第21話 ぶっとんだお姫様にバカは感心する
早朝、太陽が登り始める直前にニィヤンはモルプレに戻ってきた。
門を抜けて山間から太陽が顔を出そうとしているのを見ながら煙草を口にくわえて火を点け一吸いして吐き出す。
ネアールの依頼について調べる為に出て帰ったニィヤンは紫煙を揺らしながら頭を掻く。
「ネアールを狙う、いや暗殺を企むヤツがいるというの疑いを否定するのは難しそうだな」
そう呟くニィヤンは朝早過ぎて門に詰めている警備の人しか誰もいない道を歩く。
後、1時間もすれば商売する者達が通りに現れるだろうがまだ早過ぎる時間である。
ネアールの件を結論から言うと勘違いではなさそうという事実。
出会った場所の周辺を捜索すると土を均した場所があり、近くの草が薄らと焦げているのを発見した。その焦げた草を嗅ぐとニィヤンはこれと酷似する物を知っていた。
誘導香。
匂いで引き寄せる為のアイテムである。
用途は色々あり、細かい調整するとピンポイントに誘導する事も不可能ではない。
ただ、正確に誘導しようとすると風や立地など色々と計算しないと難しい。
無作為に数頼りでばら撒くようにすれば出来るがさすがにそれを調べる時間までは取れずに捜査を打ち切った。
まだ状況証拠といえるモノしか発見出来てないが気のせいと見捨てるのは本物の阿呆の所業と言わざる得ない。
ネアールの生い立ちや状況を考えて、そうだと判断するが妥当だとニィヤンは思う。
それに付随する問題を考慮すると
「受けるべきか悩むところだな」
煙草を吹かすニィヤンが嘆息する。
「うふふ、やりたくなさそうに言ってるけどお兄さんは助けちゃうんでしょ? ジュン君もきっと分かってるよ」
ジュラの言葉を思い出すニィヤンは苦笑しながら肩を竦めて家路を辿るのであった。
早朝、みんなが起き出して食卓を囲んでいる。
ニィヤンが主導でラスティが補助する形で作られた朝食を食べている。ラスティは朝食の準備中にニィヤンの手際の良さにいたく感銘を受けたようで朝食に手を付けずにメモ取りに勤しんでいる。
本職の侍女としての琴線に触れたようだ。
ネアールは朝食をちまちまと食べつつ、口に入れたと同時に表情を明るくしたと思えばすぐに考え込むような仕草を繰り返している。おそらく朝食の美味しさに素直に感動したいが昨日の保留された依頼の結果が気になって純粋に楽しめてないのであろう。
それを横目に見る地面に正座するジュンは不貞腐れ気味で木箱の上に置かれた朝食のソーセージをフォークでブッ差しつつ嘆息する。
昨日一日でお小遣いを全ツッパした事がバレてニィヤンの折檻を受けている最中のジュン。
ちなみに隣では同じように不貞腐れているのを隠してないカ―さんも同じように正座させられている。
大きめのソーセージを一口で頬張ったジュンはニィヤンに声をかける。
「で、どうするんや、兄やん」
「何の話だ?」
ジュンにそう聞かれたが素知らぬ素振りを見せるニィヤンに苛立ちを見せ頭を掻きながら面倒臭そうに言ってくる。
「すっと惚けるのはええんやって。どうせ裏取りとかしてたんやろ?」
そう言ってくるジュンは諦め、いや、この後の展開を理解しているようで馬鹿馬鹿しいと言いたげである。
ジュンに見透かされているのをはっきりと自覚させられたニィヤンは肩を竦めて食卓を囲んでいるネアールとラスティに目を向ける。
ネアールとラスティの2人は目を向けられ思わず背筋を伸ばしてニィヤンに向き合う。
ニィヤンの返答如何で今後を左右されるのである。少し緊張が見える。
「ああ、ジュンの言う通り裏取りというにはお粗末だが、確かにネアール達が狙われている疑惑は可能性は高そうだという結論に至った」
「では!」
ラスティが身を乗り出し、ネアールは固唾を飲んでいるようだが瞳には期待が過っている。
1つ頷くニィヤンが
「依頼は受けようと思っている」
喜びを見せるネアールとラスティに掌を突き出して待ったをかける。
「その前にはっきりさせたい。方針を聞きたい」
「方針? どういう事じゃ?」
「つまり火の粉を払い続けるのか、それともその先を見越した話なのかだな」
ニィヤンにそう言われたネアールは小さな顎に手を当てて考え始める。
考え始めるネアールを見てラスティが心配そうに「姫様」と呟き見つめている。
考えが纏まったらしいネアールが顔を上げニィヤンを見つめる。
「とことんまで付き合ってくれると?」
「受ける以上は中途半端なのはな」
相手が諦めるまで暗殺計画を潰し続けるか、それとも抜本的に問題の解決を狙うかをニィヤンは聞いている。
大事にしたくないのであれば匿われ続ければいい。だが、大手を振って街を歩きたいと考えるなら画策を続ける相手を特定して問題解決に動く必要がある。
テーブルに身を乗り出すネアール。
「も、勿論、解決してくれるのが有難いのじゃ。解決してくれるなら、わらわが支払えるだけの報酬を……」
ネアールは最後まで言わせて貰えなかった。ニィヤンに優しくデコピンをされた為である。
「子供がそんな事言わんでいい。方針は分かった」
頷くニィヤンを目尻に涙を浮かべるネアールが恨めしそうに見つめる。
優しくされたデコピンですらちょっと痛かったらしいネアールが拗ねる様子にラスティが苦笑を浮かべている。
「そうなると引き籠るのはナシだな。街中では俺達の誰かと必ず行動してアウトローギルドの依頼時も同行して貰おう。依頼時は俺が傍にいるようにするがいざという時の為に立ち廻りを覚えて貰う」
そうニィヤンが言うの見たネアールが不敵な笑みを浮かべる。それを見たラスティが驚いた表情を見せ、「姫様、アレを本当にやる気ですか?」と問いかける。
それに鷹揚に頷くネアールはニィヤンに立ち上がるように言い、立ち上がったニィヤンの背後に行くと助走をつけて背中にダイブする。
ニィヤンの太い首に両腕を巻きつけるようにして抱きつく。
おんぶである。
「ラスティ!」
「えっと、はい」
完璧と言いたげなネアールと対照的に困ったように眉を寄せるラスティが2人に近づき、長い帯を取り出すとテキパキと2人を縛るようにしていく。
ムフンと鼻を鳴らすネアール。
「お兄ちゃんのここが一番安全じゃ」
ニィヤンの背で勝ち誇ったような顔をするネアール。
つまり抱っこ紐、もといおんぶ紐で体を固定されるニィヤンも何とも言えない顔をしている。
それを見たジュラが可愛いと呟くが呆れを通り越えて一種の感心を見せるジュンが嘆息混じりで聞いてくる。
「恥ずかしくないんか? 年いくつよ」
「恥ずかしくないぞ? 年は8歳じゃ」
ジュンの言葉に一切のテレも見せるどころかドヤ顔で言い切るネアール。
口の端を上げて好意的な笑みを浮かべるジュンは
「確かにそこが一番安全やな、ちょっと見直したで、お嬢」
「そうじゃろ、そうじゃろ? いざとなればこの体勢になれば……わらわの隙のない完璧なアイディアじゃ」
「ネアールがそれでいいなら構わんが……」
ニィヤンの想定にはなかった結果にはなったが、まあいいかと肩を竦めるのであった。
バカは一度死んだぐらいでは治らないー兄貴を道連れにして異世界転生ー バイブルさん @0229bar
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