スキル『換金』
突如頭の中で響いた声。スキルだって?換金がどうとか……。
するとオレの右腰の辺りに緑色の光が集まり小さな箱と小さな袋が現れた。
オレたちオリ人と呼ばれる種族は他の種族より秀でている能力は無い器用貧乏。その代わりスキルと呼ばれる、その人間固有の特殊な能力はオリ人にしか発現しないって話だ。聞いた話によると、スキルは生まれ持って手に入るものじゃなく、ある時突然発現するものだって。その時は神の声が聞こえるって話だったはずだ。
今のが神の声だって言うのか?
オレが混乱していると何かがオレのすぐ横に転がってきた。
「え……ブルートーさん……?」
それは血まみれのブルートーさんだった。いや、正確にはブルートーさんの死体だ。左胸がごっそり吹き飛んでいる。
「やばい……!逃げなくちゃ……」
どうにか立ち上がろうとするが片足じゃどうにもならない。
【欠損した四肢の修復にはそれぞれ白金貨1枚必要です。入金しますか?】
「え……?修復?入金?」
何だ?何だか分からないが腰に現れた箱がオレの意識に飛び込んで来る。
「これか……?いやでも入金ったって10万エンなんて大金持ってる訳……」
目に入ったのは転がるブルートーさん。その背負っていたカバンが破れ中から荷物が飛び出している。
「アレは……硬貨入れの袋……?」
思わず手を伸ばす。そのずっしりとした重み。無我夢中で袋を開けるとそこそこな数の金貨と白金貨が数枚入っていた。きっとパーティのお金はブルートーさんが管理していたんだろう。
「でもこれをどうしろって……?」
次は箱と一緒に現れた袋が意識に飛び込んで来る。
「ここに……!入れんのかよ!」
訳が分からない!でも何もしなかったら死ぬだけだ!オレは硬貨入れの中のコインを鷲掴みにし、謎の袋に突っ込んだ。
不思議な事にコインは吸い込まれる様に袋の中へ消えていった。そしてまったく重みを感じない。訳も分からず次々とコインを袋に詰め込んでいく。全てのコインを袋に入れたが何も起こらない。
「何だよ!次はどうすんだよ!」
【どの硬貨を何枚引き出しますか?両替後に必要数を引き出すことが出来ます。いくら引き出しますか?】
「引き出す……?じゃあ欠損した四肢の修復に10万エンかかるって言うなら足と手で20万、白金貨2枚だろ!」
【白金貨2枚、両替完了です】
自然と袋の中に手を突っ込んだ。たぶんこれで正しい。袋の中は不思議な感触がした。そして白金貨2枚、それを取り出そうと考えながら掴むとコイン2枚の感触が伝わって来て、そのまま引き抜いた。その手には白金貨が2枚。
「で……どーすんだよ!」
【リアライザの『体』のスロットに入金してください。入金後ただちに修復が開始されます】
「リアライザ!?」
これか!腰の箱を見ると3ヵ所コインを入れる様な溝がある。そしてそれぞれの全面には『魔』『体』『物』と書かれている。
「この『体』ってとこに金を入れればいいんだな!」
オレは無我夢中でコインを2枚、『体』と書かれた溝に入れた。
「これで何も起きなかったら大損だからな!オレの金じゃないけど!」
コインを入れると小さな箱の周りに緑色のモヤがかかる。そしてそれはどんどん濃くなり、一気に凝縮して『体』の文字に集まり光を放った。次にその光は箱からオレの腰へ、へその辺りへ、そこから上下に分かれて走り欠損した腕と足の断面まで到達した。断面から先へ、幾筋もの緑の光が、まるで一瞬で植物が成長するかの様にうねり、伸びて行く。そしてそれは光の束になり、塊になり、遂にはオレの腕と足になった。
「え?えぇ?これって……?なんなんだよ?」
地面に突っ伏したまま、元に戻った左手を握ったり開いたりしてみる。間違いない、これはこれの意思で動くオレの手だ。
「どうなってんだ……」
その時頭の上から地面を踏む音が聞こえた。そうか!寝転がってる場合じゃないだろ!
