第91話:トーナメント初戦3【学年チーム戦】
《雷文 泰二》
威力は申し分ない。
俺は灰となって消えていく巨大生物を眺めながら自分の持つ能力に感心する。遠近感を崩壊させるほどの大きな怪物を一撃で仕留めることができたのは大きい。これで久遠も焦りを覚えたことだろう。
久遠には本気になってもらわなければ困る。でなければ、わざわざワンオンワンを申し出た意味がないからな。それに、俺がわざわざ『グループリーグを2位で通過した意味』もなくなるからな。
生徒会に参入した日、俺たち1年の大半が負けたにも関わらず久遠だけは勝利を手にした。それも、相手は生徒会副会長であり、【幻獣降霊】の能力を持つ神巫 美陽にも関わらずだ。
まあ、久遠が勝利したのは納得できる話だ。なんせ彼は【脳内模倣】の最大の欠点を克服する才能に恵まれていたのだから。
【脳内模倣】は弱小スキルと言われているが、それは一般的な超人類が持つ記憶力を前提としているからだ。遺伝子の関係で常人以上の記憶力を有した場合、【脳内模倣】はチートスキルへと変化する。久遠はそれを成し遂げたのだ。
あの日から、俺の中で久遠は目標となった。奴を倒すことが俺がこの学校で成し遂げることとなったのだ。その第一歩がこの戦いだ。
だが、今の俺では奴を倒すことができないのは重々承知している。だから4人分の力を合わせた【雷光遊戯】で奴に挑むことにしたのだ。
小賢しいのは分かっている。だが、そこまでしてでも今のうちに奴の本気を見ておきたいのだ。俺がどんな道を歩めば奴を倒すことができるのか知るためにも。
俺は自分たちのスタート地点であるビルの屋上から地上へと降り立つ。重力加速度の影響を受けるものの、落下する寸前に【雷光遊戯】による短距離の瞬間移動を使うことで着地時の反動をなくす。
短距離といえど、俺1人分の能力では到底進めないほどの距離を行くことができる。久遠を視界に捉えることができれば、一瞬のうちに奴との距離を縮められるだろう。
奴との戦いで注意すべきは【瞬間移動】と【部分時止】だ。せっかく捉えたとしても、少しでも気を抜けばすぐに逃げられる。後者に至っては負ける可能性がある。能力を使わせないためには、発見したタイミングで間髪入れずに攻撃を仕掛けなければならない。
地上に降り立った俺はヤマタノオロチがいた場所に向けて駆けていくことにした。【幻獣降霊】が降霊場所を選ぶことができるのかは分からない。ただ、ヤマタノオロチほどの強大な生物は近くに置いておくはずだ。下手に遠くにやれば、自分も攻撃を受けてしまうからな。
ここでも問題は【瞬間移動】だ。奴がどれくらいのスピードで俺の元に来るか分からない。走りながらも周りには十分に注意を払う必要があるだろう。
「っ!」
しばらく走ると目の前に動く物体を発見する。俺は反射的に【雷光遊戯】の能力を使って距離を埋めた。すでに握られた拳を力一杯振るう。物体に当たった瞬間、手から雷を放電させる。感電した物体はその場に崩れ落ちた。
攻撃がひと段落したところで俺はようやく目の前に現れた物体を認識する。それは俺の2倍ほどあろう大きな狼だった。
【幻獣降霊】によるものだろう。どうやら、奴は質より量を選んだらしい。ヤマタノオロチが瞬殺されたのだから無理もないか。あれほどの巨大生物を降霊させるには体力が必要だろうからな。
となると、このフェンリルは体力回復の時間稼ぎか。あるいは俺の体力を奪う作戦か。
まあ、問題はない。俺は奴の本気が見たいのだ。体力を回復し、万全な状態で現れてくれる方がこちらとしては本望だ。俺の体力を奪う作戦だとしても、この程度では少しも削られはしない。
俺はフェンリルが来たであろう方向に再び足を進めた。
それから少しして再びフェンリルと対峙する。次のフェンリルは複数体だった。それも、一気にやってきたわけではなく、一体ずつ時間差でやってきた。あらゆる方から俺の元にやってきた彼らを見て、久遠が俺の居場所を特定していることは明らかだった。
どういう原理かは予想がつく。久遠はグループリーグで【視聴監視】の能力者のいるグループと戦っていた。そいつの能力を模倣し、居場所を特定したのだろう。
