第33話「バカには公権力が一番?」
「ふっふっふっ……鋼志郎くん、どうやら私達の奇策が効いたようね」
「え~っと、雪さん? 本気っすか?」
俺は目の前の岩古雪つまり月の母親を見て色んな意味で驚愕している。いや訂正しよう……呆れていた。
「もちろんよ、あなた達に遠野大介は渡さない!!」
そうして『風林火山』と書かれたハチマキを巻いて息巻く後輩の母親は薙刀を構えていて部下四名は病院の霊安室前で座り込みをしていた。
「こうちゃん!! まずいよ!!」
いやマズいのはコイツらの頭だと思うのだが? と冷静にツッコミを入れようとしたら隣の冬美さんも口を開いた。
「そうね皐雪……さすがは岩古家の次期総代といった所かしら」
冬美さんもどうした? 何か急に二人も危なく見えて来たぞ。
「あら、冬美お久しぶりね」
「ええ……そうね、それより夫を返して頂けません?」
ちなみに冬美さんと雪さん二人の関係は、はとこ同士だと皐雪に聞いた。冬美さんは父方に岩古の血が入っているはずだ。
「残念ながらできないわ!! こちらの要求を通すまでは!!」
「こうちゃん!! あの陣形……『
皐雪が珍しく真面目な顔をして、やはり頭のおかしい単語を言い放った……病院の霊安室の前でだ。
◇
「なんだそれ?」
「あのね、巫女だった時に習ったんだけど不退転の決意を持って岩神様の力を借りて鉄壁の護りを得る構え……なんだよ!!」
「お、おう……それでリオン? 何でどかさないんだ?」
頭が痛くなって来たから皐雪を無視してリオンに話を振った。病院側に言って強制退去させるべきだろ。
「はぁ、それが病院側も対応に苦慮しているそうで、甲斐さん詳細の説明を……」
「前にも、こういう座り込みされたみたいで前院長の時は折れちゃって好き放題させたらしいんだ……だから今回も実害が無いから上は放置してるらしい」
つまりこれはクレーマーが暴れているだけだ。皐雪と冬美さんは大真面目に「凄い陣形だ」とか言ってるが座り込みしてる連中と大差無い。
「どかそうにも男が触っただけでセクハラとか、わいせつ罪などと言われる可能性も高く、竹之内先生に怒られますし」
「それに岩古家の人の薙刀、あれ本物よ刃が入ってる」
確かにあの美人弁護士ならキレる。それに真莉愛さんの言う通り薙刀は本物だと思う。恐らくは岩古家の柊のババアの使っている薙刀だ。となると指示は誰が出したか想像がつく。
「ふっ、手が出せないようね……山田 鋼志郎!!」
「はい、普通に俺は無理ですね」
こんな連中相手にまともにやり合うのは不可能だ。なので俺はスマホをスワイプし、とある番号に連絡した。
「それを使い今度は何を呼ぶのかしら? 私達の不退転の覚悟を阻む事など誰にも出来はしないわ!!」
「「「「応っ!!」」」」
なんか部下の人も盛り上がっているが俺達との温度差が酷いからサクッと片付ける事にした。時間が詰まってるんだよ……遊んでる暇は無いんだ。
「そうです……はい、はい、変な恰好で居座ってて……そうですね凶器も……取り合えず来てもらって、はい、場所? ここは岩下総合病院です」
一通り伝えると最後に「お待ちしてま~す」と言って通話を切った。
「社長? どこに連絡を?」
「ああ、そんなのはもちろん……市民の味方に決まってるだろ?」
そして数分後、病院前が騒がしくなり、やって来たのはパトカーだった。二台も来てくれて警官が五人も来ていた。相手が五人と通報したからだろう。
「なっ!? 警察……ふっ、愚かね警察には既に手を回しているのよ!!」
「ええ知ってますよ……でも関係無いですから」
それは知っている。だから普通に通報した……岩古の名を出さず怪しい集団が病院の霊安室を占拠していると言っただけだ。そして刃の入った薙刀まで持ち出し人に向けていた岩古雪とその一党がどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
「くっ、放しなさい!! おのれ~!! 私達に何かあったら岩神様のお怒りが!!」
「あ~、はいはい詳しくは交番で聞きますんで全員連行します。暴れるなら公務執行妨害と銃刀法違反ですよ? では、これで……ほら暴れないで、全員行くよ~」
こうして岩古 雪とその部下達はパトカーに乗せられ連行された。この一件を揉み消す事は出来るだろうし彼女らは後で解放されるだろう。だが大事なのは今この場から排除することだ。
◇
「リオンさ……このくらい対応してくんね?」
「すいません社長、岩古家の名を出さなければ警察を無力化できるなんて」
「お前そういうとこ頭固いからな……ま、いいや片付いたぞ?」
振り返ると皐雪と冬美さんが俺を今までとは明らかに違う畏敬の念を抱いたような瞳で見つめていた。
「凄いよ!! こうちゃん岩古の鉄壁の陣形をあんなに簡単に!?」
いや、倒したのは公権力だ皐雪よ……110番すれば誰でも倒せるぞ。
「鋼志郎くん、本当に強くなったのね……」
冬美さんも涙目で感動してるとこ悪いですが今回は通報しただけです俺。マジで何もしてません。
「ま、まあ、とにかく遠野大介さんのご遺体を確認しようじゃないか」
そこで零音の言葉で全員が我に返った。こういう時は部外者の言葉が本当に助かるんだ。ま、別名ツッコミ不在というんだがな。
「じゃあ零音、悪いが……」
「ああ、既に霊柩車は用意してあるから運転は俺が、お前は手続きを」
「助かる。真莉愛さんもお願いします」
甲斐夫妻に車の用意を頼むと俺は遂に大介おじさんの遺体と対面する事になった。
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尊厳破壊は最高です!! え? 伝統や誇りって全部ぶっ壊されるために有るんだよ?――その裏で俺は金と権力使って幼馴染母娘を奪います―― 他津哉 @aekanarukan
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