第38話

 シャーリーは部屋の中央にぽつんと立っていた。

 短剣が前に転がっている。

「おい……」

 くまたにが後ろから話しかけても、なにも応えなかった。

 シャーリーは振り返って、くまたにに近寄った。

 そして、抱きついた。

「ありがとう、あなたのおかげで旦那様を救えました」

「お、おう」

「さよなら」

「え?」

 離れたシャーリーの顔を見ると花が咲いたような笑顔だった。

 シャーリーは部屋を出る。

「どこ行くんだよ」

 シャーリーはなにも応えない。

 ついて行くと書斎についた。

 シャーリーは机の引き出しから綺麗な彫刻の入った木の箱を取りだして開けると、オルゴールの音が鳴った。

 中に入っていた水晶を手に持つ。

「なんなんだ、それ」

 シャーリーは机の上に上がり、水晶を落とした。

 床にぶつかる硬い音。

 ころころと転がり、止る。

 数瞬して、クラック。

 それから割れた。

 弾けて銀河がワッと広り。

 書斎に星が散ばり、そこには宇宙。

 渦巻く星が煌めいて、宝石のように。

 収束。

 空白。

 元の部屋に戻っていた。

 ゴトン

 水晶は綺麗に二つになっていた。上弦の月と下限の月のように二つになって、ゆらゆらと揺れていた。

 くまたにが目を向けると、人形はぐったりと床に倒れていた。

 歩みよって人形を仰向けにして、顔にかかっていた綺麗な髪をどけてやった。

 虹色の瞳にあった生命力は消え失せている。

 机に持たせかけた。

「幸せだったか?」

 人形はなにも応えない。

「だよな」

 くまたにはグーと伸びながら後ろに倒れる。

「信也来るまで寝よ」

 くまたにはいびきをかいて寝始めた。

 人形はほんの少しだけ頷いていた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法中年 老人とビスクドール 宮上 想史 @miyauesouzi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る