学生時代はイジメられ、25歳にしてコンビニバイトであり、人生が何も上手くいかないと感じている『小泉仁』。そんな彼の前に、突如として『死神』が現れる。「残り100日で寿命を迎える」と死神に宣告された仁は、治療困難な病にも冒されてしまい、嫌気が差していたこんな人生には別れを告げても良いとさえ思うようになる。だが同時期に、学生時代に唯一親しかった『楠花夏』と再会し――。
失った青春を取り戻すかのように、花夏と交流することで人生に希望を見出していく仁の姿が印象的な、社会人同士の恋愛を描いた作品です。しかしそこへ『死神』の要素が加わって『100日後に死ぬ』という時間制限が発生し、大事な花夏と永遠に離別してしまうのか、せっかく手に入れた幸せをすぐに失ってしまうのだろうかと、今後の展開が非常に気になって惹き付けられる内容でした。大人になって再会した二人の交流には初々しさと青春っぽさが溢れており、応援できる恋をしているだけに、尚更どんな結末を迎えるのか気になります。
ただ、文章的にやや読みにくかったりする部分があり、何よりも『死』や『大人の恋愛』をテーマにしている割には、文体や雰囲気、キャラの言動がちょっとライトすぎるのが気になりました。学生同士の青春恋愛ラブコメであれば大きな問題はなかったでしょうが、掲げているテーマと内容が釣り合っていない部分が多いと、どうしても目に付きます。
『大人の恋愛小説』というのは、登場人物の年齢設定を18歳や20歳以上にすれば成立する、というものではありません。情感溢れて読者の心に残るような文章や、社会人になって体験してきた人生の苦み・抱えているものの重みが滲み出る登場人物達の言動などなど、そうした『描写』によってこそ「大人な作品だなぁ」と感じるのだと思います。その辺の『大人な雰囲気の構築』が、全体的に足りていなかったです。
とはいえ花夏の可愛らしさは充分に魅力的であり、死神シュナイダーの過去や仁の結末など、続きが気になる要素が盛り沢山なのは事実です。どんなクライマックスを迎えるのか、期待と注目が止まらない作品だと思います。