相棒
落ちこぼれ侍
相棒
シュパァァン!!
ジャンプスマッシュから打ち出されたシャトルはいい音を奏でながら、相手コートに吸い込まれていく。
先輩がなんとか返したシャトルをまたスマッシュで撃ち落とす。
バンッ!
変な音がした。シャトルはよろよろと力なく相手コートに落ちた。
ふと右手の先を見るとラケットのフレームが折れていた。頬を伝った汗がラケットのグリップに落ちる。
中学生のときからバドミントンを始めて、それからずっと使っていたものだった。他にも2本ラケットは持っているものの、このラケットはなんとく特別だった。手にしっくり来るし、重心もいい。僕がこれに慣れただけかもしれないけれど、相棒だった。そんなラケットが折れた。振っただけで。
地面にぶつけてしまったり、ラケット同士がぶつかったりして折れるのは何度も目にしているが、振っただけで折れるのは初めてだ。
この間ガットを張り替えたばかりだったのに……。これからもこいつで打っていくものばかりと思っていた。バドミントンのラケットは見た目からわかるように、繊細で脆い。だから、扱いには最新の注意を払っていたつもりだった。
今まで頑張ってきたものがすべて崩れ去った気がした。スマッシュの打ち方が、クリアー、ドロップ、ヘアピンの打ち方がわからなくなってしまう気さえした。
ただの道具。そう言われればそうだ。この世には同じデザインのものが幾千とあるはずだ。
でも……、でも……。こいつだけは……。
涙は出ない。当たり前だ。ただ、心にポッカリと穴が空いた。今までの人生16年間でこんな経験は初めてだ。悲しくはなかった。何か形容できない暗いドロドロとした感情が僕の胸になだれ込んでいた。
道具。たかが道具。されど、かけがえのない相棒。予備のラケットを握り、物の大切さを改めて、身にしみて感じた16。
相棒 落ちこぼれ侍 @OchikoboreZamurai
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