天から来るもの
不幸にもシマさんの乗って来た小型ジェットは即日で修理を終える状態ではなかった。
彼女がエンジンルームを開けて見たところ、こちらに落下した衝撃で故障したというワケでもなく、それ以前にメインシステムが完全にイかれてしまったようだった。
最低限の飛行ができるようになるまで早くとも二週間はかかる見込みらしい。
かなりの山奥ということもあり、無線も通じないこの状況なので、私はしばらくこの平屋で彼女に居候してもらう提案をした。
幸い、書道教室以外で使用していない部屋は腐るほどある。
「でもいいのかい?お邪魔してしまってさ」
申し訳なさそうに彼女が言う。
「まあこの家も一人で暮らすには、ちと大きすぎるからねエ。ちょうどいい機会かなと思ったのよ」
「そういうことなら、じゃあお言葉に甘えさせてもらうね」
ん〜
と大きな伸びをした彼女は、湖から中庭に移動させたジェット機に近づいていく。
「とりあえず、コイツを片付けないとだね」
胸の中から菱形のペンダントだろうか……のようなモノを取り出し、ソレをジェット機の真上に投げつけたる。
すると真上にある菱形の引力に吸い込まれるかのようなカタチでジェット機が段々と小さくなり、完全にペンダントに取り込まれてしまった。
「いやあ、ジェット機も携帯する時代なんだねエ。ホント便利な世の中になったモンだ」
「へ?ああ、そっか。この星はまだ原始文明レベルだったよね」
一瞬、驚いたような表情をしたシマさんだが、すぐに納得したかのように先程の菱形を取り出す。
「コレはね、銀河連邦国内でのみ流通しているヤツね。一時的にこのクリスタルに取り込んだ物質は四次元に保管してるだけなんだけど、この星の科学力だとあと百年ちょいくらい必要かな」
「この星?」
「そ。あれ?私、銀河系中心からこの太陽系に来たってさっき言わなかったっけ?」
いや、初めて聞きましたよ……
でもさっき銀河連邦なんとかって言ってた気がするが、よもや外宇宙のことだとは思いもしなかったワケで。
「と、いうことはシマさんはさ、私から見ると宇宙人というヤツかイ?」
「まあ、そういうことになるねえ。ガハハハ!!」
豪快に笑う。
「いやあ、思ってたのとなんか違うなア。もっとこう手がデカいハサミでセミみたいなヤツかと」
「なんだいそりゃあ?まあ確かにウチの上司は顔がウマで部下は下半身がタコだけどさ」
これまた随分とユニークな職場ですねそれは。
「あ、ちなみにコレが身分証ね」
と、外部記憶媒体ほどのチップを受け取る。
「強めに握ってみな」
言われて親指と人差し指で強く握ると、ホログラムのようなものが目の前に表示された。
日本語でも外国語でもない文字列が瞬時に書き記されていく。
「いや読めないねエ」
「ああ悪い悪い。これでどうだい?」
するとシマさんはホログラムにスッと手を触れた。
と同時に自分が認識できる文字に変わっていく。
「えーと銀河連邦うんたらかんたら、グラディオン星雲出身、AGE800……へえ800歳かあ。うん800ね、なるほどなるほど私の20倍かあ。うん?800?!」
「銀河連邦政府に所属すると生体強化を受ける義務があるから寿命が平均で1万歳くらいに延命されるのよね」
いや、どこぞの戦闘民族より長生きするじゃんか……
「まあ、素性が明らかになったところでだけど、改めてよろしくね、あと名前にさん付けなくていいよ?私もタメで呼ばせてもらうからさ、ジューベー」
「あいよシーマ様」
「うーん、まあ、いいか。とりあえずしばらく厄介になるよガハハハハ!」
などと、実にくだらないバカなやりとりをしていたのだが、オリュンポスの神々からの刺客が、もうすぐそこまで迫っていることに私も彼女も気づくハズはなかった。
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