第五話 夢の中の美咲と違い・・・・・・

 北アルプスの麓のゲレンデでケイとシンは毎年スキーを楽しんでいた。近くにはいくつもの人気スキー場がある。

 シンは予算の範囲内でスキーツアーに申し込み、中央線の特急電車で白馬駅を下車した。昔は夜行バスを利用していたがケイのリクエストで電車になった。


 五竜か八方尾根かと迷った挙句、予約が取れず白馬八方になった。どちらもスキー上級者に人気のゲレンデだ。白馬は日本列島のど真ん中にあるので関西方面からのスキー客が多い。


 シンはゲレンデの鞍部でケイの到着を待っている。


「シンちゃん、ごめん、ごめん、昔のお友達と偶然遭遇して

ーー 紹介するわ、こちら美咲」


 シンは、その名前に聞き覚えがあった。

「ケイ、美咲さんって、まさか」


 シンは美咲の顔を見たがスキー帽とゴーグルでよく見えない。


「美咲は、偶然、私たちと同じホテルに宿泊しているのよ」

「ケイ、じゃあ、ホテルのラウンジでランチにしよう」


「美咲、シンが言っているけどいい」

 美咲は小さな声でケイに了解を伝えた。



 ケイと美咲はペアリフトで上に向かった。シンは次のリフトでケイたちを追いかける。目の前のリフトには真っ赤な美咲のスキーウエアとケイの真っ白いスキーウエアがあった。シンはネイビー色のスキーウエアを着ている。


 ホテルラウンジに到着した三人はゲレンデが見える窓際の席を選んだ。


「初めまして美咲と申します」


 シンの耳元に聞き覚えのある声色が届く。まるで擬似体験のように・・・・・・。



   ⬜︎⬜︎⬜︎


「シン、遅れるわよ」

「ケイ、何言っているの」


「今日は、スキーツアーの二日目、八方から五竜に遠征よ」

「美咲さんは」


「シン、何言っているの、ここには私とシンだけよ」

「赤いスキーウエアの美咲さんってケイのお友達でしょう」


「シン、知らないわ、そんな人。

ーー ただ今朝の夢の中で聞いた覚えがあるわね」


「それって、美咲・・・・・・ 」

「そうなるわね」


「ケイ、美咲って、どんな人だった」

「黒髪のセミロングの女の子よ」


「じゃあ、いつかの夢と重なるかも」

「そうなるわね。でも瑣末なことよ」


 シンは背中を押されながらスキーを抱えて白馬駅に通じる道を歩く。氷点下の気温でシンの露出した頬がピリピリしていた。ケイの口元から白い息が漏れている。


「ケイ、五竜に行ってどうするの」

「八方まで来たんだから五竜に寄らないと勿体ないわ」


「それだけなの」

「あそこの急斜面は難所よ。リベンジしたいだけ」


「黒菱や兎平のコブ斜面だって難所じゃないかな」

「ちょっと違うわ狭くて急なのよ。

ーー 逃げ場が無い感じがスリルなのね」


「ケイのこだわりってーー まさかのスキーオタク」

「わたしはスキーオタクじゃないわよ。

ーー 夢の中の美咲と違い・・・・・・ 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編連載】ケイとシン 三日月未来 @Hikari77

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画