と思ってベッドに居るであろう体を起こそうとすると、前のめりになりそのまま転んでしまった。頬はまだ痛い。


 周りの世界は少し明るくなったように感じるが、それでもあのただ真っ直ぐな道しかなかった。なんどほっぺを繰り返しても同じ、ここは夢ではないのだと、俺は悟った。


 とりあえず歩いてみよう。そう思ってまっすぐ進んでみた。だが、いつまで経っても景色は変わらない。気候は元の世界と変わらないのか、暑くてじんわりと汗が出てくる。電柱と電柱の間の景色、木の生え方は全く同じだった。


 試しに森の中へ入ってみようとする。本当なら虫がいて入ろうとも思えないのだが、虫はいないので森の中へ入ってみる。すると、同じような道にまた出た。


 全く同じ。すべてが同じ。気がおかしくなりそうで、息が苦しくなってガムシャラに周りを見ずに走り回った。それでも周りの景色は変わらない。いつまで経っても眼の前にはただ深い闇が広がるばかりだ。


 もう観念して、その場で寝っ転がって空を見上げて見てみた。


 空には雲も星もない。ただ吸い込まれそうな闇があるだけだった。電灯の明るさのせいかと思って森の中で空を見てみても何も変わらなかった。


 そして地面が変なことに気がついた。床はフローリングだったのだ。土のような感触も、アスファルトのような感触でもなかった。


 俺は何がなんだかわからなくなり、諦めて寝てみることにした。


 そして起きてみると、そこにはまた同じ道があった。


 寝ていた森の中ではなく、また道のど真ん中に立っていた。


「あれ?俺何回この景色を見たんだろう?」


 そうしてまた頬をつねってみると、今度は森の中で寝ていて飛び起きた。


「ここにいるということは、夢が覚めたんだ!」


ということは…と頬を何回もつねり、何回も世界を歪ませた。すると次第に記憶が蘇ってきた。


「確かに個々で寝たな」


 という場所にどんどん戻ってきた。


「あれ?俺は夢の中で夢を見ていたってことか?じゃあ今はだ?」


頬をつねるのに疲れて寝てしまうと、そこにはまた同じただ真っ直ぐな道があった。

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