第34話 体育祭スタート
『ただいまより、第四十四回 体育祭を開会します───……』
今日の最高気温は27度、雲が所々にありつつも天気は晴れ、体育祭日和といえる。
各学年ごとに立てられたテント内に設置されたイスに座り、全体の状況を見てみる。
開会式が終了し、早速とばかりに種目がスタートした。
最初は一学年による50メートル走が行われ、順に二学年、三学年と連続で行われる。
今体育祭の最短距離種目ということもあり、中々にハイペースで次々と生徒が走ってはまた次走者がスタート位置についている。
放送席から実況している放送委員は、このペースに少し戸惑いながらも必死に食らいついているからか、まだ体育祭が始まってものの数分だが会場はすでに盛り上がりを見せている。
最初に出場する100メートル走まで、まだ数種目を挟むため出番は一時間ほど後になる。
周りはクラスメイト同士談笑をしながら楽しんでいるが、俺はここにいても退屈なだけだから席を離れることにした。
秋人のいるクラスのテントへ向かおうとしたが、遠くからクラスメイトと話している姿を見つけてやめることにした。
こういう時にクラスに親しい友達がいないと本当につまらない。
グラウンドの校舎側、中庭に繋がる通路にある水飲み場の近くへ行くと、そこには大塚が段差に腰を下ろして座っている姿があった。
そういえばクラステントに彼女の姿はなかった。
パッとみた感じでは俺と同じように退屈で抜け出してきたといったところだろうか。
近づく俺に気づいた大塚が軽く手を振ってきたので、隣に同じように腰を下ろした。
「……あの仲良い他クラスの人とは一緒じゃないのか?」
「真城華那よ……、華那はこの後すぐに出場するからもう待機してる」
そうだ真城さんだ。
「なによ、もしかして話せる人がいなくて抜けてきたわけ?」
少し笑った表情でそう言ってきた。
「なっ……お前だって同じ理由でここにいるんだろ!?」
「残念でした〜私は50メートル走を走り終えて休憩しているだけです〜」
クラスメイトの出場する種目は何一つ把握していなかったため、大塚の出場種目も分からなかった。
ボッチは俺だけだったということか。
「まぁそう悲しそうな表情しなくても、私があんたの話し相手になってあげるから」
「ぐっ……」
ニヤけた顔でそう言われてはおちょくられているようにしか聞こえない。
「ねえ、榎本はこの体育祭に両親来てるの?」
「いやまさか。絶対来ないね」
二人揃って自由奔放な性格をしているから突然海外に行くなんて言って家を出て行ってしまったのだ。
向こうで今何をしているのかも知らないが、まああの二人なら何とか成功しているに違いない。
「そっか、うちも絶対来ないかな。うちら一緒だ」
大塚は話せない事情があって一人暮らしをしていると言っていた。
だからここでもなぜ親が絶対来ないのか、という話を切り出すことは俺にはできない。
大塚の内密な話に首を突っ込むような真似はしたくない。
「………」
話題はすっかり途切れて沈黙が続いてしまった。
「ど、どうだ……今日の調子は」
気まずくなり無理矢理話題をつくった。
「え、調子って言われても………正直なところあんたに押し付けられてちょっと機嫌悪い……って言ったら、どうする?」
「それは……その、ごめんなさいとしか……」
「あはははっ、冗談冗談。そんな落ち込まないでよ」
笑い飛ばしてはいるが、こちらからしたら本当に冗談なのか分からないんだよ……!
言ってる時の顔が冗談を言う時の顔じゃなかった。
しばらく根に持たれることを覚悟しておいた方がいいかもしれないな。
「ねえ、あんたが安藤と勝負するってなったときにさ、あいつあんたに何か言ってたでしょ、賭けだとか。あれ、なんて言ってたの?」
「あー……えっと」
「何、教えて」
勝負をすることになった原因の、安藤が俺に言ってきたこと。
「それは………いや、いくら大塚でもそれは言えない」
俺はあの時、安藤孝介という男の本心の一部を知ってしまったのだ。
それを勝負が決まる前に大塚に話すわけにはいかない。
「ごめんだけど、それは勝負の後にあいつから直接聞いてくれ」
「はぁ………分かった。どうせ私に関することなんでしょ?あいつのことだから碌な賭けじゃないんだろうし」
呆れた表情で聞き出すことを諦めた大塚は、水道の蛇口を捻って水を口に含むと何も言わずにこの場を去っていった。
彼女の向かう先には、まもなく始まろうとしている種目に出場するために待機している真城さんがいた。
そういえばその種目に夕紀も出ると言うことを思い出し、クラスは違えど俺も応援のために向かうことにした。
公園でギャルを拾う、幼馴染が家にいる はるのはるか @nchnngh
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