【GL】幼馴染が生涯に一度のはずの力を使って蘇らせたのは、一般人の私でした

@fujinobu

第1話

 フラン・シュタイン。

 私の幼馴染である彼女は、その姓が示す通り、あのシュタイン家の一員だった。

 表向きには、貴族の一つにすぎないけれど、実質的には王をも凌ぐ権力をもつという、シュタイン家。


 そこまでの力を持つことになったのは、世界でその一族だけが持つ、不思議な能力のおかげだ。

 

『生涯でたった一人だけ、死人をしもべとして召喚することができる』


 それが、かの家の血を受け継ぐ者にだけ許された特別な力。


 過去の、百戦百勝の天才軍師や、龍さえも切ったといわれる大剣豪に、大魔術師など……、それらを完全に掌握できるのだから、その繁栄も当然だろう。

 

 その力を使えるようになるのは、14を過ぎてから。

 幼いフランが将来呼び出すのは、賢王か、はたまた、英雄か……。

 そう、目されていたのだけれど。

 彼女が、生涯で唯一の力を使って召喚したのは。

 ……なんの変哲もない、一般人である私だった。






 「……久し振りね、アリーシャ」


死んだはずの私が、次に目を覚ますと、フランが私に抱きついていた。

 記憶よりも成長しているフランは、泣きそうな顔で私を見ている。


 「……ここは…………」


もやがかかっているように、頭がぼーっとする。


 状況を把握しようと、周りを見回す。


 かなり広い部屋だ。

 天蓋付きのベッドに、椅子が二つ置いてある大きなテーブル。タンスに、本棚まである。

 貴族の女の子の部屋、という感じの豪華な部屋だ。

 ……窓がないのが気になるけれど。


 「シュタイン家の屋敷よ、アリーシャ」

 

 フランが私の疑問に答えた。

 

 そうか、ここはシュタイン家の……だから……。


 ハッ、とそこで私の意識がはっきりとする。


 「シュ、シュタイン家!?わ、私、ここにいると……、いや、というか私死んだんじゃ……」

 

  フランが無言で手鏡を私に向ける。

 そこに映る私の右目には、魔法文字が浮かんでいる。

 それはフランによって、生き返ったことを示す証だった。

 

 つまり、フランは、一生に一度の力を、私に使ったということに……。


 私の顔が青くなる。


 「フラン、こ、こんなことして……。シュタイン家に知られたら大変なことに……」


 『シュタイン家の人間は、当然、その力を一族の繁栄のために使わなくてはならない』

 ーー昔、そんな言葉を聞いた。


 一族の面汚しとして、処刑されるならまだマシだ。もしかしたら、死ぬよりも、もっと辛い目に遭うかもしれない。


 心配する私に、けれど、フランはすました顔で言った。


 「安心して、アリーシャ。シュタイン家の人間は私以外、もう殆ど死んだから」


死んだ……?

 

 あの、栄華を誇っていた、シュタイン家が……?


 どういうことか全く飲み込めずにいると、フランが突然、後ろを振り返った。

  

 何があるのか、と私もそちらを見るが、特別なものは見えなかった。


 フランが私から離れる。


 「……ごめんなさい、少し用事ができたみたい。行かなくちゃ」

 

 「い、行くってどこに?私も……」


 「ダメよ。外は少し危ないの。だから、ここにいてね」


 危ないって……。

 シュタイン家が滅びていることといい、外はいま、どうなっているのだろう?


 ……この部屋に窓がないのは、それを私に見せないため?


 私の不安が伝わったのか、フランは安心させるように笑って言った。


 「大丈夫だから、アリーシャ。全部うまくいってるの。もう少しで、約束した世界になる」


意味深なセリフに困惑する私を置いて、フランが部屋を出ていく。


 「またね。愛してるわ、アリーシャ」


 パタン、と静かに扉が閉じた。

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