第2話 メンヘラ部?


「暇ね……。」


 悪の秘密結社部の部室でそんな声が発された。あまり大きくない部室には、よく教室にあるような椅子と机が4セットあった。その中の椅子を3つ並べ、そこに寝転んでいるのが声の主である、小柄で黒髪の女生徒、黒崎伊奈だった。


「暇ですね……」


 そこに覇気のない声が返される。そんな声で返したのは、黒髪で中性的な顔立ちの男子生徒、白藤凛人だった。こちらは椅子に座ってはいるが、やはりダルそうに机に突っ伏していた。


「凛人……暇なんだから、依頼が来てないか確認して来なさいよ……」


「部長……10分前に見てきたばっかりですよ……」


「そう?じゃあ、明智さんの所行ってきて様子見てきて。もしかしたらまだストーカー2人がいるかもしれないしね。水曜日は陸上部にいるらしいから、第二グラウンドに行くといいわ。」


「第二グラウンドっすね。その帰りに依頼無いか見てきますよ。」


 凛人がぐーっと軽く体を伸ばし、立ち上がりながら答える。


「そうね、よろしく。私は寝とくわ。」


 そう言うと一瞬で寝息を立て始める伊奈。椅子の上で寝ると起きた時に体がかなり痛くなりそうだが、そんな事は気にしていない様子だった。


「早い……」


 そんな伊奈を見て一言つぶやく。寝るくらいなら自分で行けよ、と続いて出そうになったがなんとか黙り、部室にかけられていたジャージを伊奈にかけると、凛人は部室を出て行った。


 校舎部活棟を出て、第一グラウンドの側を通り、第二グラウンドの方へ歩いていく凛人。第一グラウンドでは日が照りつける中、野球部、サッカー部等、広い場所が必要な球技系の部活動が練習していた。第一グラウンドより少し小さい第二グラウンドでは、陸上部等のあまり場所を使わない部活や一部の文化部がグラウンドを使用していた。そんな第二グラウンドの端では女子陸上部がちょうど休憩をとっていて、その中に明智はいた。


「明智さーん。」


 凛人が声をかけながら駆け寄ると、


「あっ、凛人さん。昨日はありがとうございました!」


「その事なんですけど、一応大丈夫かなと思って、様子を見にきたんです。どうですか?今の所あの2人から何かされたりとかは……?」


「今も周りにいないので大丈夫だと思いますけど、問題は帰宅中なので……まだ1週間くらいはあそこにいる友達に家まで着いてきて貰うように頼んでます。」


 休憩している陸上部の1人を指差して明智が言う。


「そうですね、それがいいです。昨日しっかり反省させたので、もう来ないとは思いますけど、ちょっとでも何かあれば連絡してくださいね。すぐ駆けつけますから。」


「ありがとうございます。でも、昨日の動きを止めたボール?みたいなの……あれ、何だったんですか?」


「あー、あれですか……詳しくは俺も分からないんですよね。一応誰にも秘密って事でお願いします。」


 目を逸らして困ったように凛人が答える。


「そうですか……わかりました。」


「えっと、じゃあ問題無さそうなので行きますね。何かあったら連絡ください。」


「はい。ありがとうございます。」






 凛人はグラウンドから校舎に来ていた。校舎内は空調が効いていて涼しく、凛人は一息ついた。靴箱に靴を入れ上履きに履き替えると、階段横にある掲示板スペースへ歩いていく。そこには会議用の茶色い長テーブルが複数並んでいて、その机上は依頼箱や掲示物等様々な物で乱雑に飾られていた。


「えーっと……これだ。」


 乱雑に置かれた物体群の中から、30cm四方の赤いプラスチック製の【悪の秘密結社部への依頼はこちらへ!】と書かれた箱を取り出す。2cm程の切れ込みが入っており、手紙等が入るようになっていた。下部の取り出し口には小さい南京錠がついており、それを開錠して中を見る。持った時から分かっていたが、やはり空だった。


