灯明台
@ninomaehajime
灯明台
船縁に掲げられた灯火に夜の海面が照らし出され、水面付近まで誘われた
まだ見習いである息子は、一柄一竿の一本ヅノを使って烏賊を釣っていた。本来は桐材に二本の女竹の竿を取りつけた漁具で、竿の先から柄の根元までの糸をつけ、鉄のツノドウに十四本ほどの鉤をつけたツノバリを結びつけた。いわゆる一柄二竿の形を取るのがツノで、習熟すると両手に一本ずつ握って互い違いに上下する太鼓釣りという手法で多くの
肥え松を燃やした集魚燈に照らされた水桶の中からは、夥しい触手が
今夜は大漁だった。面白いほどに釣れた。胴の間に溢れた烏賊が暗黒色から赤褐色に変化し、二本の
夜が明けようとしていた。もう良いだろう、と口数の少ない父が言った。大漁の烏賊を土産に、
ところが急に濃い霧が立ちこめた。陸が見えなくなり、自分たちの居場所を把握できなくなった。海は凪いでおり、波音さえ静かだった。烏賊どもの狂騒だけが
父は険しい眼差しをしていた。濃霧に目を凝らし、どうにか目印を発見しようとしているのがわかった。山や岬などを目視できれば、長年の経験から自分たちの位置を把握できるだろう。その
沖で立ち往生した。
息子は声を上げた。その指差した先に、霧の中に灯る光を見出すことができた。
二人はその光が灯る方角へ舟を漕ぎ出した。櫂を握る手に力がこもる。これだけの烏賊を持ち帰れば、きっと漁村で待つ家族は喜ぶだろう。
霧の向こうから船影が見えた。なぜか灯明台の篝火から逆方向に、つまりこちらへと向かってくる。衝突を避けるために舟を漕ぐのを止めた。父が声を張り上げて警告した。
迫ってくる舟は止まらなかった。やがて霧を突き破り、その様子が
潮水を被り、父が怒鳴り声を上げようとした。その直前で漁師の男は叫んだ。
「仲間が食われた。あれは灯明台の光なんかじゃねえ」
その言葉を残して舟は行ってしまった。
発言の意味を考える父の後ろで、息子は灯明台の明かりを見つめていた。水桶の烏賊たちがしきりに
光が大きくなっていた。こちらへ近づいてくる。
灯明台 @ninomaehajime
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