第四話 悪夢のサバイバル
渇いた銃声が漆黒の空間に鳴り響く。誰かが倒れたが誰かは分からない。チーム数は三チームと聞いている。五人ずつを相手にするサバイバルゲームだ。全員が消えたらゲームオーバーということだが、それは死を意味した。
シンは相手のレベルチェックをして、どう見ても勝てる相手ではないと悟る。予め与えられた銃弾は五発で、ひとり五発じゃない。ひとチームで五発だ。シンのリボルバー式拳銃の回転式弾倉には未使用の銃弾が一発あるだけだ。
シンは広い駐車場の自動車の間で闇夜を警戒しながら考えた。このままではジリ貧確定、活路を探すしか無いが・・・・・・。
駐車場の隣に民家はない。鬱蒼とした森の中に大きな池があった。普段なら月の反射で輝く水面も黒々としている。時より野良猫の鳴き声が聞こえていた。嵐の風の音が池の水分を弾き飛ばし、駐車場に雫が時より振り注いでいる。
嵐が近づく中、車の陰で息を潜めながら、シンは敵チームの背後に回り込んだ。レベル上の相手の首元を片手チョップで思い切り強打した。拳銃がアスファルトにぶつかって倒れた男の手から離れた。シンは気絶した男の銃を奪い男のジャケットを頭に被せて引き金を引いた。男が絶命して敵の残りは三人になった。シンの銃弾は残り一発だけだから二発足らない。
シンは相手の銃を奪う戦法で自分の銃弾を使わず凌いで来た。シンのチームはシンとケイの二人だけが残っている。ケイの拳銃に銃弾があるかは分からない。
「シン、どうする」
「・・・・・・」
シンはケイの質問に答えずに闇の中で潜めている女を捉えていた。ケイは最後の銃弾を女に発射した。弾丸は外れて女の喉を貫通する。赤いワンピースのショートヘアの女が倒れ伏して、その場に黒い液体が広がった。ケイは女に近寄り女の銃を奪いズボンの腰に入れた。残りはあと二人になってイーブンだ。
「シン、別チームは」
「そうなんだ、目の前に集中していて忘れていた」
シンとケイの背後に人影が動く。その時、シンたちが相手にしていた敵陣側から閃光と銃声が同時に走る。
「バーン、バーン」
シンが背後を振り返ると、森と駐車場の間の地面に人がうつ伏せに倒れていた。ポニーテールの茶髪の頭が見えているから、多分、女だ。
シンとケイに緊張が走り背筋が寒い。渇き切った喉が声を殺していた。時間がとても長く感じられ姿勢が維持できない。シンとケイは赤い車の側面に凭れ掛かり息を整える。
「シン、さっきの銃声、二発よね」
「多分」
「じゃあ、相討ちかしら・・・・・・。もしも、相討ちなら、敵の残りはひとりだわ」
「でも、もう一つチームが分からない」
「そうね、最後まで気を抜けないわ」
駐車場端の空間に閃光が走り抜け、駐車場の白い車のフロントガラスが割れる。車の中に隠れていた男が項垂れていた。
もうじき夜が明ける。東の闇が漆黒から紫色に変わり始めた。朝陽が駐車場をスポットライトのように浮かび上がらせている。
シンは賭けに出た。もう時間の猶予はない。最後の一発に集中した。シンの拳銃が火を吹き、男が倒れた。
シンは腰を落として素早く移動した。男の銃を奪いズボンの腰に捻り入れる。
駐車場に男女の遺体が点在していた。その中にはシンの仲間も含まれていた。三つ目のチームは仲間同士で同士討ちして朽ちている。
「シン終わりね」
ケイの銃口がシンの喉に当てられていた。シンもケイの心臓に銃口を当てながら言った。
「ケイもね」
二発の銃声が駐車場に響いたが、旅客機の轟音に掻き消された。
シンとケイが赤い車の中で絶命して、サバイバルゲームの勝者はすべて消えた。
⬜︎⬜︎⬜︎
「シンちゃん、起きてったら」
団地の一室にケイの甲高い声が響いていた。
「ケイ、生きてたの」
「なあに、寝惚けてんのよ。今日も富士見町くんだりまで行くのよ」
「サバイバルゲーム、どうなったの」
「ケイの一人勝ちよ。早く着替えて」
「ええーー ケイが優勝」
「私の朝方の夢よ」
「じゃあ、ケイも同じ夢の続きを見ていたの」
「シンちゃん、超深層意識じゃないかしら」
「なに、それ」
「意識の共有よ。超深層意識では、みんな繋がっているのよ」
「俺、分からないけど、面白いね」
「じゃ、着替えら富士見町くんだりに行くわよ」
「富士見町って」
「会社のある町よ」
シンは洗面台で顔を洗いながら、夢の続きを追いかけて呟く。
「リアルな夢は疲れるな」
スカートスーツのケイが怖い顔で背後に立っていた。
「シン、もう時間ないわよ! 早く着替えて」
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