第14話「タマシーの祭典」
*栗トン、めくり札めくって、
▲14 最終章「タマシーの祭典」
*ABCDWZが故郷の唄や好きな歌をうたう。
一斉には歌い出さないこと。
*小泉文夫著『音楽の根源にあるもの』(平凡社・1994年)
の「カリブー・エスキモーと鯨エスキモーにみるリズム感の
違い」(p.179~)と「共同社会におけるリズムのあり方」(p.
182~)のところを読むこと。
*二人一組(AB組、CD組、WZ組)は便宜的なもの。二人
が声や調子を合わせる必要はない。歌い出しだけは「○○組」
と決めておくと不慣れな人でも乗ってゆける。
*たとえば、ABが「や、ソーレナー」と出る。CDはそれ
を聞いて「おらが庭には」と出る。WZも適宜に「波の花咲
く」と出る。
*組内で一人は休み一人だけが唄うのも可。一組二人が休ん
で他の声を聞くのも可。ある部分を適当にリフレインするの
も可。
*ゆるやかなジャム・セッションとする。
*次の掲げる歌詞は一例である。出演者の故郷の民謡などを
利用するのもよい(著作権に触れないかぎり)
*このとき祖クラはあたりを歩き、瞑目したり、聞きいった
り、笑顔を見せたりする。
*奥の明かり取りの窓近くにあったベッドを、黒衣が舞台中
央、前面に押し出してくる。
*次に示す歌詞は一例である。曲は適当に、あるいは即興で
つける。往時をおもえばゆるらかな曲が望まれる。
AB組(春ドン/偉スクス)
時はながれて/昨日はむかし/むかしゃ昨日のおおつづき/
子鹿泣く泣く/母親こいし/子鹿なくなく/カラスがわらう。
CD組(伽丸/蝉アン)
野辺ゆく棺は/どなたの棺/祖クラじさまの/別れ唄/
唄はどなたが唄うやら/白鳥おやこが/野辺送り。
WZ組(栗トン/不ラトーン)
蕎麦を蒔いたよ/蕎麦生えろ/そばはそばでも/
あたしゃーね/おまえンさまの/そばがいい。
*唄がおわる。
*祖クラ、ベッドに横たわる。
春ドン あの方は歩きまわっておられましたが、足が重くなった様子でベッドに横
たわりました。役人はそこへ寄ってゆき、あの方の向こうずねを強く押して
いいました。
役人2 感じますか。
祖クラ 感じない。
ABCDが順に(消え入るような声で。機械的な順にいうのではなく、前の人のこ
とばと重なったり、あるいはマを置いたり、いいよどんだり)
A・・ 感じない。
B・・ 感じない。
C・・ 感じない。
D・・ 感じない。
春ドン 役人はその手をだんだん上へ動かしながら、告げました。
役人2 冷たさが胸までくると、事切れます。
春ドン その冷たさが下腹部のあたりまで達したときであったでしょう、あの方は
顔の覆いをみずから少しのけて、おっしゃいました。
祖クラ 栗トン、栗トンいるか。
春ドン 朦朧とした中で、あの方は幼なじみ、実直な農夫を呼びました。
栗トン ああ、ここにいるよ。ぼくはいつも君のそばにいるヨ。
祖クラ 栗トン、たしかいった筈だが、アスピオスにオンドリを一羽、借りがある
んだ。忘れずに返してくれ……。
春ドン 栗トンは涙をこらえながら――
栗トン 幼ななじみの祖クラ、ほかにいうことはないかい。
春ドン と、いいながら栗トンは顔を近づけました。しかし、もう返ってくること
ばはありませんでした。
*一寸、長いマ。静謐で且つ饒舌なマ。
春ドン 少し経ってから、体がピクリと動き、役人が顔の覆いをぜんぶ取りのぞき
ました。目が、死んでいることを現していました。栗トンが目と口を閉じて
差しあげました。
栗トン 祖クラ、君のいうとおりだ。君のタマシーはぼくのなかで生きつづけるよ。
サヨーナラ。
加マル はい、私のなかにも生きています。私が死んでも、誰かがうけついでくれま
す。祖クラのタマシーは生きつづけます。サヨナラ。
蝉アン まさしく邪念のない命をかけたダイアローグでした。その人のタマシーが
ほろびるなんて、ああ、私のなかで何が起こっているのか。祖クラ、左様な
らさようなら。
不ラトーン わが師・祖クラ、私は迷い多き弟子でした。あんなに哲学の大事を教
えていただいたのに役立たずでした。今日も叱られて……。誓います。あな
たのダイアローグを書きあらわし、この世に残します。きっとのちの世の人
たちの心に、あなたのタマシーは生きつづけます。
偉スクス/役人1と2 サヨーナラ祖クラ。
春ドン さよーなら。
*春ドン、両手をやや拡げて皆をうながす。
皆々・ (静謐に)さよーなら。
春ドン 偉スクス、そしてこちらにいる皆さん、これが私たちの師であり、友人で
ある祖クラのさいごです。智恵と正義において、最も卓越したお方でした。
(・・▲幕・・)
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祖クラと毒杯 鬼伯 (kihaku) @sinigy
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