真夏の夜、季節外れの藤を咲き落とすその列車は不可思議な存在を乗せてくる

『真夏・夜』企画 優秀作品

 少しずつ沼に嵌りこんでいくホラー感がたまらない作品。
 また濃厚で絡みつくような夢の描写と変わり映えのない日常とのギャップが物語に深みを持たせ、読者の目をラストへと力強く牽引しているように感じられた。

 心理学の巨匠ジークムント・フロイトによれば、夢とは無意識下の願望や感情を投影したものと言われる。
 だとすれば作中の主人公である奏多は自分にも分からないほど深い潜在意識下で彼女が訪れることを待ち侘びていたのかもしれない。あるいはやはり夢は現実とは異なった世界に通じていて、彼女自身の何らかの意思を持ってやってくるのか。
 どちらにしてもこの作品を読めば、誰しも夢というものの不可思議さと剣呑さを感じずにはいられなくなるだろう。

 そして願うかもしれない。
 どうか今宵の夢に見知らぬ人が現れませんように……と。