第18話「ダンジョン・アタック」

「うはうはですわぁ」


 ネンが銭勘定の目をしている。


 なんだか、ネンは危ないなぁ。


 悪いことではないのだが……。


「そ、それじゃあ!」


 と、ネンは気合いの喝を入れる。


「本日もやあッていきましてよ!」


「ちょっと待て」


 ネンの動画の視聴回数が爆増している。


 それは事実だし広告収入も増えている。


 だが──その理由が大問題だろうな。


「ネンが、猫の飯4合の標的にされて燃やされてる。ネンを悪しようにボロクソ言って叩かせているんだ!」


「……どういう意味なのじゃ?」


「どういうことなのツナくん」


 アオとタテナシさんが同じように首を傾げてポカンとしているが可愛いな!


「アオ、タテナシ。学校で虐めるための噂とかは聞いたことがないか? そうだな、例えば、誰それちゃんが好きななんとかくんを、誰かが奪ったとかみたいなの」


「あるのじゃ!!」と、アオが食いつく。


「それだ」


「許せぬ……猫の飯4合!!」


「タテナシ。こういうことをされた経験はあるか? あいつおかしな体してるぜ気持ち悪い! 近づくなよ! 病気もちがくるぞー、みたいな」


「……身に覚えはあるよ」


「それを扇動している奴」


「猫の飯4合……船に括って沈めてやる」


 アオとタテナシが怒りに震える。


 いや、想像よりも火力が高いぞ?


 アオとタテナシの過去に何が……。


 だが、アオとタテナシの、僕が全然知らない一面を知ってしまった。もっともっと隅々まで大好きな人のことを好きになってしまうじゃないか。


 逸れてる場合か。


 ネンの話に戻る。


「猫の飯4合は訴えるとか言っているようじゃの。警察沙汰はちとまずいぞ。実際、ネンはボコボコにしておるのじゃからな」


「でもアオ、ネンはドールスライムだよ。ドールだけ変えちゃえばわかりっこない。完全犯罪の完成」


「それじゃタテナシ!」


 いえーい。


 ハイタッチ。


 じゃあないんだよ。


「民宿の住所なで晒されてる。例え、冤罪だろうと……冤罪じゃないが……猫の飯4合に扇動された熱心なファンは動くだろうな。猫の飯4合も、ネンを食い潰すきだ。絞れるだけ絞れるまで粘着する」


「ネット、恐ろしすぎじゃろ……」


「アオも気をつけてよ」


「うむ……」


 アオは電子商店街を作っているんだ。


 知っていてもおかしくはないのだが、アオは純粋無垢だなぁ。そういうところも好き。きっといっぱい頑張っているから、そのほか大勢がたまたま見えなかったのだな?


「ネンは不味いのでは……」


 そう、タテナシの言うとおりだ。


 ネンの今の状況は不味いのだな。


「全然、平気」


 と、ネンはあっけらからんした。


「あッ、ダンジョンの撮影一緒に来ます?」


 俺とアオとタテナシは目配せした。


 ネンの喋りも動きも、ぎこちない。


 ドールが引っ掛かるような動きだ。


「見学させてください!」



「動画撮影じゃあないんだが」


 ダンジョンの奥底。


 ダンジョン特有の環境である光壁でそれなりには目の聞く洞窟から害獣モンスターがあらわれる。畑を襲う超悪い奴らで、時々、田圃の鼠に襲われてたり、猪に轢かれるのを見たことがある。


 ぽかっ。


 ネンは凶暴無比な害獣モンスターを、蚊を潰すようにペシャンコしてしまった。一瞬で巨大化した、ドールから溢れ出したスライム部分が極大化してペシャンコ。


 1mくらいあるトカゲだ。


 肋骨を突き出して威嚇しながら、毒液を吐きつつ突撃してきたところを、ネンがぺしゃんこした。


 ネクラトカゲだっけ?


 ペシャンコにされた。


 地面の染みになってしまった。


 うん、そういうこともあるな。


「ネン『お嬢様』死んでます」


 俺が、細胞レベルで再生しないと生き返らなさそうなネクラトカゲだったものを見ながら言う。


「ネクラトカゲだろ? 町で駆除依頼が出てるんだ。首級を持ち込めば酒代になるのよ?」


「ネンお嬢様、残虐ファイトです」


 普段の動画、何を撮ってんだろ。


 俺は時々、ネンのダンジョン動画を見たことがあるが、自然系教育番組みたいな雰囲気だったぞ。


 海外番組かな?


