理解

2回目のスキルの発動はまずは身体能力強化からだった。それはさっきと同じで箱、たぶんリアライザってやつだな、それが光ってその光が全身を駆け巡って体に力が漲った。それもさっきの比べ物にならないぐらい。続いて起きた変化はリアライザで起きた。

 カシュン、と言う音と共にリアライザの横、オレの前方に向いた側面にある隙間から緑色の光る板の様な物がスライドして出てきた。

 なんだこれ?と思ったが、それを引き抜くのが正しいんだと何となく理解出来た。オレはその板を迷うこと無く掴み前方へ引き抜いた。


 引き抜いた光の板はリアライザからパリパリパリと言う音を立てながら伸びて行く。そして最後まで引き抜くとその長さはちょうどロングソードぐらい。リアライザから全ての姿を現した瞬間、それは甲高い音を立てて緑の光が割れ、中から蒼白い炎の様な光を纏った片刃の剣が現れた。


「おお!なんだこれ!てか重っ!しかもこの蒼白いの、魔力を纏ってるのか!?」


 これは確かに身体能力を強化してないとオレには持ち上げる事すら出来ないな。そしてオレはその剣を構えてバケモノと向かい合う。

 バケモノは剣を見て一瞬立ち止まる。何かを感じている様だ。


「あいつも無傷って訳では無さそうだな」


 止まってこちらをうかがっているバケモノを見ると、その金属部分にいくつかの傷が見られる。さすが銀級冒険者、善戦したらしいな。そして1番傷が多いのがみぞおち辺りにある拳大の鉄球だ。


「もしかしてあれが弱点なのか……?」


 ハッツさん達は少なからずこのバケモノについて知っていたはずだ。その人達が1番多く傷を付けるという事はそこを狙ったって事だろう。つまり弱点なんだ。


「狙いやすい場所で良かったよ」


 一撃で決める。なんの技術も持たないオレが、あんなバケモノを倒せるチャンスなんて何度も来るはずが無い。相手もオレの手の内が分からない内に一気に決めないと。何より時間が経てば経つほどあいつは強くなってしまう。今すぐ決めるしかない。

 

 オレは剣を水平に構えやや姿勢を低くする。


 捨て身でも何でもいい、あの鉄球を一撃で破壊する事だけを考えるんだ。

 

 驚くほどに落ち着いている。命のやり取りってこう言う事なのか。冒険者をしていればいつかこんな場面に巡り会うと思っていたが、心のどこかで現実には起こらないんじゃないかとも思ってた。それが今、こんな形で訪れるとは。


 いつ動くんだ?オレから仕掛けるのは難しそうだ。というよりどうしていいか分からん。この辺が達人との違いなんだろうな。狙うは相手の攻撃の際に出来た隙だ。


 少し、ほんの少しバケモノが前へと体が傾いた。


 来る。


 そう思った瞬間に、まるで背後が爆発して吹き飛んで来たかの様な速度でバケモノが突進して来た。

 走っている。しかしそれはどの生物の走り方とも異なり、走る姿はめちゃくちゃだ。それも今のオレにははっきりと視認出来ている。


 見える!見えるぞ!来いよ!


 速い、とにかく速い、でも付いていけない程じゃない。狙いはみぞおちの鉄球ただひとつ。目を逸らすな。最速で、最短距離で一撃を叩き込む、それには突きだ。それしか無い。

 バケモノが左腕をすくい上げる様に拳を振るう。

 オレは半身になり最小限の動きでそれを躱す。大きく体を捻ったので両手で剣を構える事が出来ず右手1本で握る。左手は親指と人差し指の間の股に片刃の剣の峰を添え、刃は天を向く。


「おおおおおおお!!!」


 ここしかない!喰らえ!


 オレは左手の股の上を滑らせ、渾身の突きを放つ。距離は十分届く。体をよじり、右手が伸び切る。渾身の力で放たれた片刃の剣はバケモノの鉄球を捉え、その刃はすり抜ける様に貫通し蒼白い炎が爆ぜる。そして鉄球は粉々に砕け散った。


「やったか……?」


 バケモノが動きを止め、少しの間の後、バケモノは緑色の煙を、まるで爆発したかの様に吹き出し、あっという間に鋼鉄の手足と頭、腰、そしてそれをつなぐコードの様な細い四肢だけの姿になり、膝から崩れ落ちそうになった瞬間、その全てが弾け、代わりにコインが地面に落下した。


