種も仕掛けもなりすまし②

 そしてじいさんが貪っていたヘドロの塊は、もはやヘドロではなくなり、新しい光の集合体に形を変えてひなの方へ向かって動き出した。


 ひなは拒むことなく受け入れた。


 光の集合体が火の胸元にすっと入っていった。


「取り戻せた……」


 

 恐怖半分、安心半分。

 ひなは味わったことのない不思議な感覚のままコースターの車体に近づいた。


「あのお姫様が言ってた事、本当だったんだ。 お姫様に出会わなければ気づく事ができなかった」



 とっさに車体に座り込んだひな。

 


「お姫様、助けに行かなきゃ‼︎」


 

 そう思ったのも束の間、車体のレバーは自動的に下がり、身動きできない状態になってしまった。


 車体から降りようとレバーを上げようとした所、勝手にロックがかかってしまっているようで、身動きができなくなってしまった。



 まもなく車体が動き出し、視界は一気に真っ暗闇になり、ひなを乗せた車体はゆっくりと進み始めた。


「ちょっと待って。お姫様に会わせて‼︎」


 車体が人間の言葉など分かるはずもなく、止まることもなく、加速し始めた。



 すると少し進んだ先の右側にバス停の表示板らしきものがひなの視界に入ってきた。


 スポットライトに当たっているかのような光加減だった。



「あんな所にバス停……?」



 表示板の名前に興味をそそられ、前のめりの体制で確かめようとした所、その表示板の後ろから誰かの顔がヌっと出てきた。



 よく見るとモダンコースターの案内人だった。



「犬みたいな人‼︎ちょっとどういう事?ここは一体……」



 案内人は無言でひなを見ている。


 車体は変わらずに進み続け、案内人が立っている所まで近づいてきた。



「ねぇ。聞いてるの?」



 案内人は表情を変える事なく無言でひなの方を見ている。妙に顔が整っているせいかその凛々しさに気を取られ、言葉を失うひなだった。



 車体がバス停の表示板の所まで来ると、案内人はニヤリと微笑んだ。何かを見透かすような不敵な笑みを浮かべている。



 ひなは何かが吸い取られる感覚になった。



 同時に車体はぐんぐんスピードを上げ始めてあっという間に案内人がいたバス停から遠ざかってしまった。




 そして、モダンコースターが発車してさらと別れた後のあの時と同じように急加速が始まった。


 ただ一つ違うのは 前も後ろも誰もいないひな一人だけが乗ったモダンコースター。


 今度は上昇するのも急加速。それなのにひなは恐怖さえなく落ち着いていた。



 そんな中、頭の中で走馬灯のように映像が流れてきた。現在から過去に向かう時間の逆行。一つ一つの出来事が映画のようなコントラストだった。



バス停の案内人………

黄金の光を取り戻した瞬間………

透明なお姫様との出会い………

得体の知れないヘドロの塊と人喰いじじい……

モダンコースターの急加速………

さらと別々の方向へ向かうモダンコースター………



「うっっ……頭が………」



 走馬灯の映像が脳には衝撃的だったせいか、頭に圧迫感をおぼえたひなだった。



 通常ではない体感になす術もなく意識が朦朧としてきた。



「まただ」



 軽く貧血を起こし、最後にモダンコースターに乗った瞬間のビジョンが見えた時、パチンと言う音がした。と同時にすべてのレールが一瞬にしてなくなり、車体はバラバラになり、ひなの体が真っ逆さまに落ちていってしまった。



 既に意識を失っているひな。

 底が見えない暗闇の空間をうつむき加減に落ちていく肉体は、重力に身を任せているようだった。

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