嘘か誠か敵が味方か【最終話】
青い空に、おしゃれなレストランのテラス席。目の前にはさら。これからパーク内のおしゃれなレストランでランチタイム。
ウェイトレスによって、料理が運ばれてきた。
ひなは、さらが身に付けているネックレスをじっと見つめている。シルバーのチェーンにオープンハート。その中で青いアゲハ蝶のモチーフが心地よい動きでゆらゆらと揺れている。
そのネックレス以外には目もくれない様子だった。
周りの情景にマクがかかり、ピンボケした空間の中でネックレスだけがしっかりと肉眼で見えるような視界の世界……。
「ひな!………ひな⁉︎」
「はっ‼︎」
「どうしたひな。なんか変」
「そうかなぁ?さらがつけてるそのネックレス、きれいだなぁって思って」
走馬灯で巻き戻された世界はモダンコースターに入る前の時間まで戻ったようだった。
「ランドザパスタセットのお客様」
「はい」
さらが注文したパスタセットがテーブルの上に並んでいく。
「それでは、こちらがムジュールパスタセットになりますね」
「はい 」
手を挙げ、ウェイトレスに合図をしたひな。
え………?この人どこかで会った事があるような気がする………誰だろう………
「こちらになりますね」
ひなの方にもパスタセットが並んでいく。
「こちらのムジュールパスタセットは幸運の意味を込めて作っておりますのでご堪能ください。今日1日幸運を‼︎」
「あ、ありがとうございます」
なんだろう………
これは………
記憶が変…………
聞いた事がある声………
でも誰かは分からない…………
「美味しそう。早速いっただきまーす‼︎どうしたひな?さっきから様子がおかしいよ?」
「大丈夫。なんでもないよ」
「そぉーお?じゃぁ食べよ」
ランチを済ませて次の計画を立てている最中。本来ならモダンコースターの建物があるはずの場所には壁しかなかった。
二人はモダンコースターがあったはずの場所に気づく事もなく、さらに奥にあるメルヘンエリアに向かうことになった。
その途中で壁に貼られていたポスターに目がいったひな。
そのポスターの絵は犬みたいな人が腕を組みカメラ目線で不敵な笑みを浮かべている。
その右側には金髪のお姫様が遠い目で悲しそうに空を見上げている横顔。そして左側には鋭い目つきの魔女が杖を加えながら誰かに魔法をかけている姿………。
「このアトラクション建設中っぽいね」
とさら。
「そうだね。どんなアトラクションなんだろう………。あれ……ちょっと待って!このお婆ちゃんどこかで見た事あるような気がする。ん~」
「お婆ちゃん?これ魔女じゃない?」
「え?魔女?」
その魔法使いは、ひなにとっては魔女には見えなかったようだった。
ひなテーマパークに向かう途中でぶつかったあのお婆様の顔と瓜二つだった。
お婆様とぶつかった事すらも、記憶が消されるかのように思い出す事はなかった。
そしてモダンコースター乗った事も、その後の一連の出来事もなかった事になっていた。
建設中の壁を通り過ぎ、何事もなかったかのようにテーマパークを楽しんだニ人だった。
その数日後、ひなは大好きだったバスケを辞める事になった。もちろんひなの意思で決めた事。
両親も止める事なく、あっけなく終わったバスケ生活だった。
さすがに顧問の先生は簡単には許さなかった。チームメイトも反対していた。
それでもひなの意思は固かった。
理由と言えば、大事な大会を控える中、練習試合中に怪我をしてしまったからだ。
全治三週間。
治ったとしてもその先万全なコンディションに戻せるのかも分からない状態だった。
そしてその頃には引退を控える時期になってしまい、ひなの選手生命も存続できるとは限らない事を思い知らされた瞬間だった。
それがきっかけでバスケに対する情熱がなくなってしまったひなだった。
燃え上がる情熱がなければ続ける事さえ何の意味も持たないと。
ひなが一番驚いたのは、両親にバスケを辞める事を告げた時、悲しみもせず咎める事もなく簡単に了承した事。
ひなの意思を第一に尊重してくれた。
勝手に思い込んでいた。バスケを辞めたら両親が悲しむと言う事。
これは思い込みが作った嘘の世界。
嘘の世界に幸せなんてない。
そんなの苦しみでしかない。
モダンコースターの中で行われたあの続きが今まだひなの人生の中でつながっているのかもしれない。
平行線のように連なった別世界の空間の入り口はいつどこで現れるか分からないし、あの空間で起きた事はひなの脳内から抹消された訳では無いのかもしれない。
夢か現実か幻か。
真相は闇の中……。
“犬みたいな人”=案内人は、敵だったのか味方だったのか。そして、透明なお姫様はなぜひなに助言をしたのか。
誰が敵で、誰が味方か分からないそんな世界で今日もそれぞれの物語が続いていく。
モダンコースター 作者 @tarinri
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