第20話 ニィヤンの強さの秘密を知ってバカは拳を握る

「なぁなぁ、ちょっとだけええやろ?」


 ジュンはある酒場のソファに座り、隣にいる貧乳だが可愛い女の子を肩を抱き寄せ空いてる片手で胸を指差しながら唇を尖らせ顔を寄せる。


 ジュンの仕草でどちらを求めているか良く分からない。


 どちらかの要求が通ればOK、両方通ればラッキー精神なのがジュンである。


 飲み屋の女の子は「もうエッチぃ~」とジュンの顔を押しやってキャッキャと楽しげにやっている。


 押しやられているジュンも嬉しげだ。


 貧乳美少女はジュンの大好物である。


 巨乳美女も大好きである。


 ジュンの女に対する好きの幅が広い。むしろ嫌いが少ないという特徴がある。


 生粋の女好きであった。


 一緒にやってきているカ―さんは足の綺麗な飲み屋の女の子に膝枕されて御満悦な様子。


 ニィヤンがネアールの裏付けでモルプレを出ている間、2人は夜のお店で満喫中である。


「レラさん、サーラさん次のテーブルにお願いします~」


 ボーイにそう言われたジュンとカ―さんに付いていた女の子達がハーイと返事をする。


 ジュンの腕からスルリと抜ける貧乳美少女レラは「またねぇ~」と言われジュンは「いかんといてな」と名残惜しそうに手を伸ばす。


 隣のカ―さんは優しく起こされて同じように「またね?」と言われて頬にキスされている。


 去っていく2人を見送ったジュンは肩を竦め、カ―さんは御満悦の様子である。


 男2人だけのテーブルになって酒を飲み始める。


「次はどの娘にしようか?」

「そうじゃな、ちょっと酒飲みながら考えるかの」


 そう言う2人が物色するように辺りを見渡す。


 騒がしい店内、酔客の大きな声に楽しげな女の子の声が響く。


 ジュンの大好きな空気感。


 騒がしいのは好きなジュンは意外にも寂しがりな一面があるのでこういう所は落ち着くのである。


 物色しながら酒を飲んでいるとジュンはふと気になっている事を思い出し、辺りを見渡してジュン達に注目している人がいないのを確認するとカ―さんに近寄る。


 少し声のトーンを抑えてカ―さんに聞く。


「なぁなぁ、カ―さん。ちょっと聞きたい事あるんやけど?」

「ん~なんや? ジュンが呼んでた女の子はワシも嫌いじゃないよ」

「違うわ、アホ」


 惚けた事を言うカ―さんに顔を近づけるジュン。


「前から気になってたんやけど何で兄やんあんなに強いん? どんなチート持ちなん?」

「ああ~、ジュンはまったく勝てないみたいやしな」


 カ―さんはウンウンと頷きながら酒を一口飲む。


 ジュンは訓練などでニィヤンに毎回コテンパンにされている。ジュンはこれでも剣聖持ちのチートである。


 だが、剣聖のスキルに強化魔法で強化しているのにも関わらずニィヤンを本気にさせる事にすら成功していない。


「ジュンは本番に力を発揮するタイプじゃがそれでも実力差はあるの」

「そうなんよ。兄やんに聞いてもどんなチート貰ったか教えてくれんし」


 ニィヤンにいくら聞いても答えて貰ってないジュンは与えたカ―さんであるなら分かるはずと気付いたので聞いている。


 カ―さんは気のない振りで酒を飲みながら


「ワシからは言えんな~」

「なんやねん、それ! ええから教えてな」


 更に詰め寄ってくるジュンを見ずにカ―さんは言う。


「ただ言えるのはニィヤンは一度もチートを使った事はないの」

「はぁ?」


 カ―さんの言葉に目を点にするジュンが前のめりになっていた姿勢を思わず元に戻してしまう。


 更に酒を口にするカ―さんは思い出すように遠い目をしながら続ける。


「1つチートを授けると言った時ニィヤンは聞いてきた。努力して手に入らないスキルはあるのか? とな」


 カ―さんは手酌で酒を注ぐ。


「ワシは言ったよ。ない、理論上全て手にする事は出来ると」


 酒を一口飲むカ―さんが意地悪な笑みを浮かべて呆けたジュンを見つめる。


 我に返ったジュンは再び詰め寄る。


「でもワイは人の何倍も剣の扱いが上手くなるのにどうして追い付けないんや?」

「そら、ニィヤンは生まれて自分を認識した時から鍛え続けているしの」


 勿論、赤子の時から筋トレなどをしてたという話ではない。気の循環や魔力などといったそういった訓練を始めていた。


 酒が入ったグラスを持ち上げるカ―さんがジュンを見つめて言う。


「ジュンは5歳からじゃろ? そう今世最大のバカをやったその時。つまりこの時点でニィヤンと7年の開きがあるの」

「……」


 カ―さんが言う今世最大のバカの件でジュンは暴れたくなる自分の感情を抑えるように拳を握る。


 そんなジュンを見て嘆息するカ―さんは思い出しながら話す。


「ワシはチートを要らないと言ったニィヤンが気になってずっと見ておった。あれは生粋のバカじゃよ。終いにゃ寝てる最中にも鍛えようとする本物のバカよ」


 兄弟揃ってバカと笑うカ―さん。


 ジュンは悔しそうに拳を握ったままである。


 それは過去の悔恨からか、それとも勝てないという自分に対する憤りなのか本人も分かってはいないだろう。


 ジュンの胸中を理解するカ―さんは手にしていた酒を煽り、再び手酌してジュンの空いてるグラスにも酌をしてやる。


「お前さんも影で努力してるのはワシも知っとるし、ニィヤンも気付いておる。ニィヤンも背を追ってくるジュンに負けじと更に頑張っておるよ」


 拳を握るジュンの手を優しく開き、グラスを持たせる。


「ワシはそんなバカな兄弟を愛しく、そして愛しておるよ。お前さんはお前さんらしくおれば良い」


 そう言うカ―さんは神様らしく微笑みながらジュンのグラスに優しく自分のグラスを合わせる。


 2人は騒がしい喧騒の中、静かに酒を飲み続ける。


 そして、朝帰りしてニィヤンに1日で小遣いを使い果たした事を知られて仲良く正座させられる未来を知らずに酒を交わし続けた。

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