「まあ30分で来るわけ無いよなぁ……今週はもうちょい稼ぎたいけど……」


 再び南京錠をかけて元の場所に戻す。そして階段の側にある渡り廊下へと凛人は歩いて行った。


 渡り廊下から校舎部活棟へ渡ると、そこにも先ほどのような様々な物で彩られた長テーブルが置いてあった。その中からまた先ほどと同じような箱を取り出す。すると、


「お、なんか入ってる。」


 そう言って南京錠を開け、取り出し口を開けるとノートを折った紙が2枚入っていて、依頼内容が書かれていた。





「えーと、好きな人に告白したいのですが、上手い方法が見つかりませんでした。なのでここで伝えます。黒崎伊奈さん、僕と付き合ってください!ついでにフェチ部に入ってください!2年C組、江口 凪。だ、そうです。」


「おう、捨てちまえそんな紙!」


 椅子に座った伊奈が半分キレながら、凛人に言う。部室に戻った凛人は、依頼箱に入った手紙の内容を伊奈に読み上げていた。凛人は言われた通り手紙をゴミ箱に突っ込み、2枚目の手紙をとると、


「このまま次も読みますね。あ、こっちはしっかりした依頼ですよ。悪の秘密結社部さん、メンヘラ部部長の……えーっと如月、し、詩玖?と申します。メンヘラ部ってなんでしょうね。部長は知ってます?」


「わかんないわ。この学校部活100個くらいあって多すぎるのよ。」

 

「何する部活なんですかね。えーっと、メンヘラ部はCランクで、部室は他の3つの部活と一緒に使用しているのですが、その部活がこっちの範囲に物を置いたり、騒音等で困っています。こっちの注意なんて聞くわけ無く……そうだね……私が悪いんだよね……ごめんね注意なんてして邪魔して……で、区切られてここから赤い字で書いてますね。インク切れたのかな?」


「凛人……あんたそれもしかして……」


 手紙の下の方の赤黒い滲みを見て、何かに気づいた伊奈が声を出すが、


「ん?どうしました?ちょっと滲んでるけどちゃんと読めますよ?」


「……いいわ、続けて。」


「はーい。続けますね。えー、場所の事などで部員から不満も出ており、解決したいと思い、今回依頼する事にしました。手段は問いませんので事態の解決に協力お願いします。1年D組如月誌玖。で、部室はC-9らしいです。後の数字は携帯番号かな?以上ですね。」


「あー、凛人。とりあえずその手紙はビニールに入れて おきなさい。一応、何かしらの証拠物になるかもしれないから。」


「わかりました?」


 よく分からず言われた通りビニール袋に手紙を入れながら、伊奈に聞く。


「確か、部活のランク毎に色々あるんでしたっけ?俺この部活しか入った事無いのでよくわからないんですけど。」


「知らないの?まあ無理やりうちに入れたから当たり前か。じゃ簡単に説明するわよ。」


「お願いしまーす!」


 そう言って凛人が椅子に座って待機する。


「まず部活毎にAからCランクまであって、それぞれランク毎に部室とか部費とかの待遇が違うのよ。Cランクだと部費は無し、部室は4つの部活で共用、もしくは普通の教室を適当に振り分けられる感じね。それでも足りなければ、校舎外で仕切りも屋根も無くこの辺って感じで振り分けられるわ。去年はいくつかそんな部活もあったわね。」


「部室無し……屋外は今の時期とかキツそうっすね……」


 と、窓の外を見て凛人が言う。そこには暑い夏の日差しが照っていた。


「まあ、去年は多すぎたのよ。で、Bランクだと、部費は無いけど、それぞれの部室が当たるわ。ちなみにうちがBランクよ。」


「うちってBランクなんですね。じゃあAランクは部室と部費があるって感じですか?」


「ええ、そうよ。加えて部室がかなり広くなるわ。ちなみに、生徒会とかそういう学校として必要な部活はランクとか関係ないわよ。」


「なるほど……ちなみにランクってどう決まるんですか?」


「決まる基準は色々あるけど……また今度ね。とりあえずメンヘラ部とやらに話を聞きにいくわよ。」


 腕時計を見て立ち上がり伊奈が言う。時計は5時を指していた。


「はい!」


 凛人も立ち上がって元気よく答える。この後メンヘラ部で大変な目に遭うとも知らずに。

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悪の秘密結社部の日常 イザサク @sakuiza

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