最終話 祐介の送り火


 ふたりが祐介と過ごせたのは、ほんのひとときだった。三十分という短い時間が過ぎると、渡月橋の向こうに「大文字の送り火」が始まるのが見えた。それは、祐介の魂を送り出す別れの時が訪れたことを告げていた。


 京都市内を囲む五つの山に順番で火がともされていく。山並みにくっきりと浮かび上がる送り火、左大文字に続いて燃え盛る鳥居のマークに魅入られた。もう一度、由香と手を合わせ、私は祐介に伝えたかった想いを語りかけた。


「祐介、最後に言わせてよね。由香も大きくなって、可愛くなったでしょう。あなたにそっくりなんだから。どうか安らかに眠ってくださいね」


 その言葉は彼に伝わったのか、鳥居の燃え盛る炎が一瞬揺らぎ、雲海の彼方に彼の顔が一瞬垣間見えたような気がした。娘もその光景をじっと見つめていた。私は思わず涙をこぼした。それは悲しみだけでなく、祐介への感謝と愛情が溢れた涙だった。


「ママ、パパもきっと喜んでるよね」


「そうね、由香」


 その夜、祐介の思い出とともに、希望に満ちた目で家路についた。


 祇園祭の喧騒が過ぎ去った静寂の中で、送り火に用いる護摩木の消し炭を、白い奉書紙に巻いて家の軒先に吊るす。


 愛する人を偲ぶ時間は、京都で生きていく私たちにとって、何よりも大切なひとときだった。私は来年も由香を連れて彼に会いに来ることを心に深く刻んでいた。


 ✽.。.:*・゚ ✽.・゚ 〈完結〉・゚ ✽.。.:*・゚ ✽

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不滅の灯火「六年目の再会」 神崎 小太郎 @yoshi1449

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