正直、居場所の特定はどうでもいい。それよりも、俺にとっては気になることがある。
フェンリルはあらゆる方向から俺の元にやってきた。だが、一つだけ全く来なかった方向がある。俺が駆けていこうとした方向だ。
これは何かの誘導と見て間違いないだろう。罠がある可能性はかなり高い。
とはいえ、この道が俺と久遠を繋げているのは確かだ。何があろうとこの道を選ばなければ戦いは平行線のまま。勝った方は午後に試合を控える以上、余計な時間はかけられない。
俺は意を決して先ほどと同じ道を駆けていく。
しばらく何もない状況が続く。周りに気を配るが、殺気のようなものは感じられない。もしかすると、自分の体力を回復し、かつ俺の体力を奪うためにわざと何もない道を走らせているのかもしれない。
まるでお返しとでもいうように『小賢しい手』を使ってくれるな。
「っ!」
そう考えていた時、俺の目の前に影が現れる。遠くに見て取れたそれは今までとは違い、『人の形』を描いていた。彼は両手に刀を持っている。
とうとう久遠 遥斗を見つけた。
先手必勝。拳を握りしめ、【雷光遊戯】を使用。奴が俺に気づく前に2人の距離をゼロへと縮める。俺が目の前に現れたことで久遠はようやくこちらを見る。
遅い。俺は奴が能力を発動する前に間髪入れずに拳を叩きつける。久遠が剣でガードする間もなく、彼の腹部を拳が抉る。俺の体が奴の体に触れたことで帯電していた電気が流れていく。
【雷光遊戯】の力をまともに受けた久遠は脱力し、俺が拳を下げると地面へと崩れ去った。
想像以上に呆気ない終わり方だった。俺は地面に横たわる久遠の姿を見る。奴は電気の力によって体をブルブルと震わしている。視線は俺から外れ、上目を向いていた。
「お前は久遠ではない」
その様子を見て、俺は本能的にそう思った。刹那、予想が的中するかのように久遠の姿が薄れていく。気づけば俺の下で倒れていたのは大きな狼になっていた。
「ご名答」
俺ではない誰かの声が聞こえた。直近で聞いたことのある声だ。
反射的に声のした方に顔を向ける。そこには誰の姿もなかった。殺気も感じない。
一体どこにいるのか。そう思った瞬間、俺のとは違う光が放たれる。その光は小さな青い光だった。
青い光を見た瞬間、俺は身動きを取ることができなくなった。
《久遠 遥斗》
どうやら【部分時止】の能力はうまく行ったみたいだ。俺は止まった雷文の姿を見てそう思った。
【視聴監視】で見た雷文のスピードから、奴に【部分時止】を食らわせるには油断させる必要があると思った。そこで俺が取った作戦は橘の時と同じくダミーを作ることだった。
ただ、今回は美里など他のチームメンバーがいない状況だ。どうやってダミーを作るか考えた時、降霊したフェンリルの姿を見て閃いた。【身体模倣】は対象が人じゃなくてもできるのではないかと思ったのだ。
試してみたところ狙い通りフェンリルを俺の体に変化させることができた。
俺の体を模したフェンリルに【多様剣聖】で生成した剣を持たせることで、一見したら俺であることを雷文に悟らせるようにした。武器を持っているか持っていないかで警戒は段違いになるからな。
俺は【透明成化】でフェンリルの周辺に潜み、雷文がフェンリルを倒すのを待った。作戦どおり、雷文は俺を模したフェンリルを倒した瞬間、その場に止まった。途中で気づかれたことには驚いたが、透明になった俺の存在には気づけなかったようだ。
雷文が止まったところで、今度は俺が【多様剣聖】で剣を生成する。
殺気で気づかれる可能性があったので、限界まで雷文に対して攻撃をする素振りは見せなかった。ただ、今気づかれたところでもう遅い。奴は8秒間動くことはできないからな。
生成した剣を両手で持ち、俺は雷文めがけて力強く振るう。
案外簡単に決着がついたな。
気を緩めはするものの、力を緩めることはない。剣の刃先が雷文の体に入り込んでいく。
その瞬間、大きな光が俺を襲った。
双能力使いの無双譚 〜二つの弱小スキルで世界最強を目指します〜 結城 刹那 @Saikyo-braster7
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