八百万の対話人

 古くから、日本には八百万の神といわれるものが存在する。

 しかし、その実態を感じたことはほとんどの人間がないのではないだろうか。

 

 だが、昔からこの男は違った。



「なぁ、最近はスマホっていう新機種が流行り始めてるらしいけど……、まだ働くか?」



 目の前で語りかけてくる男に、古ぼけたガラケーは拗ねたように答える。



「私はもういらなくなったのですか?」



 対して男は、困ったように後ろ頭を掻いた。

 

 誤解させてしまったかな、と呟く男にガラケーは本当はわかっているんですよ、といたずらげに笑う。

 まぁ、そもそも携帯に口などないのだから、笑っているかどうかは雰囲気で察するしかないのだけれども。



「私は壊れても、この意思が消えて無くなるまでずっと、あなたのそばにいますよ」

「それはありがたいことで」



 男も、恥ずかしげに笑う。

 そういえば、少し前に旧型の扇風機を取り壊した時もそうだったな、とガラケーは思う。



(この人は、付喪神という存在を日常として受け入れてくれる)



 ムフフ、とガラケーが声に出して照れるように笑ったので男は怪訝そうな顔をしていたけども。



「ありがとうございます」



 そう小さく呟いた声は、これまた古い風鈴の音に消えていった。

 それから翌る日もガラケーは男にこういうのだ。



「何を黄昏ているのです? 次のお客様がいらっしゃいましたよ」



 男はそう言われて、気だるげに起き上がる。

 胸ポケットからガラケーはひょっこりと顔を出しながら最近、付喪神の間でしばしば聞くようになった男のあだ名を思い出してクスリ、と笑う。



(本人が聞いたら、照れるんでしょうね)



 

 ————付喪神の執行人さん。

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付喪神の執行人 おとも1895 @7080-8029

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