第38話 腹上死におびえて

「あかねさんもそうだけど京子さん。

 この船で調理して客に出してみる気が無いかな」

「え、良いのですか」

 食いつき気味に逆に質問された。


「良いも何にも、調理師がいないんだ。

 もしやる気があるのならば、この夏休み中に専門学校に通ってほしい。

 ああ、学費はこちら持ちだ」

「え、ええ。

 ありがとうございます」

「あかねさんもどうだろうか」

「私ですか。

 料理は好きですが」

「なら決まりだな。

 戻ったらすぐに手配するから。

 あ、それよりも彼女たちの住まいはどうなったのかな」

「ええ、すぐに引っ越しをさせましたので、今はホテルを引き払いあそこに」

「それは良かった。

 これからは気兼ねなく楽しめるわけだな」

 俺の何気なく、それでいて非常にいやらしくもあるこの一言を聞いた三人は一斉に顔を赤らめた。

 それと同時に嬉しそうにうなずいているカレンさんの姿があった。

 姉妹丼にもはまったようだ。


 しかし、これでいいのか。

 俺が原因なのはわかるが、こんなにもいやらしい高校教師がいても。

 俺は心配になるが、あかねさんが大丈夫と太鼓判を押してきた。

「カレンさんは旦那様しか見えておりませんから。

 それは私もですが……」

 とそう言いながらあかねさんも顔を赤らめる。

 俺はうれしくなりあかねさんを押し倒しそうになるが、現在船には操縦できるのが俺の他にはあかねさんしかいないのでぐっと我慢した。


 事件から一月余りが過ぎても世間はまだ夏休みだ。

 事件の全貌も見えてきた。

 例の大学生は正式に起訴されて不法薬物乱用と婦女子に対する暴行の容疑で裁判中だとか。

 大方の予想では懲役刑で20年は固いらしい。

 なんでも婦女暴行はアレが初めてではなかったらしい。

 あのやくざ連中を使い長期休みに入るたびにあの別荘に連れ込んでの放蕩三昧だったとか。

 それも地元秘書だったもう一人も一緒に楽しんでいたから救われない。

 被害にあった女性のほとんどは泣き寝入りで、数人は風俗堕ち。

 二人が行方不明になっているとか。

 多分殺されたようなのだが、流石にそこまでは裁判でも明らかにされないようだ。


 彼の親である与党の幹事長は、息子の放蕩三昧は全く知らなかったようで、警察に圧力をかけるようなこともしたことは無かったようだが、流石に自分の秘書が暴行に参加していたとあっては政治家を続けることもできず、つい最近になって政界を引退したという。

 彼の引退はひっそりとだがニュースになったが、息子の事件についてはマスコミはだんまりを続けている。

 一部ネット界隈では騒がれているが影響は限定的だそうだ。

 ネットの方も拡散をサイバー警察とかいう人たちが抑えているらしい。


 それでもこの実行犯であるやくざ連中については一切の情報が流れてこない。


 前に一度だけあの社長から、連中は我々が責任を以て処理するとだけ伝えられているので、海外で処理されたようだ。


 どうもこの処理については政府も協力があったとか。


 で、俺の方はというと、まだ調理師候補は専門学校に通い始めたこともあり、相変わらずケータリングか冷食でのサービス限定だが、クルーザーレンタルの仕事が前以上に入るようになってきた。

 唯一の取引先だった大使館つながりで、他の国の大使館のパーティーの他に、知らない会社からの依頼もあった。

 どうもあの経済やくざの表の顔である会社関連で仕事を回してくれているらしい。


 そういうこともあり結構忙しく船を出している。


 大概東京湾内のナイトクルージングが多いのだが、駿河湾まで出向き釣りの他、その場で調理しての刺身や焼き魚のパーティーもあったりしている。

 ちなみにその際の調理人は発注元がどこぞの有名料亭の料理長などを連れてきているので、俺も時々おいしい料理のご相伴に預かる。


 そのパーティーで世話をしているアテンダーは相変わらず俺の愛人たちだ。

 皆超が付くほどの美人なものだから、こちらも評判がすこぶるいい。

 マスコミの取材依頼も数回どころではないくらいに入るが皆断っている。

 はっきり言って、有名になるメリットが俺たちにはない。

 あくまで俺たちの顧客は超が付く金持ちなのだ。


 夏休みも終わりに使づくころに、あのやくざから連絡が入る。


 今までも借りは返せていないのだが、その借りの返済に一役になればとある提案を持ってきた。

 学生に限り風俗落ちしそうな美人を紹介するというので、今抱えているような愛人と同様に考えてほしいというのだ。


 好きであの業界に入る人は別にして、学生からだと、ほとんどが金銭的な理由だという。

 ならば金のある俺にどうかというのだ。

 実際に合わせてもらえるので、気に入るようならばと声をかけてきたそうだ。


 俺は持ち帰り愛人たちと話し合った結果、俺の資産のうちから愛人奨学金を始めることになった。


 あれから数年。

 高校生だった幸も今は大学生になり、前に愛人となったアンリさんたちと一緒のミスキャンパスで戦いをしているとか。

 今年の審査会ではひな壇に上る美人は全員俺の愛人というとんでもないことまで発生するまでに俺の始めた奨学金制度は順調に登録者を増やしているが、肝心の俺の方の体力がそろそろ、いやとっくに限界になってきている。

 今では葵さんたち初期のメンバー以外には初めてを貰う他にはほとんど相手ができていない。


 ぜいたくな悩みではあるが俺からしたらかなり深刻な悩みでもある。

 ごちそうがあるのに食べれない地獄といった感じだ。


 企業をリストラされてから、とんでもない方向に俺の人生が変わってしまったが、ピンクな地獄の他は天国にいるような生活で満足している。


 しかし、そのうち俺は腹上死を迎えるのだろうと覚悟だけはしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

serendipity~リストラから始まった世にもおかしなハーレムサクセスストーリー のらしろ @norasiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