第48話

「はぁ...はぁ....はぁ....」


足が痛くて重い....ジャンプボールもちゃんと飛べなかった....いつもよりミスが多いのも分かってる....

ここまで隠し通してきたんだ、こんな所で止まれない。

先輩たちのバスケをここで終わらせる訳にはいかない。


「黒!メンバーチェンジです!」


「佐倉!」


.....え?


「私....?」


交代?なんで?


「ちょっと...待ってくださいよ」


「葵、交代だ。監督の指示に従え」


「何言ってるんですか!?」


「足だろ?」


気付かれてた....なんで....??


「.....いつから痛めてたのかは分からないが....ずっと我慢してたんだろ?もう休め」


「そんな...!!」


ここで居なくなったら...!!


「悔しいのは分かる、だがお前には来年がある。勝ってでも潰れていいような人間じゃないんだよ」


「.....そんなこと」


「だから早く下がれ....試合の進行を妨げるな」


「っ!!」


くそっ......


くそ!!!!


「あとは任せて」


「はい....」


さっきまで何ともなかったのに、痛みが足全体に広がっていく。

こんなんじゃ満足に動けない.....なんで、こんな所で。

地区大会でもそうだった、私は肝心なところで先輩たちの足を引っ張ってばかりだ。


━━━━━「随分キツイこと言ったな、冬雪らしくない」


「.....そうでもしないと、いつまでもコートに居続けるだろうからな」


「とはいえ、まさか怪我してたとはね〜....」


「それだけ一緒に戦いたかったんだろ....だがベンチに居たって私たちは一緒なのにな....だが、ここまで来ておいて葵が居ないからボロ負けしましたじゃ話にならない.....分かってるな?」


「でた、キャプテンの負けず嫌い」


「まぁ、葵だけのチームなんて思われてるのも癪だしな」


「葵を頂点に連れていくぞ」


「おう!!!」━━━━━


頼む.....先輩たち....


「顔を上げろ、佐倉」


監督が私に声をかけてくる。

ダメだ、見れない。


「ちゃんと見ろ」


「.....すみません....」


「謝らなくていい....コートを見ろ」


言われて、ゆっくりと顔を上げる。

天井から無数の電気が照らされるコート。

顔を下げていたからか、かなり眩しく感じる。

歓声が鳴り止まない。


滝谷高校 31-34 清明高校


「よし!!このまま突き放すぞ!!」


「おう!!!」


キャプテンの大きな声掛けに、周りのメンバーも大きな声で応える。


「凄いだろ?」


先輩たちが凄いのは、今までの練習、練習試合で分かっていたけれど、相手は紛れもない全国大会でトップチーム。

今の得点も、選手たちが流動的に動き回って緻密にデザインされたプレーで生まれた得点。


「....でもな、最初はあいつらは史上最弱の世代なんて言われていたんだぞ?」


「え?....」


「お前のように背が高い選手が居るわけではないし、体も強くなかったからな。でもあいつらは.....特に真田は諦めなかった。あいつはよく言っていたよ」


━━━━━「確かに私たちは背は高くないし、1番強いチームにはなれないかもしれない。でも試合は勝った方が強いんだ。私たちは勝てるチームを目指そう」━━━━━


「勝てるチームになるためには、まずはバスケを知り尽くして賢い集団にならなければいけない....なんて言ってな」


キャプテンらしいといえば、らしいけど....

なんというか


「めちゃくちゃですね.....」


「確かにな、でも...だから俺は真田をキャプテンに任命したんだ」


「だから、せめて一緒にコートで戦っていたお前は、最後まで見てやってくれ」


「......はい」


そこから、私は目を逸らさなかった。

逸らせなかった。

先輩たちはどれだけ疲れていても顔には出さない、常に動き回って声をかけ合う。

試合が終わるその瞬間まで.....


ピピーーーーー!!!


大きな笛の音と共に、終わりを迎えた。


滝谷高校 89-72 清明高校


負けた.....

最後の最後で、私は役に立てなかった.....

コートにも立てていない。

気づいたら私の目から涙がとめどなく流れてきた。

ロッカールームでも、先輩たちの泣く声が止まることは無かった。


「ほんとによく戦った.....お前たちは俺の誇りだ」


監督の言葉で、また先輩たちは泣き出す。

その姿を見て、やるせなくて、どう声をかけていいのか分からなかった。

でも私の口は勝手に動いた。


「.....すみません....」


「葵....」


「すみませんでした.....最後まで.....一緒に戦えなくて.....いつもいつも肝心な時に力になれなくて」


謝ることしか出来ない私の肩に、真田さんが手を置く。


「よせ.....葵」


涙が止まらない、先輩たちもまだ泣いていて目の周りが赤くなっている。


「むしろ葵には感謝し足りないんだ.....史上最弱なんて言われ続けた私たちの劣等感を、葵がいつだって吹き飛ばしてくれた。だからここまでやって来れたんだ.....葵と一緒に戦えたことは一生の自慢だ。ありがとう...」


「キャプテン......」


「私はもうキャプテンではない.....次のキャプテンは葵、お前だ。来年の葵達ならきっとやれる、頑張れよ」


「......はい!!」


さっき止まりかけていた涙がまた溢れ出てきた。

終わったんだと、より実感してしまった。


「他の3年生も.....これで最後だな」


私に背を向けて、今度は他の先輩たちに声を掛ける。


「.....色々あった3年間だったな。史上最弱なんて言われて....見返してやろうとずっと一緒に頑張ってくれた.....」


今まで涙なんて見せなかった、キャプテンの顔に涙が見えた。

声も震え出す。


「ほんとうなら.....もっと一緒に戦っていたかった.....悔しいよ。でも....楽しい3年間だった....ありがとう」


その瞬間、また先輩たちも泣き出しながら抱き合った。

どんなに泣いても、これで終わり。

でも、幸せな時間だった。


全国高校女子バスケットボール大会。

清明高校 準々決勝敗退。




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それでも君の隣がいい くらげ @kurage____

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