最初にこのお話に出会ったとき、幼い魔法少女のお話だと思いました。
んんーあんまり好みじゃないかも。私、シリアスな成長ものが好きなんだよねー。
主人公のソキという耳慣れない音の名前や、幼女のような口調もなんだかなー………そっと閉じ。
いや、そこで閉じなかったら良かった、もっと早く読めばよかった!
ダメ、食わず嫌い。
その後も何度か、何かに導かれるように、このお話に出会い、そっと閉じを繰り返し。
そして何度目だったでしょうか。
こう何度も「あなたの好みだと思う」と紹介されては、やっぱり気になるよねと、はじめてちゃんと読み進めました………結果、どっぷりハマりました。
幼いと思いこんでいた魔法少女は、実は(私好みの)結構シリアスな設定を背負い、苦しい恋をしている、13歳の女の子でした。
一見ふわふわキャピキャピした会話の裏には、どうしようもないやるせなさや、闇を秘めた謎が散りばめられていました。
アホっぽい(失礼)モブに見せかけた、その他大勢の登場人物は、モブなんかじゃなく、一人ひとりに、魔術師として苦しみ足掻いて生きてきた歴史がちゃん書かれてありました(だから必然的に長編に)。
ソキの旅日記は、王様がいて、魔術師、魔法使いのいる世界のお話です。
ファンタジーでは定番。
でもこのお話の世界は少しだけひねってあります。
明るい世界に見えて、実は過去の大戦のせいで、壊れかけの世界。
魔術師は自ら望んでなるものではなく、突然変異として現れる。
それも普通の人生を歩んでいた人が、年齢関係なくある日突然。
ひとたび魔術師だとわかれば、人々から忌避され、それまで築いてきた何もかもを捨て去らねばならない。
それが魔術師になるということ(注:私の独断の解釈です)
そしてもうひとつ、たくさんファンタジーを読んできた(と自負している)私が、いままで出会ったことのなかった設定が、砂漠の国の『花嫁』『花婿』という制度。
大切に大切に育てられ、希少な宝石のように美しく、淡雪のようにもろい、砂漠の宝石と呼ばれ、莫大な金品と引き換えに嫁いでいく、貴重な輸出品。
え、それって単なる人身売買じゃ…とは思わせないところが作者の二条空也さんの筆力なんだと思います。
もう一つ言えば、これはループものです。
実は何度も滅んでいる世界の、やりなおしの最終周回。
滅びのきっかけはソキ。
ソキ、という名前が耳に馴染む頃には、このお話の虜になっていることでしょう。
(私はそうでした)
ちなみに、掲載されてる最後まで読んだあとは、ぜひ最初から読み直してください。
あ~~(こんなとこにあの伏線が)とか、うぅッ(これはそういう意味だったのか)となって、面白さ倍増です。
このレビューを読んでくださった方、ぜひぜひ私と一緒に水晶で殴られてください。
(水晶で殴るの意味は、読めば実感すると思います)
いや、無理だよ(断言)
数歩歩けば転んでしまう、馬車も無理、そんな「自力で歩けるように」育てられていない砂漠の花嫁・ソキ。
魔術師の卵として旅に出ることになったけど――いや、無理! 人間には限界があるんだよ!? と何度叫びたくなったことか!
けれどもソキちゃんは本当にガッツと根性で、そしていろんな人たちに助けられて旅をします。
夏至の日までに学園にたどりつかなければならない――ソキちゃんは無事たどりつけるのか? ソキちゃんの言う『会いたい人』って? そわそわどきどきしながら旅の日記をめくりましょう。
人々を魅了してやまないソキちゃんに、読み進めれば読み進めるほどきっと、読者も虜にされているんです。
このお話は、そういう魔法がかかっているんですよ。
気づけば、引き込まれていました。どんなに目の前に立ちはだかる壁が大きくても、自分の力で、あるいは周りの人の力を借りて、必ず乗り越えてゆく主人公の女の子。そして、少女を支え導く案内妖精。
二人の旅日記は、あたかも彼らと一緒に自分も旅しているかのような錯覚を引き起こします。周りの人目線、妖精目線、読者目線で、ただひたすらに前を向いて進んでいく少女を応援したくなります。
また、そんな風に物語へぐっと惹き込んでくれるのは、ひとえに二条さんの情景描写、心理描写の美しさです。ある時はさらりと、ある時はまっすぐに、ある時は細やかに。それでいてとても読みやすい。じっくり味わいたいのに、先が気になって仕方がない。そんな葛藤と何度も戦いながら、最後まで読み進めました。
何度も読みたくなる。そんな作品です。
ついつい、いっきに最後まで読んでしまいました。
すっかり物語と、そして主人公をはじめとする登場人物たちの魅力に引き込まれてしまい、気が付いたら主人公の旅は終わっていました。
でも、もっともっと続きをみたい。学園で、新入生たちで、どんな物語が紡がれていくのか見てみたいです。
この小説の魅力を一つ一つ書いていったらキリがなくなってしまいそうですが。
まず特筆すべきは、情景描写の巧みさ。
それは二条さんの小説全般に言える魅力かと思いますが、この小説ではファンタジー世界の世界観という現実には見ることができない情景が、あたかも目の前で映像を見せられているかのように鮮やかに脳裏に浮かんだ瞬間を何度も経験しました。視覚だけでなく、聴覚や嗅覚、触覚までも追体験させてしまう文章力は、羨ましいを通り過ぎて憧れてしまいます。
物語も、とてもよく練りこまれていて、引き込まれました。主人公の、旅には非常に厄介だと思われる体力も、性格も、執着も、それぞれにちゃんと理由があることが追々わかってきて、ああ前半のあの行動には、こういう理由があったのか…と明らかになっていくのが面白かったです。
登場人物たちも魅力的で、妖精と主人公の関係が少しずつ少しずつ変わっていくのも心地よくて。
この後に続くお話も、楽しみです。
魔術師の卵として選ばれた主人公が、迎えに来た妖精とともに魔法学園に旅をする物語です。
と一言で書いてしまえば、単なる旅日記か、と思われるでしょうが、違います。
まず主人公が、それまでの境遇により、これでもかというほど虚弱です。
ちょっと急いで歩けば必ず転び、馬車に乗れば体調を崩して熱を出してしまいます。
こんな、こんな虚弱で、大丈夫なの?
あまりにもハラハラして、思わずマウスを操作する手にぐっと力がこもってしまうほどです。
そして、主人公を取り巻く様々な思惑が、旅路に花を添えます。
ある者は親密に、ある者は悪意を持って。
そんな中、案内妖精との絆が深まって行くさまは、不安な旅路に安堵を与えてくれます。
読み進めていくほどに、ただの旅日記ではない、大きな物語に引き込まれていくことでしょう。
歩くのが苦手で、すぐに転ぶ。
乗り物が苦手で、すぐに吐いたり熱が出たり。
そもそも、体調を崩しやすい弱い体である。
旅……? できるの……?
思わず首をひねりたくなるほど儚い主人公ソキちゃんが、案内妖精に導かれながらガッツと根性で4つの国境を超えていく物語です。
旅の相方であるツンギレ妖精ちゃんや、面白おかしくて親切な先輩魔術師さんたちなど、脇役もキャラが濃くて素敵な人ばかり!
反面、主人公を取り巻く悪意はどろりと粘つく厭らしさがあり、そのギャップで読者を揺さぶってきます。
そんなお話は、キラキラと色づく星のような、サラサラと流れる清水のような、美しい文体で綴られています。
描写の妙も、この作品の魅力のひとつだと思います。