第四章「伝統潰しは最高です」

第31話「村破壊の切札はスマホ?」


「スマホ? ああ、こうちゃんが使ってる電話だよね?」


「母さんもテレビくらい見てるでしょ? 下の町でも皆使ってるから」


「そうだけど……村だと禁止だし、それに繋がらないし」


 ちなみに岩古村はガラケーですら一部の人間しか持っていないし、とある場所に行かないとバリ3にならないから固定電話が基本だ。何より皐雪が言うように電波が来てないからWi-Fi以前の話だと……昨日まではそうだった。


「だから工事を始めた。やしろの跡地は最初から基地局のためだったからな」


「社長……北と東の鉄塔の仮工事は順調です。それと例の物も間も無く到着します。一応は十台ほどの予定です」


 そこでリオンの報告が入る。更地にしたが建物はまだだ。どんなに速くても二週間以上はかかるし遅れも込みで最低でも一ヶ月は見て欲しいと現場から言われている。そこから更に稼働まで三ヶ月と俺は見ている。


「そうか五台で良いと聞いたが、必要なのか?」


「はい、万が一のことも考え二倍の量で対応します」


「分かったリオン、護衛は?」


 俺が頼んだ切札の一つだが当然ながら岩古の妨害を考え護衛が必要だ。その手配も抜かりは無い。


「実はグループからの委託で秋山警備保障を……あの方が一枚噛みたいと自ら提案されたそうで断れず……」


「そうか……ホントどこにでも出て来るな救世主様は……」


 だが秋山警備保障は武力という面では千堂グループの保安部以上だ。なんせ一部ので謎のオーバーテクノロジーの装備品を使う事でも謎多き会社と噂され魔法のような力を使うとまで言われているからだ。


「はい、あの方のご実家ですから……それに他にも多くの方からお声が……」


 リオンが出したタブレットにはアメリカの友人から寄付としてポンと五千ドル振り込まれてるし、とある件で知り合ったガキ共からも援助の提案が有り他にも多くの友から支援の声が届いているとリオンは言った。


「相変わらずだなフリッツの旦那も、あとガキ共には新婚生活に金は回せと言っとけ今度は二千万も稼いでやれるか分からんしな、本当どいつもこいつも……」


「これ全部こうちゃんの友達?」


 画面を俺の横から覗き込む皐雪に頷くと苦笑する。


「ああ、バカばっかでよ世界中で悪さやってる内に仲間になった。お前にも今度紹介する……それと来たか」


 そして目的の車が次々と到着する。小型のトラックやワゴン車が十台以上並んでいた。その後ろから大型のバスが二台付いて来ていた。人員が到着したのだ。




「たまにイベントで見るが借りれるもんだな移動基地局の搭載車って」


「千堂グループの保有する物で少し型が古いリサイクル品とのことで使い潰して構わないそうです。この村一帯ならば、じゅうぶんかと……」


 これは工事が終わるまでの繋ぎだ。今日からスマホも有る程度は村の中で使えるようになるって寸法だ。


「そうか……じゃあリオン、後は頼む。俺達はこっちでアレをやる」


 俺が言うとリオンが前に出て一団を迎え入れていた。詳しい配置と采配はリオンに任せている。なぜなら俺には別の仕事が待っているからだ。その一団を送り出すと今度は別の大型トラックが二台やって来た。


「いや~、社長どうもどうも~」


「お久しぶりです、坂崎部長……無茶振りしてすいませんね」


「いえいえ、我がヤマナ電気を助けて頂いた大恩人ですから、社長も全力で協力するよう申し渡されました、はい!!」


 日本に戻って来て数年し計画を練っていた時、会社を大きくする時に俺が投資し結果的に助けたのが中堅電機メーカーのヤマナ電気だ。規模こそ大手に劣るが、この村の人間全員に行き渡る程度のスマホを運んで来てもらうのは余裕だ。


「って、何をされてるんですか?」


 すると坂崎部長や一緒に運んで来た人間が次々と黄色い法被を着出していた。


「そりゃあもちろん!! 我々も販売にご協力します!! 山田社長は販売接客のご経験はおありで?」


「販売は……無い、ですね」


「なので我々がご協力します、社長にもそう申し付けられましたので!!」


 俺より十以上は年上の人に朝から露天商のマネをさせるのはどうかと思って断ろうとしたが部長以外のスタッフも全員がやる気で止めるのは無粋だ。


「そうですか……では感謝します。そうだ、紹介したい人間がいます、皐雪!!」


「な~に、こうちゃん!!」


 物珍しそうに眺めている遠野家のメンツの中で皐雪がソワソワしているから呼ぶとすぐにやって来る。


「こちら、このスマホの販売のための助っ人の坂崎さんとスタッフの皆さんだ。一緒に俺達も販売員するから挨拶しろ」


「初めまして遠野 皐雪です。こうちゃ、いえ鋼志郎さんの――――「彼女は私のフィアンセです」


「えっ、こうちゃん?」


 下手にボロ出す前に先手を打つ。やれ幼馴染とか寝取られたとか言い出しかねないから婚約者と言っておくのが一番だ。


「なっ!? 山田社長ついにご結婚を!?」


「ええ、近い内に籍を入れる予定です」


 そこで坂崎部長が、めでたいと万歳三唱したりしたから止めるのが一苦労だったが、こうして俺は、まず最初に反岩古つまり俺達に協力してくれる家にのみスマホをタダ同然で売った。そのスマホ代は全て俺の会社から出している。勝つためなら出し惜しみは一切しない。




「ふぅ、上々だな……」


 順調に売られて行くスマホを見て一安心する。これで様子見して成功したのなら次はスマホ以外の商品も村に入れ販売対象も山田家以外の反岩古の者にも売り始め俺達サイドのメリットを全面的に押し出す作戦だ。


「ありがとうございました~!! 次の人……あ」


「皐雪……さま、わたし……その」


 そんな事を考えていると皐雪の前に一人の女が並んでいた。どうやら知り合いらしい。見た感じ年下みたいだ。


「いいのよ気にしなくて私がバカだっただけだし、むしろ私のせいで……はい、これ、私のことは信じなくていいから、こうちゃんを信じて欲しいんだ」


「はい、今まで申し訳……ございませんでした」


 おそらく母さんに扇動され皐雪たちを追い詰めていた側だろう。だが皐雪が許すなら俺の出る幕は無い。

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