第90話:トーナメント初戦2【学年チーム戦】

「嘘だろ……」


 俺は後ろでまる焦げとなったヤマタノオロチを呆然と眺めていた。全身を真っ黒に染めたヤマタノオロチは風に攫われるようにゆっくりと消えていく。


 信川の戦車の攻撃をもろともしなかった怪物が一撃で仕留められるとは。俺が思っている以上に雷文の【雷光遊戯】は強力みたいだ。これはワンオンワンを提案するのも無理はない。


 いや、待て。本当に雷文の力なのだろうか。


 生徒会に参入した日、歓迎会として1年と2年で試合をすることになった。俺も神巫さんと戦うことになったが、それは全員が戦い始めてしばらく経ってからだ。それまではモニターで全員の試合風景を眺めていた。


 もし雷文が今のような能力を見せていたならば、少しは俺の印象に残ったはずだ。しかし、俺は雷文の試合に目を惹かれた覚えはない。2年の先輩が上手く彼に対処したのか。いや、そうではないだろう。


 そこで俺は【雷光遊戯】に関して一つ重要なことを思い出した。


「礼儀正しく見えて、頭の中では随分とずるいことを考えているんだな」


 同時に再び強い光が放たれる。


【瞬間移動】を発動。屋上の外へ移動し、そのまま重力に従って落ちていく。


 光ったものの特に何かが飛んでくるわけではなかった。今の光は一体何だったのだろうか。考えを巡らせるも明確な一つの答えに辿り着けるはずもなかった。


 地面が見えてきたところでもう一度【瞬間移動】を使う。能力によって地面に降り立つことで重力加速による衝撃を打ち消した。


 まずは雷文を見つけるところからだ。俺は屋上でやったのと同じように両手を合わせる。


「【幻獣降霊】フェンリル」


 同じ台詞を何度もつぶやき、無数のフェンリルを降霊させる。各々のフェンリルに【視聴監視】の能力を付与したところで別の道を歩ませる。


 脳内では複数のモニターが同時に動いていた。それらは全てVR空間を走り渡るフェンリルたちが見ている景色だ。複数体が駆け回ればどれかは必ず雷文にぶち当たるだろう。


 その場に止まって様子を眺めていると、1体のフェンリルの景色に光の塊が現れる。俺は脳内でそのモニターを注視する。


 だが、次の瞬間にはモニターが消え失せた。【視聴監視】を付与したフェンリルが殺された証だ。先ほどの光はおそらく雷文が身に纏った雷によるものだろう。


 威力もさることながら速度もピカイチだ。


 流石は『複数人の能力を掛け合わせた集合体』なだけはある。


「さて、どうやってやつを倒すか」


 ヤマタノオロチを倒したところからして一撃喰らったら終わりと見ていい。フェンリルを倒したところからして攻撃を仕掛けられたら【瞬間移動】も【能力無効】も発動する暇はないだろう。


 普通に鉢合わせれば負ける可能性は高い。近距離においては攻撃も速度も劣っている。


 でも、負ける可能性が高いのは『普通に鉢合わせた場合のみ』だ。


 雷文が『複数人の能力を掛け合わせた集合体』であるように、俺もまた『複数人の能力を掛け合わせた集合体』である。


 戦う前に勝負を有利に進めるための準備ができるのが俺の専売特許だ。


「学校中の生徒が観戦するにはちょうどいい戦いになりそうだ」


 俺は再び無数のフェンリルを降霊する。それらにも【視聴監視】を付与し、雷文に倒されたフェンリルが行ったルート以外の道を走らせた。これによって少しでも俺の居場所を錯乱させようと思ったのだ。


 奴の居場所を気にしつつ、俺は勝つための作戦に思考を注いだ。



《三人称》



「先生、先ほどの続きですが……」


 生徒たちがVR機器に入り、VR空間に移動したところで堂前は先生に語りかける。


「先ほどの……ああ、堂前くんがワンオンワンを了承した理由についてだね。彼らの前で濁した発言をしたが、どういう理由だったのかな?」


「言葉を濁したのは下手な情報を与えることを阻止するためでした。自ら対戦相手の情報を入手するよう働きかけるのは問題ないと思いますが、自分のような第三者が勝手に喋るのは問題かと思いましたので」


「なるほど。君の発言は久遠くんたちのチームに有益な情報を与えかねなかったわけか」


「そういうことです。あくまで自分の予想ですが、雷文は自分たちを有利にするために久遠に対してワンオンワンを持ちかけたのだと思います。いや、『有利にする』というのは間違っているかもしれません。『不利を避ける』と言った方が正解かもしれません」


「不利を避ける?」


 先生が訝しげに聞いた時、モニターに映る仮想空間が強い光を放つ。堂前と先生は反射的にモニターに目をやる。そこには丸焦げになったヤマタノオロチの姿があった。


「こ、これは……」


 先生は心底驚いた様子で画面を覗く。想像以上の力を目の当たりにし、堂前は思わず眉を顰めた。


 1年生の時、堂前は神巫と戦ったことがあった。対戦場所が今目にしているVR空間だったため、神巫はヤマタノオロチを降霊した。だから堂前はヤマタノオロチの手強さを知っている。


「まさか……これをほどの力を有しているとはな」


 1年生に対する歓迎試合で堂前は明徳から雷文に対する評価を聞いていた。妙徳曰く、雷文はパワーはあるもののテクニックが未熟とのことだった。彼が評価したパワーをようやく実感することができた。


 まあ、実際は『彼だけのパワーではない』のだが。


「先生。これが雷文が久遠にワンオンワンを申し出た理由です。彼のチームメンバーの情報を見てください」


 堂前の言葉を聞き、先生は自身の電子端末を開く。目を細め、真剣な様子で操作をする。少しして彼は納得するような唸り声を上げた。


「遊戯統一<ルーデンス・ウニタス>か」


「はい」


 遊戯統一。戦闘特化型の能力者が使える特殊技。同じ能力を有している人間との間で能力値のやりとりができる技だ。


 雷文のチームは全員が【雷光遊戯】の能力者だ。雷文は3人の能力を自分に取り込み、久遠に挑んだのだ。元々の能力値が高い上に3人分の能力値が上積みされた。その結果、ヤマタノオロチを一撃で粉砕するほど強力なものになったのだ。


「これは久遠くんチームはかなり不利になってしまったんじゃないかな。まあ、仕方がない。非戦闘特化の能力者といえど、遊戯統一は知っているだろう。それを考慮せず、雷文くんの提案を飲み込んでしまった彼自身の失態だからね」


「そうですね。ただ、不利になったとは言い難いです。先ほども申し上げましたように、雷文は『不利を避ける』ためにワンオンワンを提案したのですからね」


「その不利を避けるとはどういうだい?」


「本来は1対1の試合だったはずが、雷文が遊戯統一を使ったことで4対1になった。そう思わせておいて実際は4対無数だったというわけです」


 久遠の能力は【脳内模倣】。脳内で描ける能力を現実に反映することができる。脳内イメージの正確さがものをいうこの能力は、本来は直近に見た能力くらいしか模倣できない。しかし、久遠は記憶力がずば抜けているのか、これまで戦った生徒たちの能力を完璧に模倣することができている。


 雷文が3人の能力を取り込んで4人分の力を手に入れたのと同じように、久遠は1人と見せかけて無数の人物の能力を手に入れているのだ。


 ワンオンワンだが、ある意味ではチーム戦のようなものだ。純粋な能力値の向上が勝つのか、多数の能力の所持が勝つのか。


 雷文(パワー)VS久遠(テクニック)となる2人の試合を、堂前は興味深く観戦することにした。

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