オレは何も見ずに元に戻った左手で地面を押し横へと転がる。元いた場所へ襲いかかろうとしていたアンデッドが地面に両手をついた。
「危ねぇ……!」
オレは勢い良く立ち上がる。つまり右足も問題なく動いている。目の前にはアンデッドが5体。ブルートーさん達がだいぶ数を減らしていてくれたのか。オレは周りを見渡す。さっきまで持っていた自分のショートソードはどこかへ行ってしまっている。
「あれは!」
地面にはブルートーさんと一緒に吹き飛ばされて来た斧が転がっている。オレは走り抜けながらその斧を拾い上げる。
「……っ!重てぇ!」
いやなんでこんなに重いの!ブルートーさんはこんなものよく軽々と振り回してたな!どうやったらオレにこんな物振り回せる様になるんだよ!
【身体能力を向上させますか?入金した額に応じて向上する事が出来ます】
また頭の中に響いた声。身体能力を向上?あ、今オレがこの重たい斧を振り回せる様になりたいって思ったからか?
「それなら!」
オレはさっきと同じく袋に手を突っ込む。そして金貨を1枚取り出したいと念じる。すると手にコインが触れる感触があり、そのまま握り袋から取り出す。その手には金貨が1枚握られている。
「金貨1枚だぞ!これでどうしようも無かったら怒るからな!」
誰に怒るか分からんけど、とにかく威嚇しながらコインを『体』のスロットへ入れる。するとさっきと同じ様に緑色のモヤが集まり光となり、箱から一気にオレの全身を駆け巡った。
「おおお!なんかすげぇ事になってる感じがする!」
と思った!分からんけど!試しに斧を左から右へ横なぎに振ってみる。するとまるでその辺に落ちている木の枝を振ってるんじゃないかってぐらいに、この大きな斧を軽々と振ることが出来た。
「これなら!行ける!!!んぉおおおお!!!」
オレは叫びながらアンデッドに突進した。何も考えず思いっきり斧を真横に振り抜く。手には軽い衝撃が伝わって来ただけでいとも簡単に2体のアンデッドが胴体から真っ二つになりまとめて吹き飛んだ。
恐怖心など失ったアンデッドはなおもオレに襲いかかる。次のアンデッドは上から振り下ろし脳天から股まで斧が貫通。地面にめり込んだ斧を右回転に体を捻りながら抜き、そのまま回転の力を乗せ片手で横一文字に振り抜く。やや斜めの軌道を描いた斧の一撃は、残る2体のアンデッドをまとめて切り裂いた。
すると縦に真っ二つにしたアンデッドの体が弾ける様に消えて無くなったかと思ったら、その場所に数枚のコインが現れ地面に落ちた。
「え……?なんだこれ?」
さらにまたコインが地面に落ちる音がした。そこは最後に2体まとめて倒したアンデッドがいた場所。
「これって……何となく理解出来るぞ……。アンデッドを倒して『換金』したって訳か……」
不意に背後から地響きの様な音が聞こえた。驚いて振り返るとあのバケモノがこちらへ歩いて来る。その姿はさっきより一回り大きくなっている様だ。そしてその後ろには冒険者達が全員倒れていた。
「これって……やばくね?」
逃げるか?いや逃げ切れるのかよ?こうしてる間にもあいつはどんどん強くなって行ってるんだよな?だいたい逃げるったってどこに逃げるんだよ?町まで走ってったって何時間かかるんだよ?
「絶望的だけど……やるしか無いのかよ……」
覚悟を決めるしかない。
「あ、スキル!そうだスキルだよ!あいつを倒せる様な武器とか魔法とか無いのか!?」
誰に向かってか分からないけど、誰かが答えてくれる気がして叫んだ。
【武器を生成しますか?現状のスキルレベルで生成出来る最高威力の武器を生成するには『魔』に金貨5枚、『物』に白金貨1枚、さらにそれを扱うには『体』に金貨5枚必要です。入金しますか?】
「たっけぇ!高いよそれ!本当にそれでどうにか出来るんだろうな!?」
いやこれについては返事無いのかよ!白金貨を全部で2枚分だって!?20万エンかよ!てかそんなに持ってるのか!?そう考えた瞬間、袋の中身が頭に飛び込んで来た。
「袋の中に白金貨2枚と金貨1枚か……。足りるっちゃ足りるな……」
そんな大金、躊躇して当然だろ!でももう目の前までバケモノが迫っている。
「くっそおおおお!もったいねぇけどしゃーないか!」
オレは袋に手を突っ込みコインを取り出しそれぞれのスロットに入れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます