次元のはざま

次元のはざま。


銀河系と異次元、そして異世界との境目に存在する空間。


かつて神々との闘いで敗れ去った魔なる者たちラストザタリオンが、この深淵に封じられている。


その最果てに、エウレカという小さな村がある。


とある異世界で魔王ゾルダークを討ち、更には神々をも滅ぼした呪われし勇者たちが、この村で暮らしていた。


大きな民家の暖炉の前で薪を放り込んでいた男、剣聖ランドールはいきなり背後にゾクッとした歪な気配を感じた。


「なんだ?今のは?」


「ん、どうしたの?ランドール卿」


ソファに腰掛けて、美少年同士の卑猥な性交の映像をブラウン管越しに楽しんでいる女性、大賢者アギーハは、ランドールに目線は合わせずに話しかけてくる。


「お前は感じなかったのかアギーハ。ってまたお前はそんなビデオを……」


アギーハが釘付けになっている視線の先には、美しい少年の聳り立つ愚息を、嫌々ながらもう一人の美少年が咥えている。


その少年の容姿が自分ととても似ていたために、不愉快に感じたランドールは、ブラウン管のスイッチを切ると酒を片手に愉しんでいたアギーハから案の定、猛抗議された。


「あン!もう、折角見てたのにい!!」


「そういうのはな、自室で愉しむもんだ」


「はいはい、そうさせてもらいますよ!っと、そういえばさっき、とてつもなくヤバげな気配を感じたね、ランドール卿?」


ブツブツ言いながらも、彼女は酒を口に含みながらランドールに問いかける。


「やはりお前も気づいていたか。この『次元のはざま』まで届くほどの力など、銀河の神々の連中でさえ、そうそうあるものでもないぞ」


「オリュンポスの奴らが飼ってる烙印者ってヤツじゃないの?」


「どうかな、あれほどの力があればヤツらの無限の牢獄など、簡単に突破できそうなものだが、未だに脱獄できたのは一人だけだったハズだろう」


突如、ギィッと扉が開く音がする。


と、小柄な少女がおぼつかない足取りで、彼らの住む民家に入ってきた。


「よっとと。今夜は冷えるねえ」


「あら、おかえりなさい、ゆーしゃさま」


アギーハが出迎えて、肩を貸す。


およそ120センチにも満たない背丈の彼女こそ、神々を滅ぼした呪われし勇者、リューネ。


「いや、何年前の話ですか、もう」


「ご苦労だったな、リューネ。ゲートの調子はどうだった?」


ランドールは彼女を労るように、ソファに腰掛けるように促して問いかける。


「概ね問題なしだよ。ラストザタリオンの連中も今は大人しくしている。ただ……」


「リューネ、お前も感じたのか?あの歪な邪気を」


「どちらかというと、無邪気な感じでしょうか。悪意は全くなかったと思いますが」


三人の会話を割って、遅れて扉を開けて入ってきたのは、錬金術師のシュウだ。


「アタイもそう感じたね、何か悪戯小僧みたいなさ」


「おやアギーハ、また私が地上から仕入れてきた男色の卑猥なビデオを見ていたのですか?貴方も物好きですね」


シュウはソファにだらしなく置きっぱなしになっていたポルノビデオのパッケージに気づいた。


「おいシュウ、そんなもんどっから仕入れてくんだよ……」


ランドールが半ば呆れ気味に言う。


「さて、そろそろ夕ご飯の支度でも……」


とリューネが言いかけたその時だ。


ガダダダダダ!!


強い縦揺れがリューネたちを襲う。


「かなり激しい揺れだが、次元震動か?」


「まさか」


と、直後にこの空間が歪む。


うごごごご……と重い音を立て始める。


「いや、この歪みは……次元のはざまが、何処かに転移するぞ……」


ランドールが、10メートルはあろう大型の剣を構える。


グオオおおお!!


と深淵の奥底の、はるか遠くから複数のうめき声が上がる。


「奴ら、目え醒ましやがったか!」


「こりゃ、とんでもないとこに飛ばされそうだよ……」


歪みが段々と激しくなり、空間が裂ける。


(ついに始まるぞ……傲慢なる神々との果てしない闘いがな……)


次元のはざまが転移する瞬間、リューネは自分の頭の中に直接干渉してくるような、なんとも不気味な、そしてどこか優しくとても懐かしい声が聞こえた気がした。


バリバリと、何かが空間を裂けて現れる。


とてつもなく巨大な、無限にまで拡がる翼を数多も生やした黄金の竜。


その竜の口元には、なす術もなく貪られている、かつて自分たちが討ち滅ぼした魔王……いや、かけがえのない仲間だった者のなれ果てた無惨な姿があった。




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天文学的確率をムダ遣いする男 S子 @tukino_aoi

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