そして亡霊が残った
「つまり、死んだ冴島雫が全て計画していたということですか?」
「実に信じがたいことだが、そう言うことになるね。」
天神と黒島は洋館跡を去り、車で山を下りていた。辺りはもう完全に暗くなっている。
「結局、冴島雫の言うサイコロは全員死亡の結末となる目を出してしまったってことですね。」
「……冴島雫は本当にサイコロの出る目が分からなかったんだろうか?」
「どういうことです?」
「サイコロっていうのも結局は、初期条件さえ分かれば、出る目が分かるんだそうだ。つまり、ラプラスの悪魔の計算内ってことだ。
じゃあ、サイコロの出る目は予測可能なものだったんじゃないか?」
「どういうことです?」
「冴島雫が振ったと言っていたサイコロさえも彼女の予想通りだったということだったのかもしれないということだ。」
「冴島雫が言っていたサイコロの目はものの例えでしょう?
冴島雫は本当に梅野司が生き残ることを願っていたと思いますよ。」
「そう考えた方が楽しいからか?」
「そうかもしれないですね。」
天神は手に持った壜を見つめる。
「そう言えば、壜に入っていたUSBは何だったんだろうな?」
「ああ、確か手紙とUSBがありましたね。」
「ちょっと見てみるか。」
「後ろに僕のノートパソコンがあるはずです。」
天神は後ろの席に顔を出すと、黒島のカバンがあった。そのカバンの中を漁って、ノートパソコンを取り出した。天神は助手席に座り直して、ノートパソコンを起動する。そして、ノートパソコンに壜の中のUSBを差し込む。
「冴島雫が事件の真相以外に何か残すものがあったんだろうか?」
「さあ、冴島雫は研究者ですから、研究ノートとかじゃないですか?」
「いや、壜の中に入れているんだから、事件にかかわるものだろう。」
そんな話をしていると、ノートパソコンにはあるエクセルファイルが表示される。表示されたエクセルファイルには名前がずらりと並んでいて、名前の横には西暦と日付があり、さらにその横には文章が書かれていた。
「冴島雫が今まで殺してきた人間のリストだな。」
No.1は岡島進から始まり、ずらりと名前が列挙されている。死因は雷に打たれる、ひき逃げに遭う、階段から落ちる、中には誰かに殺される、通り魔に遭うなどの他人の殺人が死因になるものもあった。
そんな趣味の悪いエクセルファイルをスライドしていくと、No.45でやっと丹波圭人の名前が出てきた。No.51の黒島来実まで洋館の殺人の内容が書かれていた。
そこから先も日付と共に死者のリストが続いて行く。天神は1つずつそのリストの名前を見ながら、スライドしていく。No.100を超えた頃、天神はただ適当な名前を書き連ねているだけなんじゃないかと思い始めていた。
あの洋館の事件だけは本当で、それ以外はありそうな名前とありそうな事故や死因を書いているだけで、実際には人は死んでいないし、冴島雫が適当な妄言を書いているんじゃないか?
天神はそんなことを思いながら、スライドしていくと、ある名前に目が止まる。
『No.147 天神隼人 アガサ山を下山中、乗っている車が崖下に転落し死亡。
No.148 黒島優斗 アガサ山を下山中、運転している車が崖下に転落し死亡。』
「あっ!」
天神が自分と黒島の名前を見つけた瞬間に、黒島が大きな声を上げる。天神が前を見ると、車はガードレールに衝突していた。しかし、車の速度は止まらずに、ガードレールを突き破る。
ガードレールの外は、奈落だった。
天神の体は座席から浮き上がる。そして、上下がくるりと入れ替わった。バランスを崩した天神は手に持っていたノートパソコンのエクセルファイルを激しく下にスライドしてしまう。
そこにはまだずらりと名前が書き連ねられていた。
そして亡霊が残った (完)
そして亡霊が残った 阿僧祇 @asougi-nayuta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます