II
だが忘れてしまうとは言っても、意識の隅々までその影響を逃れられるというわけではなかった。実際、中年をすぎて初老にさしかかる今になっても、その夢の気配は通奏低音のように常に人生の地下を流れていて、Kの生活を脅かしていた。そしてその夢は、悲しみの感情とどこかでつながっているようだった。仕事にむなしさを感じたり、家族や友人たちのただ中で、なんの前触れもなく突然に孤独を感じたりするときなど、ふとKはあの夢のことを、というか、何かとてつもなく重要な夢を見たはずなのに、いつもその内容を思い出せないということを、思い出すのだった。その夢の中には、とても重要な、落ち着いてじっくりと考えなければならないような内容が含まれていたのではなかったか? それは自分の人生を根幹から変えてしまうような重要性を持つのではなかろうか? そういった考えがKの頭から離れず、人生の小さな悲しみに触れるたびに、ひとりでにその夢のことが頭に浮かぶのだが、しかしいくら考えても、その重要なはずの内容についてはこれっぽっちも思い出すことはできなかった。
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