「倒した……んだよな……?てかこんなに強かったのに銀貨5枚なのかよ!?こういうのは強さに比例するんじゃないの!?」


 バケモノがいた場所に落ちていたのはなんと銀貨がたったの5枚。


 オレも膝から崩れ落ちた。


 オレはそのまま地面に大の字で寝転がり空を見上げた。


「まいったなぁ……」


 他の人の生存を確認しに行こうかとも思ったが、間違い無く亡くなっているだろう。仰向けになっている人は恐怖の表情で目を見開いたまま硬直してるし、顔が見えない人も胸や腹に大きな穴が空いている。おそらくはバケモノの拳で貫かれたんだろう。さすがにアレで生きてたらそれこそバケモノだ。


「あれ?そういや……体が重いぞ?」


 いや、正確には軽く無くなったというのがしっくり来る。


 その時、パリン!という音と共に手に持っていた片刃の剣が割れ霧散した。


「あ、あれ……?もしかして時間制限あるの?これ?」


 なんだよもー!高い金ぼったくる上に使い捨てかよ!だいたいこれに入れた金ってどこ行ったんだ!?どこかで誰かがニヤニヤしてんじゃ無いだろうな!


 当たり前だがめちゃくちゃ疲れた……。しばらく夜空を見上げてぼーっとしてたけど、これじゃいかんと思って体を起こした。周りを見渡せば先程とまったく変わらない光景が広がっている。


「少なくともこのまま放置って訳には……行かないよなぁ……」


 よし、レリトまで戻るか。夜道だが幸い今日は月明かりもあるし、何より庭の様に慣れた道だ。余程の魔物と出くわさない限り、オレ1人なら上手いこと逃げられるだろ。さっきみたいに手に入れたスキルでどうにか、とも思ったけど、この不思議な袋の中にはもう銀貨5枚しか入っていない。


「ん?て言うかなんで袋の中身がどれだけ入ってるか分かるんだ?」


 見てもいないし触れてもいないけど、袋の中に金がいくら入ってるかが分かるぞ?まぁそんな事はどうでもいいか。そういうスキルなんだろ。

 とにかくレリトに戻ろう。そしてギルドに報告して、明日の朝イチにまたここに戻ってくればいい。さすがに一晩ではセトさん達もアンデッドにはならないだろう。たぶん……。


「よし、じゃあ急いで行くか」


 オレは立ち上がり足早にレリトへと向かった。




「おおー、無事に着いたな」


 遠目にレリトの町並みが見えた。ポケットに入れてあった懐中時計を取り出して見てみると時刻はもうすぐ日付けが変わるところだった。

 確かギルドは深夜も当番の人がいたはずだ。何にせよ早い方がいいだろう。

 オレはさらに歩くスピードを早めギルドを目指した。


「すいませーん……どなたかいらっしゃいますかー?」


 そーっとギルドのドアを開け、そーっと声を掛けてみる。


「はいはーい、いますぐー」


 気の抜けた返事が奥から聞こえ、それに続いて若い女性の職員が出てきた。


「こんな夜更けにどうされたんですか?」


「いや、急ぎで報告した方がいいと思いまして……」


 そしてオレはそのお姉さんに事の顛末を簡潔に伝えたが、その際オレのスキルについてはめんどうなので伏せる事にした。


「ちょ……ちょっとそれ、本当ですか?何とも言えないですが……。昼間の冒険者の方々ですよね?確か全員が銀級の冒険者したよね?それをあなた1人を除いて全滅だなんて……。さらに銅級のあなたがそのバケモノを倒したんですか……?」


「あ、いや、倒したと言ってもほぼ瀕死のバケモノにトドメを刺したってだけで……ははは」


 そこはあんまり突っ込まないでくれよー。


「とにかく事実の確認と、本当ならば遺体の回収に向かわなければなりませんね。しかしもうこの時間です。明日の朝イチになるでしょう。ギルドマスターには私から急ぎ報告を入れておきます。あなたは申し訳無いですが同行していただかなければなりませんので、今晩はギルドの宿舎にお泊まりください」


「分かりました……ではそうさせていただきます」


 早い話が、胡散臭い報告を持ってきた奴を拘束しとくって訳か。確かに信じ難いよなぁー。銀級冒険者が全滅して銅級冒険者だけが生き残るってな。

 何だかんだ言ってもしょうがない。まずは明日、ギルドの人達とあそこへ行って確認してもらわなきゃ。ていうか今日はもう疲れた。どこでもいいから早く寝たい気分だ。

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