生命との邂逅

@nylon-tex

生命との邂逅

 ふわふわと湯気を立ち昇らせる、お椀の中の白米。箸で中心に窪みを作り、

そこに、昨日買ってきた生卵を落とした。

「へぁっ?」

思わず変な声が出た。

 卵の、特に白身の部分が、血に染まったように赤いのだ。米の粒と粒の隙

間に、その赤色液はゆっくりと染み込んでいく。

 ティッシュでベタつく指先を素早く拭きとる。ポケットに手を突っ込んで

スマホを取り出し、すぐさま指先を滑らせ、検索。

「血玉卵…」

初めて聞く言葉だ。どうやら、ストレスによって卵巣の毛細血管が切れて、卵

を形成する際に血が混ざってしまうことでできる異常卵のことらしい。

 卵なんてのは今まで平然と食べていたが、この、生命を動かす原液を目の当

たりすると、自分は、“命を奪っている“という実感が湧き出てくる。

 その日から僕は、「いただきます」に、誠意を込めるようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生命との邂逅 @nylon-tex

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る