высокий(high)

獅子2の16乗

挑戦

『ねえ、Александрアレクサンドル、何か私に隠してることない?』


 参るね、何でもお見通しなんだから。


「明日、試験に従事するんだ」

『何の?』

「高度記録」


『MiG-25?』

「うん、新型エンジンを搭載した改造試験機のYe-266Mだけど、まあ記録樹立、国威発揚が目的なのがバレバレだな」


『何で隠してたの』

「高度30,000m以上だから周りはほぼ真空で、トラブルで体が外に投げ出されたら即死……血液が沸騰し、体が破裂する。心配するんじゃないかと思『私を誰だと思ってるの! 命の危険があるとしてもそれを飲み込んで送り出すのが私の勤めよ』」

「……すまん。隠すべきでなかった」


『本当よ。私はあなたの最大の理解者であらねばならないのよ』


 俺には出来すぎの妻だな……


「うん」


『Александрは明日飛行機に高みに連れて行ってもらう、でも今日は私が高みに連れて行ってあげる』


 ……記録挑戦の前夜は必ずこうなるんだから。まあうれしいけど。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「では、ブリーフィングをお願いします」


『飛行計画は事前作成のプランの通りです。水平加速を行う高度は――』


 …………


『機体の全システムは正常に稼働しています』

「全システム正常稼働、諒解」


『天候は良好。気温は地上で15℃、露点温度は8℃なので、離陸時防氷アンチアイスの必要はありません』

「天候良好、離陸時は防氷の必要なし。諒解」


『試験空域では空軍、防空軍ともに何も予定していません。国境から遠く離れていますので、領空侵犯機がどうのこうのもないでしょう。もっともтоварищ同志 Федотовフェドトフはそんなもんのはるか上に行くんで関係ないと思います』

「空域クリアー諒解。それと、そんな堅苦しい呼び方をしなくていいぞ」

『товарищ Федотовは私達のような飛べない者からみたら英雄です』


「英雄……まあ、おいおい慣れてくれ」


 ……


「タワー、こちらЛети высоко高く飛ぶ、離陸許可をください」

『Лети высоко、離陸を許可します。風は135°、バリアブル10°、3m、使用滑走路は14』

『Лети высоко、離陸許可、使用滑走路14、諒解、行ってくる』

「Лети высоко、счастливогоシシスリーヴァヴァ пути!プチー


 丸腰の戦闘機のどこが“良い旅”だ?

 まあでも、気を取り直して行こうか。


 …………


「試験コントロール、こちらЛети высоко。予定高度に達した。これより水平加速を行う。マッハ2.83に達したらズーム上昇に移る」

『Лети высоко、試験コントロール、諒解』


 Military Power MAX

 Burner ON


 いつもの通り、胸のすく加速だ。


 速度マッハ2.83、ズーム上昇開始。

 ピッチは70°で安定している。


 高度10,000mを超えて、成層圏に入った。

 どんどん空の青さが深くなっていく。

 今外気温度はマイナス50度ぐらいか。


 高度25,000m

 空気が薄いから、舵の効きが悪い。トリムだけではピッチ角の維持が難しくなってきた。


 高度36,240m

 1ヶ月前のYe-266での記録を超えた。


 上昇速度が0になった。

 高度37,650m


 これが、今回の記録だ。

 国威とかなんとかじゃなく、願わくばこれが永遠であって欲しい。



 帰るよ。








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