VI

 果てしなく続く緑の草原、輝く湖……植物たちの色とりどりの生殖器官が満開で、強い臭いを放っていた。村ではちょうど新しい水族館がオープンしたばかりだった。その施設は魚の数では全国4番目の規模を誇り、とくにそのサメのコレクションは世界有数らしい。水族館の正面玄関にベンツで乗りつけたアンを、村人たちは暗い不信と警戒の視線で迎えた。

「無知で愚鈍で貧乏な彼らを私が無限の愛で包んであげる。私がどれだけ彼らを愛しているかを知ったら、彼らは感涙に咽び泣きながら私の前にひざまずくわ。カスバート夫婦も剥製にしてよみがえらせ(金さえあればできないことは何もないのだから)、そして私たちはすべてを許しあうの。素敵……」

 アンはようやく自分が分別ざかりに達しつつあるのを感じた。灼熱のねばつく青春を超えて、成熟した大人たちの涼しげな世界へと一歩を踏み入れようとする自分。しかしその前に、そろそろ薬が切れてきたようだ。その証拠に、さっきから頭で考えたことをすべてペラペラと口に出して喋っていたようだ。村人たちのあいだに立ち込める不穏な空気でそれと分かる。やがて、ドクドクとこめかみを打つ熱い血液と共に、いよいよあの煮えたぎる偉大な青春が戻ってきた! アンは重い腕をあげ、みずからの動物性に対する最期の反抗のしるしとして、無差別にマカロフの引き金を引いた……

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アンの青春 荒川 長石 @tmv

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