確認作業

翌日オレはギルド職員と、朝イチで出されたギルドからの護衛の依頼を受けた冒険者4人と昨日の現場を訪れていた。


「これは……確かに昨日の冒険者と依頼主だ」


 セトさん達の遺体を確認しながらそう呟くのは昨日セトさんの依頼を処理した受け付けの職員だ。


「にしても……銀級がこんな無惨に……」


 一通りの確認作業を終え、セトさん達の遺体は用意してあった袋に入れられ馬車の荷台に乗せられた。


「確かに、これは昨日依頼を出した依頼主とその護衛の冒険者です。遺体の状態を見る限り、フルさんの言う通りの事が起こった様ですね。しかし肝心の緑色のバケモノという物の死体も残骸も残っていないと言うのは……」


 それはしょうがないのだ。だって弾けてコインになっちゃったんだもの。なんて事、今言うとまためんどうな事になりそうなので黙っている。とにかくセトさん達が亡くなったって言うのが確認されただけても良かった。


「で、そのバケモノとやらが入っていたっていう樽があれですね?」


 バケモノについて唯一残された物はあの荷台に積まれたままになっている樽だ。ギルド職員がその樽を覗き込み中を見る。


「これは……内側を何か魔法で加工されていた痕跡がありますね……。材質もただの木では無さそうですね、私では詳しくは分かりませんが。そしてこの外側にある紋章は……?なんでしょう?」


 紋章?そんなん付いてたっけ?言われて樽の外側を見てみると、何やら紋章が描かれていた。それは小さなグラスに並々と液体がそそがれ、入り切らなかった液体がグラスの下へとこぼれ落ちている絵柄だった。


 「これが一体何なのかはまったく分かりませんが、確かにこの中には何かしら普通では無い物が入れられていた様ですね。これも持ち帰ってギルドでさらに調べてみましょう」


 全ての現場検証が終わり、どうやらオレが言っている事が概ね事実であろうと判断された。だがそこにはバケモノの残骸は無く、バケモノについては全てが謎のままという結論だった。


 現場検証を終え、オレ達はすぐにギルドに戻った。ギルドに到着すると職員はすぐにギルドマスターへの報告へ、そしてオレは別の職員に呼ばれこってり1時間、詳しい報告をさせられた。


「やっと終わった……」


 全ての聞き取りや手続きが終わり、やっとの事で解放された。何より残念だったのは、セトさんの依頼は完遂されなかったと言う事で依頼料は支払われなかったって事だ。じゃああの金貨5枚はどうなるんだよ?とは思ったが、そこは触れちゃいけないとこなんだと思って黙ってた。冒険者をやっててギルドに難癖付ける程アホじゃないからな。


「いよぉーフルじゃねぇか、聞いたぜぇ?大変だったらしいなぁ?」


 いつもの店のドアを開けると、出迎えたのはいつものおっさん。何だか今は安心するわ。


「そうなんだよぉ……。とにかく腹減ってんだよね……。今日もボールバードのからあげ定食くれよぉ」


「おう、ちょっと待ってろよ」


 おっさんが奥に下がり程なくしてからあげ定食をテーブルに運んで来た。


「ほらよ、さっさと食っちまいな。にしてもおめぇ、良く生きて帰ってこれたな?銀級の冒険者パーティが全滅だったらしいじゃねぇか?噂になってるぜ?」


「そうなんだよぉ~、それがさぁ、とんでもなく大変だったのよ。アンデッドの群れと見たことも無い様なバケモノが出てきてさ……」


 オレは飯を食いながら、掻い摘んで説明した。


「そりゃーよぉー、なんかきな臭ぇ話だよなあ?だいたいそのバケモノ入りの樽をどこからどこへ運ぼうとしてたんだ?ゴトマジへ行くって言ったって、その届け先は誰だったんだよ?」


「分かんね、だきたいそんなもん首突っ込んだって1エンにもならなそうだ」


「ちげぇねぇな、お前の身の丈には合ってねぇわな」


 おっさんは、ガハハ!と高らかに笑いながら食べ終わった食器を下げ、まぁゆっくりしてけ、と言い残し奥へと下がって行った。


「それはそうとして、オレのスキルだよなぁ」


 そう、スキルだ。まさかこんな弱小冒険者のオレにスキルが発現するなんて考えもしなかった。これで何かが変わるかも知れない。いや、確実に変わるだろ。なんてったってあんなバケモノを倒す事が出来たんだから。