 幼虫とか虫食うサバイバル系の。


「普通に殴っただけですわよ」


 ネン……ネンさんの腕を見る。


 ドールのビスクな手じゃない。


 ビスクを覆うように肥大化した、並みの人間では持てない、スライムでできたハンマーとでも言うべきものに変化していた。


 凶暴なダンジョンモンスターがはんべそをかいてダンジョン奥地へと逃げていく。きゃん言っていた。


 よく見たらネンの腕ハンマーなのだが……トゲトゲ付きなのだ。なんと凶悪なのだろうか。


「おう、酒代が走ってきたけん」


 ネンが拳を振るう。


 スライムがしなる。


 瞬間――ネクラトカゲが細切れだ。


「ネンさん、ネンさん」


 動物愛護のなんらかにに触れているのでは。ネクラトカゲがバラバラになってるんだが。まるで硝子細工の動物をハンマーで叩いたみたいな鋭利にバラバラになったぞ?


「なんじゃい。おかしなことはしとらんがな。ダンジョンは危険じゃけんの下がっときぃ」


 猫の飯4合ぽこぽこ事件は、不慮の事故ではばくおこるべくしておきたようば気がしてきたな。


 ネンは想像よりも野蛮かもしれない。


 知的な原始人というべきだろうか?


「引き返すならロープ、付いてくるな……覚悟決めんかい」と、ネンのありがたい言葉に、アオとタテナシを帰らせる。


「アオ、タテナシ、もしもがあったら救助呼んで。外で待っていてほしい。頼む」


 俺はネンについていった。


 ネンはダンジョン中層へと飛び込む。


 ダンジョンはより、もっと……深い。


 初めて見るダンジョンの撮影は、思っていたのと随分と違った。スライムアーマーというべきものを纏ったネンが、レベルの高いダンジョンで襲ってくるダンジョンモンスターを叩き伏せながら、奥へ、奥へと進む。


 撮影役のスライムドールと目があう。


 会釈された。


 会釈返した。


 全然気にしなかったが誰なんだろ?


 スライムドールの、ヤドカリのヤドの貝くらいなドールが無いスライムドール種族のこの撮影係の子は、全然人間の形をとってない。


 でもなんとなく雰囲気でわかる。


 言葉だけがコミュニケーションではない。


「ダンジョンて危険じゃないか?」


 と、俺はネンに訊きながら、ダンジョンの足場に苦労している撮影係に手を貸した。小さい体でビデオカメラを持ちながらは大変だろ、と、カメラごと抱っこする。


 撮影は撮影係にしかできないが、俺も肉体労働くらいしないと。役に立つ荷物でありたいものだな!


「ダンジョンが危険ならケイブダイビングや普通の洞窟探検だって危ないだろ。むしろ、完全に行き詰まって救助もされないまま死ぬ確率はダンジョンのが低いくらいじゃ」


「ふーん」


 確かに、と、俺は思った。


 閉所恐怖症が卒倒ものな空間で、エアがゼロになって窒息死とか、挟まってだとか、身動きとれずに、とかと比べればダンジョンがずっと広い。


 害獣モンスターはいるけど。


「そう言われれば、最悪、ダンジョンの中で食い繋いで生き延びることはできそうだしな。明るいし大きい食糧もいるわけで水まである」


「私は寧ろ高難易度の氷瀑や洞窟こそ入れない。ダンジョンだから気軽にアタックできてるんですよ」


「へぇー」


「ツナはダンジョン経験は?」


「本格的にはここが初めてだ」


「ルーキー向けだから良い判断しとる。ズブはダンジョンなめちょるけんの」


「そ、そうなんだ、ネン」


 俺は、アオとタテナシがダンジョンを気にしていたからというので、観光気分でやってきたことは墓まで持ち込むことを決めた。


 ネンはダンジョンの奥へと進む。


 気持ち、深度が増しているかな?


「下層まで一気にアタックしてすぐ引き返す。長居はできんけん、気張ってくれよツナ」


 ネンはズンズンとダンジョンを進む。


 ドールスライム種族だからか? 異様に体力があるように感じるが、スライムの体力てなんだ。何はともあれネンはまったく疲れを知らないかのような足取りの速さだ。


 ネンの言うとおり急いでいた。


 俺は次第に息を乱すがまだ無理な範囲じゃない。体力が無くなったら動けなくなる。気をつけないと……。


「さ、さあさあ! 先を急がないと!」


 と、ネンはさらに足が速くなる。


「目的地まではスピードが大事!」


 ネンは張り切って奥へと進む。


 ネンの足は羽根のような軽やかさ。


 凄いな、本当に、凄いんだネンは。


「?」


 澱んだダンジョンの空気。


 それに違和感があった?


 獣の臭い──。


「ネン、下がって!」


 ネンが振り返る。


 足を止めちゃダメだ!


 俺はネンの服を掴み引き寄せる。


 ネンが驚く顔を胸に抱き寄せる。


 ダンジョンの影から何かが飛ぶ。


 それは、ネンの背中を深々と、裂いた。

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異世界平凡お兄さんとモンスター娘ハーレムなラブラブダンジョン物語 RAMネコ @RAMneko1

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