第32話「問題発生?」
「あの人……」
「千雪ちゃん、知ってる人?」
隣でスマホの箱を並べていた千雪ちゃんが俺の背に隠れるように皐雪と女を見ていた。顔を合わせたくない相手か?
「昔……私の父に襲われた人の奥さんです。お爺ちゃん達が止めに入ったけど旦那さん骨折しちゃって……母さんと謝りに行った時に会ってくれなかったんです」
「そうか……辛い事を聞いちゃったね」
後で皐雪に聞いたら被害者は把握してるだけで三十人以上いたらしい。男は殴り女は犯すというド外道で後で母さんにも詳しく聞く必要が有りそうだ。前に潜入させた情報屋より詳しいだろう。
「いえ、私は村に災厄を呼び込んだクズの娘で無能の巫女、ですから……」
「そうか……でも良かったよ」
「え?」
心からそう思う。これが岩古の巫女それも三役や補佐ましてや総代候補なんてなっていたら状況はより混迷していただろう。だが千雪ちゃんは皐雪と違い巫女認定を受けてない。つまり岩古家からは重要視されておらず狙われる心配は低い。
「それなら村にこだわる必要も無い……だから高校卒業したら俺の所に来ないか? なんなら転校して、すぐ来てくれてもいい」
「本当……ですか?」
「ああ、もちろん皐雪と一緒にね」
「あっ……そう、ですよね……」
実は全ての計画が失敗した場合は皐雪と千雪ちゃんだけは連れて逃げようと考えていた。だが今のところ全て杞憂で予定通り計画は進んでいる。そんな中、新たな問題が発生した。
◇
「え? 警察から連絡が?」
「ええ、司法解剖も終わったから、あの人の遺体の引き取りをと……ね」
スマホ押し売り大作戦から数日後の事だった。大介おじさんの遺体の引き取りについて冬美さんに警察から連絡が有ったのだ。しかし奥歯に物が挟まった言い方が気になる。それは隣にいた皐雪と千雪ちゃんも同じようだ。
「お母さん? どうしたの?」
「お婆ちゃん?」
さらに俺に視線を向けられ冬美さんは口を開いた。
「それが遺体の引き取りを当家じゃなくて岩古家がすると言って病院に明日行くと連絡が来て向こうも対応に困ってるそうなのよ」
「は?」
葬儀つまり神葬祭で何か有るとは思っていたが、まさか大介おじさんの遺体自体を狙うとは……予想されていた6パターンの中で最も低いと思っていた行動だ。
「リオン、分かってるな?」
「はい社長……パターン5への対応……ですね?」
「ああ今なら時間が有る。情報屋の調べで下の警察とズブズブなのは分かってる。そいつらの抑止と後は……」
「下の町の甲斐夫妻に連絡と相談を!!」
「ああ、任せた」
打てば響く流石は有能な秘書で俺の片腕だ。そんな俺達を見た後に千雪ちゃんは考え込んで思案顔になりリオンの後姿を見送っていた。
「ちゆ? どうしたの?」
「いえ、今のリオンさんの行動力が凄いって思って……完全に鋼志郎さんの事を理解してて良いなって……思ったんです」
少し頬を染めている千雪ちゃんの表情で俺は理解した。これでも世界ではそれなりにモテた方だ。ワンナイトばかりだったが高確率で良い雰囲気まで持ち込んでベッドインだった。その俺が断言する。千雪ちゃん……リオンに気が有るな。
「たぶん違うと思うよ、こうちゃん?」
「こら、頭の中を勝手に読むな皐雪」
幼馴染が勝手に俺の顔から脳内を読んだようだが甘いぞ皐雪。俺の勘はビジネスでは一度も外れたことは無い。だが問題はリオンは千雪ちゃんより十は年上だ。義理の父としては複雑だな。
「ゴホン、三人共それで今ので、あの人の体の件は?」
「はい、八割方は問題無いかと……大介おじさんのいえ、お義父さんの体は取り返しますよ冬美さん」
「お願いするわ……鋼志郎くん」
大介おじさんは最後まで俺の味方で村から送り出してくれた大恩人だ。その人の死に目にすら会えず危機も救えなかった俺だが……それでも最後はキチンと俺と皐雪の手で送ってみせる。
◇
翌日、俺は皐雪と冬美さんを乗せ下の町へ向かう。当たり前だが千雪ちゃんは学校だ。既に現場にはリオンと甲斐夫婦が先行していると報告が有った。何やら嫌な予感がしたと夫の零音の方から言われたそうだ。
「お父さんの体、大丈夫だよね?」
「ああ、任せろ……大介おじさんの遺体は必ず守ってみせる」
助手席の皐雪を安心させるために言ったが正直向こうに着いてみないと分からない。奥の手は有るが時間がかかるしリオンが上手くやってくれる事を祈ろう。
「うん、私も父さんに謝りたい事、報告したい事たくさんあるから……」
「そうね……あの人に謝らないといけないわね皐雪も……私も」
冬美さんも思う所が有るようだが今は病院に急行しなくてはいけない。奴らの狙いは分からないが何か問題を起こすのは確定だ。そして到着した俺達を待っていたのは岩古家の巫女たちだった。
「社長、お待ちしていました……少々、手間取っております」
「どうしたリオン? それに零音と真莉愛さんまで」
現場の病院に到着するとリオン達が病院前のロビーに居たのだが視線の先に居たのは岩古家の連中で次期総代の岩古雪そして他に分家の巫女が四名いた。
「ああ、こう来るとは思わなくてな……」
「うん、正直……ね」
助っ人夫婦まで頭を抱えている光景には俺も呆然とするしか無かった。
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