 改めて整理してみよう。オレはおっさんがサービスでくれた鶏ガラスープをちびちび飲みながらスキルについて情報を整理する。


 まずはなんと言っても金がかかる。アホか。この貧乏人からさらに金をむしり取るつもりか。確かスキルってのは強い想い、『希望』や『願望』、『欲望』なんかが具現化したものだって聞いた事があるぞ?あ、そういやあの時確か……


 【タイプ『グリード』】


 とか何とか言って無かったか?つまりオレのスキルの源はオレの欲望って事なのか!


「じゃあなんでオレが金を払う方なんだよ!」


 そりゃ思わず声も出るだろ!オレの欲望なら金を使うんじゃなくて金を手に入れる方だろ!


「あ、だから倒した魔物はコインに変わったのか?え?いやそれって……魔物の素材も手に入らなく無いか?」


 スキルってもっと素晴らしいものだと思ってましたけど!

 あ、なんか向こうでおっさんが不思議そうな顔してこっち見てる。声にも顔にも出てしまっていたか。しまったしまった。


「でもまぁ……金さえ払えばあんなバケモノ倒せるぐらい強力なスキルなんだ。これを使ってもっとランクを上げればそれだけ美味い依頼も受ける事が出来る」


 おっとまた声に出ちまった。

 でもスキルを手に入れた事で選択肢がかなり広がったのは間違い無い。さらに強くなったのも確実だ。


「後は費用対効果だな……」


 報酬の美味い依頼を受けたとしても、それを達成するためにスキルを使いまくって経費がかせめば結果赤字になってしまう。これは頭を使わないとならないな……。それにはまずこのスキルの事をもっと理解しないとならないな。何が出来るか、どれだけの金額を払えばどれだけの効果でどれぐらい持続するのか。確かあのバケモノを倒したいって考えたら頭の中で必要な金額を教えてくれる声がしたな?あれが世に言う神様の声なのか?

 オレは腰の小さな箱、リアライザに軽く触れる。


「あの声はお前なのか?リアライザ、さん?」


 【リアライザと言うのは適切ではありません。私は『システム』。リアライザはあなたに与えられた能力です。リアライザの能力を行使するのはマスターであるあなた、私はそれを補助する機能です】


「うわ!返事した!」


「お前大丈夫かよ……?死にかけて頭おかしくなっちまったか?サービスだ、これでも食ってちょっと落ち着けよ……」


 心配そうな顔をしたおっさんが柄にも無くデザートを持ってテーブルまで来てた。サービスって言ったって、いつもはからあげのおまけか鶏ガラスープぐらいなもんなのに、デザートのプリンをタダでくれるとは、そうとうやばそうに見えたんだな、オレは。まぁありがたくいただくけども。


「ええっと……システムさん、聞こえてますかー?」


 オレはかなり声を小さくして問いかける。


 【声に出さなくても意思疎通は可能です】


 あ、そうなんだ。


 (あーあー、これでいいんだな?それでだ、色々と試してみたいんだが、オレが思う効果と持続時間に必要な金額を教えてもらえるって事でいいのかな?)


 【それで間違いありません。現在のスキルレベルの能力の範囲内で、そのレベルのレートで算出します】


 スキルレベル?レート?


 (もししてスキルレベルが上がればさらに強い力が使える様になるって事か?レートって用は換金率だよな?レベルが上がれば同じ効果でも金額は少なくて済む?)


 【それで間違いありません】


「おおおー!それはがんばりがいがあるなぁ!」


 うお、またおっさんが見てる。


「おっさん会計おねがーい」


 これは場所を変えよう。おっさんの変人を見る目に耐えられない。飯代を払っている間中、心配そうな目で見るなよ。オレは正気だから……。

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債務冒険者、換金スキルで完済を目指す ~スキル『換金』で全て金で解決!倒す度にお金になるが、倒すにはお金がかかります!?~ @PDlion

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