第33話 前夜祭

 全学年それぞれ四クラス構成のこの学校では、クラス対抗にて体育祭で競う。


 つまりは同じクラスの別学年である先輩方は味方というわけだ。


 一組に夕紀、三組に俺と大塚、そして四組に美玖と秋人がいる。


 種目は多数あり、個人種目と団体種目とで異なる。


 正直個人種目の方は全てを把握できていないが、団体種目は全員参加のものと選抜式の二つがある。


 俺が出場する団体種目は、全員参加である学年別クラス対抗リレーと、同じくクラスで競う大縄跳びがある。


 大縄跳びは一学年の団体種目とされており、学年によってやるものが異なる。


 二学年では騎馬合戦、三学年ではムカデ競争が実施されるらしい。


 選抜式では、全学年から各二人を選抜した6×100メートルのクラス対抗リレーがある。


 個人種目に関しては、安藤から指示された通り100メートル走と1500メートル走に出場する。


 この数日間、何気にやることが多くて大変ではあったが、それとなくまとめることができて一安心している。


 夕紀とパフェを食べに行った翌日から色々と計画を進めていた。


 当初考えていた安藤に対抗する策だが、夕紀の美味しそうにパフェを食べる姿を見てとあるアイデアを思いついていた。


 そのためには、クラスの体育祭実行委員の手が必要不可欠だった。


 しかし自分のクラスの体育祭実行委員がまさかあの相田さんだっとはびっくりだ。


 恐る恐る話しかけに行ったら、以前の日直の件はもう許されているようでホッとした。


 その後はなんとか相田さんと連絡先の交換に成功した。




 明日はいよいよ体育祭本番、それとあってか放課後の校内は慌ただしく賑わいを見せていた。


 俺はスマホに送られていたメッセージに目を通して、一つ提案のメッセージを送って閉じた。


 そしてそのまま一人で校舎を出て帰路についた。


 体育祭実行委員である美玖は、プログラムの最終打ち合わせをするということで夕方遅くまで帰らない。


 帰宅してものの30分ほどでインターホンが鳴った。


 問題なく返答し、中へ入るよう言うと、ゆっくりと玄関扉が開かれた。


「お、お邪魔します……」


「そう畏まらなくてもいいんじゃないか?前は泊まったんだし」


「あああれはっ、……あれとこれは別よ。と、とにかく……ちゃんと説明してもらうからね」


 鋭く俺を睨みつける大塚を招き入れ、リビングへ誘導した。


 大塚が目に見えて怒っているのは重々承知の上だ。


 放課後にメッセージが大塚から送られてきて、どういうことか詳しく話せと言うからここに来るよう言ったのだ。


 ただやることが理解できないのではなく、そうすることになった経緯を知りたいだけなのだろう。


 それもこれも俺の突発的に思いついたその場の案なのだが。




「まったく………こんなので本当に良いわけ?」


 説明を聞き終えたあとの大塚は、驚くこともせずただ頭を悩ませていた。


「いいんだよこれで。終わり方としては一番面白いと思わない?」


「はぁ……思わないわよバカ」


 呆れた目を向けながら罵倒されてしまった。


 これだけ美人なギャルから罵倒されることを望む男はいったい世界中にどれだけいることだろうか。


「おい、変なこと考えんな。気持ち悪い」


「はいすみません……」


 しかし大塚が本当に気にしていたのは俺たちの問題ではなく、クラス全体の意見だった。


「相田さんから言われた時はびっくりしたけど………よく考えたら、このことにクラスメイトたちは納得してるの?」


「いや、してないな。俺と相田さん、もう一人の体育祭実行委員である緒方と、そしてたった今知った大塚の四人だけだ」


 いろいろ考えた結果、クラスメイトに話せば早々に噂が経由して安藤に知られかねない。


 実行委員の二人は黙っていてくれると約束してくれたが、今思えばよく許してもらえたなと思う。


「えっ、うそでしょ……?」


「本当だな」


 大塚の言いたいことはわかる。


 それについても考えはちゃんとあるのだが、まぁ今は言わなくても良いだろう。


「大丈夫だって、ちゃんと考えてあるから」


「………ひとつ」


「え?」


「ひとつ、私のお願いを聞きなさい!それでチャラ。じゃないと絶対許さない」


「………分かったよ。一つだけなんでも言うことを聞く」


 これにて交渉成立となった。


 高校に入学してから初めての体育祭がまさか、こんな面倒なことになろうとは想像もしていなかった。


 ただ一年に一度の体育祭行事は、楽しんだ者勝ちだ。


 競い合うとしても、勝ち負けにこだわるよりはよりどちらが楽しんだかの方が重要に決まっている。


 勝利の先に必ずしも喜びが待っているとは限らない、とどこかの偉人が言ってそうだ。


「そうだ、確か前に隣人の両親から貰ったお土産の残りがまだあった」


 ご当地のお米を使ったクッキーだ。


「………一応頂くけど、これはお願いの一つとは無関係だからね」


「そんなつもりで出したわけじゃねぇよ………、ただの気持ちだよ、気持ち……」


 明日の喜びを祝って、米入りクッキーで前夜祭としよう。

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