これからもずっと

『そうか。楽しく過ごせているのなら何よりだよ』

「ありがとう祖母ちゃん、またそっちに行くから」


 久しぶりだったからか祖母との会話が弾む。

 祖父と共にずっと俺の事を気に掛けてくれていたようで、久しぶりの電話にあちらは感極まった様子だった。


『それじゃあ刀祢、また電話しておくれ』

「もちろんだよ。じゃあね」


 そうして電話が終わり、満足感に笑みを浮かべた瞬間だった。


「ふぅ、良いお湯だったわ」

「おかえりなさい亞里亞さん……っ!?」


 亞里亞さんに目を向けた瞬間、サッと視線を逸らす。

 というのもリビングの入口に立つ彼女は、ちゃんとパンツを穿いてはいるもののブラは着けておらず首から掛けるタオルだけで先端を隠しているような格好だ。

 人の家でなんて恰好を……! なんて文句を言うわけもなく、俺はそれを目の保養だと言わんばかりに食い入るように見つめた。


「あなたの視線を独占出来ることが嬉しいわね♪」

「もっと見ちゃうけど? 穴が開くくらい見る!」

「うふふっ、その視線を感じる度に気持ち良くなるのよ私は」


 それは……エッチだなぁ。

 何故この遅い時間に亞里亞さんが居るのかだが、関係性が進んだことでこちら側に彼女が来ることが増えただけのことだ。

 世那さんや莉愛さんもこっちに来ることが増え、泊まることも比例して増えたのだが……きっかけって何かあったっけ?


「どうしたの?」


 あまりにも自然な動作で亞里亞さんは隣に座った。

 どうやら魔法で髪が完全に乾いただけでなく、いつの間にかスケスケのネグリジェも装備済みだった。


「……最近、世那さんと莉愛さんもいつも以上に絡みが濃厚じゃないですか?」

「そうね」

「何かきっかけがあったかなって……その、まだ慣れてないんですけど彼女たちがあんな風に求めてくるのなら俺も受け入れる覚悟というか、そういうのが必要かなって」

「あら、ようやくそう思ってくれたの? 世那も莉愛も喜ぶわ」

「……亞里亞さんは良いんです?」

「私が一番なら全然良いわ」


 あ、それは絶対なんだ……まあそれは俺としても当然のことだが。


(……これも変化ってやつだな)


 魔女として永く生きる彼女たちの力になりたい……そう思ったのはいつだったか――そういえばあの夢……亞里亞さんたち三人と朝までとにかく楽しんだ夢を見た日から何かが変わったような気がする。

 亞里亞さんだけでなく世那さんや莉愛さんのことも大切にしたい、そう思えるようになった感覚があるのだ。


「ほら、夢を見せてくれた日があるじゃないですか。あの時から何だか気持ちの変化というか……もちろん三人同時ってどうなんだっていう感覚はあるんですけど」

「私としては嬉しい限りよ。魔女として普通の恋愛はまず出来ないし、世那と莉愛は確実に無理……この恋をするという幸せと、大好きな人と過ごす時間は大切にしてほしいから」


 正直なことを言えば、もう逃げることは出来ない気もしている。

 逃げる気はないし離れたくもない……というのも、あれが現実ではないと分かっているのに……あまりにもリアルすぎる夢だったからか、想いを交わし熱い言葉も交わし、とにかく三人を前にして何を伝えれば良いのかを考えての言葉を全部言った。


『嬉しいお父さん!』

『私も嬉しいです刀祢君!』


 ……全部、あの夢が俺を変えた。

 本来なら許されず、夢だからこそ好き勝手出来る無責任なことも三人にしてしまっているし……それを考えたら気にしすぎって話だけど、とにかくあの夢が俺に変化を齎したのは確かだ。


「俺は別に流されているつもりはないですし、こうしたいからって決めた自信があるつもりです。でも……やっぱり普通と違うのは確かなので戸惑いがあるというか」

「良いじゃないの。魔女に魅入られたって思えば」

「魔女だからって思考停止するより、俺が大切にしたいと思ったあなたたちだからって言った方がかっこいいじゃないですか」

「……刀祢!!」


 ギュッと抱き着く亞里亞さんを抱きしめ返す。

 本当なら一番はあなただって言いたかったけど、彼女たちに順位なんて付けたくなかった……まあ言ってしまうと、亞里亞さんが一番であることは何があったって変わらないし、気持ちの比重では絶対に彼女以上の存在なんて居はしない。


「でも……これから長くなりそうですね」

「そうねぇ……普通に歳を取るのはもちろんだけど、普通の人よりは長生きをしてもらうわよ?」

「長生き……」

「私たちと魔女と同じくらい……なんてことは言わないわ。でもあなたが死ぬ時に私たちも一緒に死ぬ――それは許してちょうだい」


 俺が死んだ時に彼女たちも死ぬ……そんなことを言われても、俺からすれば実感はない……ただ一つ思ったのはあまりにも重すぎるということだった。


「……重すぎるでしょ」

「女の想いは重たいくらいがちょうど良いのよ。絶対に裏切ることがないまでの想い……好きでしょ?」

「大好きです」


 ヤンデレは凄く好きですはい。

 前世から続く因縁と言えば因縁だが、俺にとっては間違いなく素晴らしい出会いと最高の愛を齎してくれる存在との再会は、俺にこうして絶えない笑顔を与えてくれる……俺もまたお返しをしないと。

 それこそ亞里亞さんたちが与えてくれる無限の愛に応えるような。


「あ、そうそう刀祢」

「なに?」

「その……あなたが見た夢なんだけど」

「うん」

「あれ、現実なのよねぇ」

「……え?」


 現実……どういうこと?

 きっと今の俺はギョッとしたような顔をしているはず……いや絶対にしてるだろ!?

 亞里亞さんの目に映る俺がそうだったから。


「な、何を……!?」

「あれは夢に見せかけた現実なのよねぇ。だからもう、あなたは私たち三人と関係を持っただけでなく種まで仕込んじゃったのよ?」

「……………」

「これからもよろしくね? 改めて旦那様?」


 この速さというか、物事の進み方も間違いなく魔女故なんだろうか。

 前世から続く魔女との生活……それは果たしてどんな風になるのかは分からないが一つ言えることは、間違いなく幸せであるということ。

 腕の中に居る亞里亞さんだけでなく世那さんや莉愛さん……どんな風に過ごすことになるのか、これからの長い時間を思えば楽しみであると同時に少し怖い。


 ただ一つ言えるのは、この怖さもまたクセになりそうだということだ。


「ほら、もうあなたは逃げ出せないでしょ? いいえ、逃げ出す気なんて更々ないわよね?」


 その言葉に俺は頷く他なかった。

 俺は魔女に前世から囚われている……でもそれを俺は望んでいる――これからもずっと、それが続くようにと。



【あとがき】


ありがとうございました!

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現代を生きるヤンデレ魔女一家が離してくれない みょん @tsukasa1992

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